清朝末式八卦掌三大武器術の習得で、女性護身術を完成させる

八卦掌水式門(以下「弊門」)では、武器術を大きく3つに分け、それらを必須武器術として指導する。

弊門における三大武器術は、以下の通りだ

・八卦刀術(はっけとうじゅつ)
・八卦双身槍術(はっけそうしんそうじゅつ)
・八卦双匕首術(はっけそうひしゅじゅつ)

八卦刀術は、110センチの長さの、一般刀術にくらべやや長めの刀を使用する

八卦双身槍術は、200センチの長さの長棒の両端に、10センチ程度の刃た付いたもの。

八卦双匕首術は、30センチくらいの刃物(要はナイフ)を用いる。

なぜ、これらの武器術を習う必要があるのか?それは、「護身術=我が身を守り危機から生還するための方法」であるから。ただ一つの目的「生存」のために、あらゆる手段を尽くすものであるから。

「あらゆる手段」には、自分が何かしらの武器を持って対抗する、という選択肢が当然のごとく含まれる。「あらゆる手段」には、「敵よりも有利な条件に持ち込んで戦う」という対抗方法も含まれる。

有利な条件・・・それは、相手が素手でも、こちら側が素手で対応しない、相手が何も持っていなくいなくとも、何かしら武器になりそうなモノが転がっていれば、それを武器にして対抗する、という好条件作成作業が含まれる。

敵の武器がナイフなら、我は、それよりも長いモノを手に取って、遠くから打ちのめす。だから、双身槍術まで必須であるのだ。ナイフだからナイフで・・・ではない。

意外と多くの修行者が、各武器術を練習する際、「敵は自分が持っている武器と同じ武器を持っている」と無意識に想定している。

相手が素手なら、我は、まず双身槍(長い棒)で戦う。双身槍がないなら、八卦刀(90センチ程度の棒)で戦う。八卦刀がないなら、双匕首(30センチ程度の棒2本)で戦う。双匕首がないなら、着ている服を脱いで、もしくは、持っているカバンを手にもって、果ては鞄に入っているタオル、マフラーをもって、八卦刀術の術理で振り回し、対抗する。

そういう考えを持つのだ。素手で対抗、など、もっとも最悪の、他に採るべき方法のない最終手段なのである。常に、どのような武器を使うことができるか考える。そして、どのような武器であっても、八卦刀術・双身槍術・双匕首術を練習しておけば、使いこなすことができる。

正々堂々と同じ条件で・・・は、いかにも日本武術らしい考えだ。中国では、間違っても「敵に塩を送る(※1)」ことはしない。

※1:上杉謙信が武田方に塩禁輸策を採らなかった逸話である。謙信は、今川・北条の塩禁輸策に苦しむ武田方に塩は送ってないが、武田方への塩の禁輸策・塩の価格高騰策は意図的に採らなかったため、そこから「塩を送る」という美談的故事が生まれたのだろう。

中国では、正々堂々と戦う、という発想は、「宋襄の仁(※2)」の故事になぞららえられ、笑われる。

※2:中国春秋時代、宋国の国王・襄公(じょうこう)が南方の強国・楚国軍と対峙したとき、襄公の息子である目夷が、敵の布陣の乱れがあるうちに先制攻撃を仕掛けるよう進言したが、襄公は「君子人の弱みにつけこまず」と言ってこれを退け、楚国軍の陣形が整うまで攻撃命令を下さず、その後、敗北した、という逸話。

以前「八卦掌は、冷酷な中国護身術」という記事をアップした。上記で説明した「相手が素手なら、こちらは武器を手に持ち徹底的に打ちのめして護身せよ。少しでも有利な条件で戦い、圧倒せよ」という考えは、護身術として大変重要な考えであるため、必ず頭に入れておいて欲しい。

この知識こそが女性護身術の成功のカギともなる。弊門以外で護身術を習っている女性の方は、ここでしっかり、武器術を習うことの大切さを理解してほしい。そして、今すぐにでも、武器術を練習に採り入れてほしいのだ。

大切なのは、特定の道具(例えば、スタンガンや催涙スプレー)を扱う練習をするのではなく、どんな道具でも扱うための土台的な身法を身につけるのことだ。

  • 基本姿勢走圏
  • 対敵イメージ走圏
  • 敵に背を向けないで行う後退スライド対敵身法
  • 敵に背を一瞬背を向けて行う後退スライド対敵身法
  • 前の敵にスライドして回避しながら攻撃しつつ去る対敵身法

これらは、「どんな道具でも扱うための土台的な身法」そのものである。言い換えれば、清朝末式八卦掌は、身の回りの、武器になりそうな道具を、意のままに操るための拳法と言えるのだ。

逃げる、といって、カニさん歩き(横歩き)を、ステップをして行っているようでは、たちどころに捕まってしまう。そうではなく、一番速く移動できる身法、敵の追撃をかわす後退スライドの身法を身につけること。その土台があって初めて、特定の道具が活かされるのである。

この前提知識をもって、各主要武器術を練習する意味を述べていく。

八卦刀は、八卦掌の原型となった、太平天国の乱当時の、藤牌営兵(※3)の戦場刀術に関係している(諸説あり)。

※3:片手に藤(とう)の牌(はい・盾のこと)を持ち、もう片方で90センチ超えの片刃の刀を持った、最前衛の盾歩兵のこと。

この戦場刀術から、八卦掌の原型である「単換刀」が生まれ、「単換刀」から「単換掌」ができ、主要転掌式(後方スライド転身撤退戦の身法)となり、主要転掌式から、逆輸入の形で、八卦刀術が生まれたと推定される。

中国片刃刀は、日本刀と違い、重く、刃がそれほどトキントキンに研がれていない。重たいものを敵にぶつける、という意識が強い(人数が多いため、研ぎ切れ味を維持する、という作業ができないから)。

その重たい武器を、宦官(かんがん・去勢された男性官吏のこと)であった八卦掌創始者・董海川先生が、「弱者でも操ることができるためにはどうしたらよいか」の発想から生み出したのが、単換刀である。

後方敵へ刀を振り回してけん制し、後方へ移動しながら身体移動で持ち上げ刀の下をくぐって我の身体を移動させ防御しつつ、くぐり終わったら、重さを利用して、追撃で突出した敵の身体に、刀を当てるのである。

この動作では、重い武器を動かさない(動かせない)かわりに、自分自身が移動して角度をつけ斬りシロを作って、その場から斬りつけ動作を行う。武器を振った際、我の身体をその場から移動させないとどうなるか?

刀を持ち上げたりしないと、再び斬りつけ動作ができないのだ。重い刀を、その場にとどまった状態で上げるには、大きな腕力が必要となる。宦官や女性には不可能であるのが想像できるだろう。

八卦刀術の中でも主要中の主要術である、「按刀(あんとう)」と「陰陽上斬刀(いんようじょうざんとう)」は、重い刀を身体で振り回すために、とにかく身体を移動させる。刀を持ち上げるために、5~6歩近くも移動するのだ。その「移動」こそが、八卦掌における防御となる。その場に止まらないために、敵の攻撃から常に離れ続けることができ、敵の攻撃間合いから身を避難させることになるのだ。

清朝末式八卦掌を知らない人間は、この「移動」をどうしても「防御」と認識することができない。「逃げてばっかり」として、その術理を採り入れようとしない。

結果、相手が屈強でも、技術が上でも、果ては男性でも、敵前にとどまって技で真っ向から受け、手数で圧倒された際、身体に攻撃を喰らい、敗北するのである。

主要刀術を練習することで、「技のたびに移動しながら行い、止まらない」術理が身体に入り、後退スライドによって敵の力と真っ向からぶつかることがなくなり、撤退戦によって身体を守りつつ、攻撃ができるのである。

八卦双身槍術は、対多人数の敵中を移動し続ける際の防御から生み出されている。柄の中心部を持ち、移動しながら通りすがりの敵に、柄の先端部分をぶつける。

演武で見られるような、複雑な取り回しは必要ない。必要なのは、八卦刀術で習った主要刀術操法を、双身槍を使っても同じように実行できる能力だ。

この能力の土台のもとに後退スライドすれば、後退スライド時の転身動作によって双身槍の先端部分が大きく孤を描き回って勝手に敵に当たり、敵を殺傷する。もしくは当たらないにしても、敵は回転する槍先によって、近づくことができず、足を止めることになる。

主要刀術の中でも、按刀・陰陽上斬刀・背身刀の動きをそのままに行う。それくらい、八卦刀術と双身槍術は密接に結びついている。

よって、八卦刀術術理を身体入れた後に取り組むと、実にスムーズに体得できる。弊門で、八卦刀術を理解した後に双身槍術を指導するのはそのためである。

八卦双匕首は、もっとも射程距離の短い武器である。敵が素手の場合のみ、その優位性を発揮する。射程距離が短いため、敵の胴体などの中心部分を攻撃すると、攻撃時我の身体が必要以上に敵に近づいてしまうため、危険である。

ゆえに、遠い間合いから、末端部分を、移動で敵の照準からずらしながら狙って、斬る。斬って失血死をねらう。そういう意味で、目的の明確な冷酷な護身法である。

棒であれば、敵の血管を斬ることはできないが、末端部分をねらうことで、武器を落としたり、腕を使えなくさせることは可能である。棒であるメリットは、振り回しても自分が傷つかないことだ。よって、思い切り速い速度で、手返しよく、ためらわず攻撃できる。

ナイフなど、そもそも持ち歩くことはできないし、あったとしても、一般人はそれで人を斬りつけることにためらいを感じるものだ。法律上も、過剰防衛・殺人罪の可能性が生じる。その意味で、双短棒術として練習することは、現実的護身術を習得するうえでの魅力ある選択となる。

短いリーチで末端部分をねらうため、間合いには大変気を遣って練習することになる。その気遣いこそが、各武器における間合いの間隔を養うのである。

武器術は間合いが重要である。短い武器ゆえ、他の長い武器でおろそかになりがちな間合いの感覚習得の練習に向き合うことができる。

八卦掌水式門富山本科イメージ

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