八卦掌は対多人数戦専門の遊撃戦武術だから護衛武術たりうる

八卦掌は対多人数戦専門の遊撃戦武術だから護衛武術たりうる(対多人数遊撃戦拳法だから、大切を人を守ることができる)。これは、30年以上八卦掌と向き合い、考え続けて実践してきたうえで確信したことがだから間違いない。

この命題は、私の中では揺るぎない真実となった。師伝で「対多人数専門だから」と言われたから言っているのではない。人に言われだけのもので、断言などできません。よって、人が「それは違う」と言っても一切変えることもないし、考え直すこともない。

なぜこんなことをわざわざ言うのか?まず動機から。

それは、八卦掌を信じ、日々苦しい練習と向き合う優しき修行者を後押ししたいから。「対多人数戦専門の遊撃戦護衛武術・八卦掌」の言葉を信じて弊門をくぐってくれた有志を後押ししたいから。

守るべき人を守ることができず、どん底からここまでやってきて、その努力が報われた瞬間もあったり、うまくいかないこともあったり・・・そんなことを繰り返す中で、明確に確信した。この道を進みたいがために、流派のネームバリューにも、ライトポップな路線にも進まなかった。

その決断が様々な苦痛を招き寄せたが、今この瞬間も、しっかりこの道を進んでいる。

では確信している理由を。

敵側が多人数であっても、我が動き続ける以上、敵は誰一人として油断することができない。滑歩で移動する際の八卦掌の動きは、速さもさることながら、次に進む方向を読むことができない。

高機動力拳法であるゆえ、不意をつかれて逆を取られると、逆をとられて慌てて振り返っても、逆を取った先でも我は移動しつづけているため、とらえることは難しい。

敵は対多人数の有利さを活かすことができず、移動し続ける我に気を取られ、かつ警戒して気を抜けないため、八卦掌で戦っている護衛者が守っている「ターゲット」に近づく余裕がないのである。

分かりやすい例を話そう。「人を護衛するために八卦掌で戦う者は、太平洋戦争において艦船を護衛するために戦った戦闘機(ゼロ戦)と同じ」という話である。

航空機の出現により、艦船にとって空からの爆撃攻撃は大変な脅威となった。

太平洋戦争初期の日本海軍の爆撃機(主に中島99式艦上爆撃機の急降下爆撃)による攻撃命中率は、80%を超えていた。このセンセーショナルな攻撃能力によって諸外国は航空機攻撃の有効性を知り、日本艦船にも攻撃爆撃機の脅威が跳ね返ってくるようになった。

通常爆撃隊は、数十機の大編隊(時に数百機)で押し寄せてくるため、対空砲火だけでは、防ぎきることはできない。そこで、機動力に劣る艦船や爆撃機・雷撃機を守るため、戦闘機が大活躍したのです。日本海軍の主力戦闘機は、もちろん零式艦上戦闘機、ゼロ戦です。

ゼロ戦の戦い方は、その高機動力性から、旋回・急激転身・きりもみ旋回などでアメリカ軍の戦闘機や爆撃機を圧倒しました。その戦い方は、移動遊撃戦を採り、敵を翻弄し続ける八卦掌戦闘者そのものです。

日本艦船や爆撃隊を攻撃しようにも、ゼロ戦が飛び回って護衛している以上、アメリカ軍戦闘機はゼロ戦を無視できない。無視して艦船を攻撃しようものなら、対空砲火に加えてゼロ戦による追撃攻撃を喰らい、たちどころに撃ち落とされる。

よってアメリカ軍戦闘機は、まずゼロ戦を叩き、そののちに後続の爆撃隊に攻撃のバトンを渡す必要がある。しかし開戦当初のゼロ戦の搭乗員の技術はすさまじく、アメリカ軍戦闘機は歯が立たず、戦闘機も攻撃隊も多大な被害を受け続け、日本艦船に打撃を与えることができなかった。

※そこで、高機能レーダーの開発や、戦闘機の横で弾けるVT信管技術の開発などでアメリカ軍は挽回を図った

八卦掌で護衛を志す者は、この歴史の出来事を、修行の励み、そして参考としてほしい。

どこを「参考」にするか。それは、ゼロ戦の戦闘スタイルである。ゼロ戦は、搭乗員の操縦技術の高さと、機の高機動力性によって、護衛の目的を果たした。

高い技術による絶え間ない移動遊撃戦で、敵の戦闘機を圧倒し、敵爆撃雷撃隊を蹂躙し、日本海軍爆撃雷撃隊を守ってアメリカ艦船に対する空襲を支えた。

基本技術の徹底的な身体浸透化による操身技術と身のこなしで自由に動き回り、多勢にモノを言わせようともそのメリットを活かない移動遊撃戦に慣れていない敵を、移動遊撃戦の渦中に引きずり込み、ほんろうして、圧倒せよ。

日頃から「滑歩移動」の激しい身体流の慣性がかかる状況下で、技を打ち込む練習をし、通り過ぎながら突然打ち、すぐ離れ、違う角度・方向から打つ、を繰り返す。

息が上がることを恐れるな。息が上がっても動き続けることができる体力を、日ごろの練習で養うことだ。息が上がった状態で動き続けるための練習は、大変苦しい。しかしそこから目を背け、気持ちいい移動速度で練習しても、実戦ではすぐに捕捉され、役に立たない。

移動遊撃戦の土台は、有酸素運動の積み重ねによる基礎持久力だ。この基礎持久力は、年齢が70を越そうが、女性であろうが、身体の小さい者であろうが、積み重ねるならば、積み重ねていない者を圧倒する要素となる。

八卦掌は言い訳の効かない拳法である。日ごろから移動遊撃戦を練習していなければ、実戦で息があがり身体をコントロールできず使い物にならない。しかし、逆を言えば、日ごろから練習している者ならば、敵の身体的優位さを乗り越える可能性を味わうことができるのだ。

ゼロ戦たれ。ゼロ戦となって、あなたが守りたいものを守り切って見せよう。大編隊で飛んでくる思いやりのない敵を、移動遊撃戦の渦中に引きずり込んで、徹底的に撃退せよ。

「八卦掌は対多人数戦専門の武術だから護衛武術なのである」

辛い時は、この言葉を、私がしているように心の中で何度も唱え、大切な人を守っていこうぜ。

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