八卦掌水式門(以下「弊門」)のサイト中のいじめ護身部に、単招式(単独練習型)の「翻身拍打(ほんしんはくだ)」を掲載するために、準備している。
この翻身拍打、大変重要である。程廷華伝八卦掌では、八母掌?の「単換掌」で、この動きがみられる。
私が佐藤金兵衛先生の本を見て練習していた時、掲載されていた型で意味が分かったのは、この「単換掌」だけだった。
当時は、身をひるがえして、その展開力にて攻撃するための型だと思っていた(今になって分かったのだが、それも用法の内のひとつで、間違っていなかった)。
しかしこのひるがえしの動作は、昔日スタイル八卦掌の斜め後退スライド撤退戦(単換掌理)対敵身法の理で用いると、斜め後方から迫ってくる敵の攻撃をはたいて反対側の肩を入れつつ、推掌にて押し突き離脱する撤退戦用法にもなると気づいた。
この用法は大変シンプルで、後敵イメージ走圏が日頃から練習できていればいるほど、自然に決まりやすい、理にかなった使い方。
さすが八卦掌の最大流派の基本型として採用されている技だけのことはある(斜め後退スライド撤退戦対敵身法で用いている人はほとんど見たことはないが)。
その用法、その理に気づいてからも、変わらず練習をし続けていると、翻身拍打の動作の存在意義と練習する意義には、もっと大事なものがあると気づいた。
それは、八卦掌で使う急速な対敵行動の仕方のヒントとしての意義と、それを補う「身体軸」の開発練習法としての意義である。
八卦掌水式門(以下「弊門」)で指導しているスタイルは、対多人数を想定した、徹底した移動遊撃戦である。
移動遊撃戦の渦中たるや、「身体流れ」の横振り慣性のオンパレードである。ほとんどの人は、この過酷な慣性の壁の手前で挫折をしてしまう。
この壁を越えるのに、特別な身体能力は必要ない。やはりただただ、単換掌理の後退スライドの身法を、ショウ泥滑歩の中でも実行できるようになるまで繰り返すことだ。
そして、単換掌理による旋回・後退スライドの際、「翻身発力(ほんしんはつりょく)」という、身体展開の発力をもって、身体をコントロールしている。身をひるがえし、身体を(最小限の範囲内で)開き、その開いた勢いにより、行きたい方向へと身体を移動させる発力だ。
単換掌理の身法を外から見ていて、そこに翻身発力の存在を見いだすのは初心者や門外漢には困難だ。長い練習の果てに、単換掌理の後退スライドに、翻身発力が大きくかかわっていることを知る。
清王朝末期頃スタイル八卦掌の三大身法である、斜進翻身法・外転翻身法・内転翻身法は、それぞれが、メインで使用する発力がある。斜進翻身法は遊歩発力、外転翻身法は扣擺発力・内転翻身法は、翻身発力だ。
他の発力と比べて、翻身発力はやりにくい。遊歩発力は、スライド移動の流れの中で行うため、理解しやすい。扣擺発力も、外転翻身(敵に背を一瞬向けて転身する身法)のダイナミックな流れの中で、最初から思い切り練習できる。
内転翻身は、例えば、順勢掌理による平穿掌や双按連穿、遊歩連穿などの技の直後に、翻身拍打などの身を翻す動作を課すことで、身体流れの慣性の中で鍛えらえ、動作が洗練され、うまくなっていく。
しかし身体流れの慣性は、先ほども言ったように、想像以上に我にのしかかる。これを克服するのは容易ではない。ここは地道に、練習を繰り返すしかないのだ。
その地道なくり返しの中での、理解の指針となるのが、単招式「翻身拍打」である。型として決められているので、これをひたすら繰り返し、時に対人想定練習において、電信柱やサンドバックを相手に、一人戦ってみるといいだろう。
通り抜け直後の翻身拍打にて、敵と貼りつき・並走していくのを実行するには、繰り返すしかない。通り抜け直後、身体をコントロールするには、物理の法則に勝つ必要がある。物理の法則を克服する方法として、人間には、「慣れ」る方法が与えられている。
上級者向けだ、武術は一人で練習しても強くならない、そのやり方は私たちのやり方ではない、真伝から外れている、などのどうでも取るに足らないいちゃもんに目もくれず、圧倒的に繰り返せ。
呆れるくらい繰り返し、壁を乗り越え、何気なく身体コントールができている自分に気づいた時、周りの雑音なんぞ意味もないものであったと気づく。こんなどうでもいいもののために、挫折なんかしなくて本当によかった。つくづくそう思う。
翻身拍打に興味があるならば、今度上げる動画で、とにかくまねてみるといい。変なクセがつく?大丈夫、そんな簡単にクセなんてつかない。頭で考えず、実行せよ。その先に未来が待っている。
そしてわからなかったら、近くの先生の門を叩けばよい。それだけのことである。今は日本各地に、私を含め、八卦掌のマスターがたくさんいるのだから。