現在書籍を出版しているのは、商業出版を実現するためではない。商業出版など、単なる通過点である。私のような、一つの域に到達した者であれば、いくらでも、初心者が満足し得るような書を書くことができる。
書籍を出す目的は、全国、いや世界中の有志に、転掌の自分護衛の技術を普及させるためだ。自分護衛は、転掌におけるもっとも実現しやすくて、最も効果を実感できる段階。独習も可能である。
その初心段階は、初心段階であっても十分、我が身を守ることができるレベルまで引き上げてくれる。この初心段階を、真に使うことができる護身術を習う環境をもたない各地在住の諸氏に届けるために、書籍を発刊しているのである。
書籍発刊だけでは、書籍を利用した独習システムを構築するのは難しい。そこで、各書籍に対応した動画集をまとめ添削制度も導入することで、書籍購入者が視覚学習と対面指導学習の両環境を手にする機会を創造していく。
原初八卦掌たる転掌には、護衛の2段階があると触れたことがある。
対多人数マクロスライド護衛、そして対一人ミクロスライド護衛である。ミクロスライドは、敵の攻撃に当たらないが、自分が身体を入れて身体を逃がしながら打つと当たる間合いを維持しながら戦うため、大変高度な技法なのである。
逸れに比し、対多人数護衛は、マクロスライドで思い切り敵を引き離すため、絶妙な間合いを必要としない。「対多人数」という文字にとらわれると難しそうに感じるが、実はミクロスライドより初心者向けなのである。
その大きな理由が、対多人数護衛の技術の持つ「一人練習で技術を高めることができる」という要素である。
敵の手の届かない間合いで対処し続けるため、敵の攻撃を手わざのみで防ぐことがほぼない。よって練習でも、練習相手の手をつかんで○○する、という難解な目標を設定しないため、一人で練習できる。
練習が一人でできる、ということは、自分ひとりで、いくらでも練習できるのである。これは上達するうえで大きな力となってくれる。誰の気兼ねもいらない。誰の遠慮もなく、自分の都合のいい時間に、上達するうえでパーフェクトな時を過ごすことができる。
練習に、実戦のすべて再現する完璧な練習はない。たまにスポンジ支柱の動画を見て、「動かない的なんて練習しても意味ない」などとトンチンカンな批判をする人間がいる。よく考えて欲しい。完璧な練習なんてない。組手ですら、完璧な練習でない。
組手はそもそも、思い切り打ち抜くことができない。実戦を経験したことあるだろうか。実戦の極限の中で思い切り技を繰り出すと、わずか3~4発の攻撃でも、後々激しい筋肉痛になる。練習で同じ動きを、「思い切り」しているようにみえても、実はそうでないのである。
また組手は、相手に勝つことが第一となってしまう為、自分の拳法の独特のスタイルで勝つ意図が薄らぐ。結果、皆キックボクシングみたいな戦い方になっていく。すぐに「勝ったり負けたり」の状態にもっていけるからだ。
自分の拳法のスタイルにこだわれば、最初は勝てず、笑われ、みじめな思いをする。皆それが嫌で、自分の練習している拳法のスタイルに徹することをせず、安易にキックボクシングのスタイルに走り、勝ったり負けたり、の状態にもっていくことでとりあえず自分の面目を保ち、目先の安心を確保する。
しかしこれでは、いつまでたっても自分(の取り組んでいる拳法)のスタイルを極めることができず、「勝ったり負けたり」の状態で時間を過ごすことになる。自分に自信を持つことができない。達人の境地には、自分にスタイルに自信を持つことで初めて、到達することができるのに。
話を戻そう。それぞれの練習にはある一定の技術を伸ばす狙いがある。例えば
- 間合い感覚をつかむためには、移動遊撃戦で身体を振りまくった後に、通り過ぎながらスポンジ支柱を正確に打ち抜く練習
- 動作を身体に染み込ませ持久力を養うために、伝えらえた基本型を、中程度の速度で繰り返す練習
- 敵から急速に身をかわしながらバックスライスする技術を磨くために、打ち寄せる波を使って身体を急速移動させながら後方打ちをする練習
見てお判りの通り、その練習をする目的は全く異なる。それぞれの練習をバランスよく行っていくには、一定の時間が必要となる。練習をするたびに人と時間を合わせる必要があるならば、練習場所に立つまでに大変な手間を要する。現代人は、各自が多くの要不要な「すべきこと」を背負うため、忙しいと思ってしまっている。それを言い訳に、練習にも参加してくれない。
目的の異なった複数の練習をこなすためには、定期的な練習時間を確保し、取り組んでいく必要がある。毎日取り組むためには、毎日、気軽に、何かしらの練習に取り組むことができる環境(ルーティンシステム)を作っておく必要がある、ということである。その土台となるのが、「一人練習で技術を高めることができる」という要素なのである。
独習システムは、一人練習のみに頼らざるを得ない全国諸氏の技術向上に大いに貢献する。私は、システムによって広がった転掌の土壌の中から、各地で伝承を担う者の出現を確信している。伝承を担う者を確保することは、世界武術へと発展していくための大きな要素なのである。