歩法教授(序):いじめ連中に捕まらない真の護身を実現するための基本歩法とは?
練習してほしい歩法は5つ
徹底した移動遊撃戦を特徴とする八卦掌では、すばやい移動を可能にする歩き方(歩の進め方)が大切な基本として伝承されている。その中で最重要のものは、ハイ歩・コウ歩・滑歩(かっぽ)である。
ハイ歩・コウ歩は、主に特定の単式練習(一つの技だけで構成されている型の反復練習)である「単繰手」で学ぶ。滑歩は、移動遊撃戦時の、現実的速さの中で使用する歩法である。
※八卦掌で有名な「ショウ泥歩」が早歩きになったのが滑歩となる。よって、走圏をゆっくり練習するときは、大股で歩きながらショウ泥歩という形で歩く。しかし平らに上げ、平らに下ろしながら大股で歩くだけでよい。演武のように、滑らせる動作を強く演じなくてもよい。そのような動作をとる時間は、移動遊撃戦ではないからである。
改めて、ここで学習する予定の歩法を以下に挙げておこう。
- 擺歩(はいほ)
- 扣歩(こうほ)
- 退歩(たいほ)
- 滑歩(かっぽ)
- 遊歩(ゆうほ)
- 点歩(てんほ)
- 跟歩(こんぽ)
八卦掌の修行過程においては、基本学習時に練習する歩法は、擺歩・扣歩がほとんどである。よってこのふたつの歩法が自然・無意識に出るようになるまで練習する。
近代八卦掌の修行者は、組手(対人で自由に技を繰り出しあう試合形式の練習。中国拳法では「散打・さんだ」という)においてもこの歩法をベースに戦うことになるだろう。当門のように、移動遊撃戦の場合、擺歩扣歩は、斜め後方スライド身法で使うことになる。
点歩は、擺歩扣歩を用いた斜め後方スライド身法の技術が高まれば、自然とできる(自然と行っている)状態となる。斜め後方スライド身法はシンプルな身法なれど、できるようになるまでには時間もかかるため、修行初期、補助的に練習する。
跟歩は、接近戦の際に、敵に素早く身を寄せる一環において便利となるため、初期段階で練習する。斜め後方スライド身法ができるようになると、そもそも常に歩き続ける状態となるため、さほど使用することがなくなる。
歩法の具体的な練習方法
八卦掌の戦闘スタイルを念頭においた基本歩法の練習の仕方を示す。
(1)擺歩・扣歩・退歩の各歩法ごとに単独で動作をまねてみる。そしてまねることができたら、次は連動練習へステップアップする。擺歩・扣歩・退歩の動作を、連動練習にて流れの中でも行うことができるまで、身体で覚えるのだ。連動練習は繰り返し行おう。速さにこだわることはない。なめらかにとぎれることなく行うことを心掛けよう。
(2)連動練習をしながら、滑歩は単招式「滑歩外転」で、遊歩は「遊歩連穿」で、練習していく。技の練習は難しいかもしれないが、どんどん練習していこう。実戦では、技のキレイさなんて関係ない。相手の動きに対して、しっかりと自分の身体をコントロールして逃げたりすることができる能力こそが必要なんだ。
(3)ここで八卦掌の中核である、単換掌理の「斜め後方スライド身法」を練習していく。八卦掌を極めるならば、この身法に多大な時間をかけるものである。しかし君は時間がない。よって、手を下げた状態で空胸だけを意識し、その状態で、「内転翻身斜め後方スライド」と「外転翻身斜め後方スライド」を練習していく。
(4)「構え」の姿勢で後方スライドの練習をする。後方スライドの要点は、「収縮から展開」である。その動きを邪魔せず、かつ体力を温存できる構えはただ一つ。「両手をだらんと下げた状態」だけである。
(5)その状態で歩法の練習を重ねる。敵の攻撃を手でさばくのではなく、身体の移動で大きくさばき、補助的に手でガードする、というイメージである。その時、だらんと手を下げ、空胸がなされ、収臀が行われ、身体が丸みを帯びている状態こそが、敵に捕まりにくい状態である。
歩法教授(1):擺歩と扣歩はなぜ重要なのか。その理由と練習方法。
擺歩・扣歩・退歩は、八卦掌の技法を用いて敵と攻防を繰り広げる際に、それらがなくては動けないくらい、ごく自然に、無意識のうちに多用される歩法である。ここでは、各歩法を分解して、しっかりと練習していく。
先ほども触れたが、擺歩と扣歩を練習する最大の目的は「単換掌理」の「斜め後方スライド離脱」を円滑に実行し、敵に捕まらないスキルを身につけること。
当門で指導している清王朝末期頃の対多人数移動遊撃戦の八卦掌では、「敵に捕まらない」ようにする=「敵に容易に近づかせられないようにする」ことでもあるのだ。
よって近代八卦掌の考えている扣歩の意義と大きく異なる。移動遊撃戦の八卦掌では、「引っかける」の意義は大きく薄らぐ(成り行き上、引っかけることもあるが、滅多になくなる)。
扣歩は、斜め後方スライド離脱の際の、収縮⇒転身の際の歩法として、擺歩とともに連動して、無意識の中で、自然と流れるように用いられるのである。
擺歩(はいほ)
八卦掌における代表的な歩法となる。移動時の方向転換、敵前で体の向き変換、敵の側面に入る時、敵のスネや膝を攻撃する場合、相手の下段蹴り攻撃を受ける際に用いる。
.八卦掌の口伝では、「扣歩なくして転身するなかれ」という掌伝(秘訣のようなもの)が伝わっている。転身の練習をしてみると分かるが、扣歩して身体に生じたねじれを解消しながら転じる際は、擺歩の動作も欠かせないのだ。
よって口伝は、「扣歩(擺歩の連動)なくして転身するなかれ」とも言い換えることができる。それくらい、擺歩は必須の動作なのである。
通常、そのコウ歩とともに用いられる。ハイ歩で後方の敵方向へ体の向きを変え、後ろにある足をハイ歩した足の前方までスッと一気に移動させながら攻撃する、という形態がよく使われる。
また、前の足を体側に引き寄せる動作は、相手の攻撃を足の足背部で受ける意味を持つ。また、後方に引き上げた足を前方に下ろす動作は、相手の足を蹴る、スネ部分をこする、という攻撃としての意味を持つ。
このように、移動・防御・攻撃を含んだ擺歩は、単純な動作ながらも、実に多くの意味を持つ。
そのことを頭に入れつつ、擺歩の練習をしよう。まず両足を動画のように固定する。そのうえで、顔が向いている方の足を逆ハの字に引き上げ、そのまま下ろす。下ろす際は普通の速度で下ろす。
実戦においては、相手の足スネをこする場合や、相手の足指を踏みつける際は思い切り下ろす。しかし思い切り下ろす動作は、対多人数移動遊撃戦において「勢・せい」(移動推進力)をさまたげる要因ともなるため、すっと普通におろす(移動歩法の一環として下ろす)のが基本となる。
しかし、いじめの暴力と戦う際は、接近戦における混戦になることもあるため、擺歩も扣歩も、接近戦時の使い方を頭に入れて練習しよう。
扣歩(こうほ)
扣歩の説明をしよう。まず動画を見てほしい。後方の足を、前足の前に移動させる。その時、足で何かを引っかけるかのように孤を描きながら前に送る。
「扣歩」の「扣」とは、「かける・とめる」という意味を持つ。
対一人眼前攻防の近代八卦掌の実戦においては、相手の足(通常は相手の前足が多い)を払ったり、相手の足のかかとの後ろに移動させて、手で押しつつ足を払ったりするため、大変重要視される。
講道館柔道では、相手の脚を引っかけつつ崩すような技(小内刈り)が見られるが、ちょうどあのような感じである。眼前攻防スタイルの、敵と接近した状態において効果を発揮する。
「扣」にはもうひとつ、「かぶせる・ふたをする」という意味もある。
攻防において、自分の前足の前方に扣歩で後ろ足を送りかぶせたり、相手の前足側面にスッと扣歩で脚を送り込んで、回り込んだりする。
前足をじっと止めた状態から扣歩を練習するのもいいが、八卦掌は遊撃戦の拳法であるため、歩く中で扣歩を練習したほうがいい。動画では、前足が小さく擺歩をしてから、後ろ足を扣歩で前方へ移動させている。まずはこの動作を練習してみよう。
扣歩をゆっくりと練習して、擺歩・扣歩の動作を覚えたら、次は擺歩→扣歩→擺歩・・・のループ練習をして、動作の習得と、擺歩扣歩が連動する滑らかな足さばきを学ぶ。
退歩(たいほ)
退歩1・体の向きを変えないで後方に移動する場合の退歩・敵が一人の場合に使用
退歩には大きく分けるならば2つある。ここで説明する、敵が一人の場合で相手を見ながら後ろに下がる場合の退歩。もう一つは、後方の敵方向へ振り向きながら下がる(移動する)退歩である。
体の向きを変えないで後ろに移動する場合の退歩では、下げる足のつま先の向きは当然変えない。下げる足を水平に浮かせ、ホバークラフトのように地面に平行に移動させ、身体もそれについていく。
足を水平に上げ、地面に平行に移動させる動作は、「平起平落(へいきへいらく)」と中国拳法の世界で呼ばれる重要な動作要訣である。これは教程2の「走圏」で詳しく説明しよう。
退歩2・体の向き変えながら後方に移動する場合の退歩・敵が複数人の場合に使用
複数人を相手にする場合、眼前の敵に一手・二手・三手・・・と時間をかけていると、後方から迫った敵に背中・側面を攻撃されることになる。
かといって眼前の敵に一手のみ攻撃をしてそのまま後方に振り返るならば、眼前の敵に対するプレッシャーが低すぎるゆえに、後方に振り返った直後に(眼前の敵に)背中を攻撃される事態に陥る。
よって、眼前の敵に対して、二手(場合によっては三手)を撃ってけん制しながら後方へ移動しつつ後方への敵に向かう準備をすることが有効となる。その場合にこの退歩は多用する。
後方へと足を進めながら、その足のつま先を後方側へ転回させ、その動きに連動して上半身も後方側へ転回させる。そうすれば、転回させながら後方の敵への攻撃も可能となり、無駄もない。後方の敵は奇襲を喰らう形になる。
相手が多人数の時は、この歩法を多用する。この歩法がないと、戦闘を組み立てられないくらいである。
補助歩法1:点歩(てんほ)
いじめなどの暴力にさらされている場合、走圏を練ってそれが効力を発揮するまでの間、即効性のあるステップで暴力に対処しなければならない。そこで遊撃戦八卦掌の変幻自在な動きを支える歩法の一つ、点歩練習が役に立つ。
動きたい方の脚の反対側の脚を上げ、そしてその脚を下ろすと同時に動きたい方の脚を浮かせ、行きたい方向へスライドさせる。これが意外と早く動くことができるのだ。
まるでスキップするかのように、片足をわずかに動かしたと同時にもう一方の足を今いる場所から大きく離す。その居着かないための歩法であるが、すばやく最初の一手を出す際にも使われる。
最初はゆっくりでいい。脚を上げて、下ろして、下ろしたらすかさず動きたい方の脚を上げ、スライドさせる・・・という感じで、独りで動作を確認しながら練習してほしい。すぐに(3日もすれば)慣れてくる。
補助方法2:跟歩(こんぽ)
コン歩を習得することがなぜ必要なのか?理由と技術
コン歩は、形意拳を代表する歩法の一つである。形意拳の大きな特徴ともなっている。
動画を見てもらいたい。前足を前に進めると同時に、後ろ足もすかさずついていき、歩を進める前の姿勢に戻る。本来の形意拳の修行であれば、「三体式」という姿勢を取り、その状態から歩を進めつつ上半身・手が動き、前足着地と同時に技が終り、そして前足着地とほぼ同時に後ろ足をコン歩で寄せて、一技が終了する。
なぜこのような歩法をするのかというと、技を打ち終った直後にコン歩で脚を寄せてないと、前足重心の不安定な状態をもって相手に吹っ飛ばされてしまったり、打ち込んだ手をつかまれて引っ張られ、重心を狂わされてしまうことなどがあるからだ。
また、技を素早く連続して打ち続けるためにコン歩で後ろ足を前足に寄せる、という意味も持つ。コン歩しないで連続して打ち続けることもできるが、その場に居着きやすくなり、相手の攻撃の的となる可能性がある。また、前足重心の状態ではそれ以上の踏み込みは労力を使うため、身体の推進力を使った攻撃がしにくくなる。
コン歩を練習する際は「三尖相照(さんせんそうしょう)」を心掛ける
次の動画を見てほしい。正面からコン歩を演じた動画である。演者がコン歩をする前に、頭上から地面に向けて手を手刀で下ろしている。これは、「三尖相照(さんせんそうしょう)」という中国拳法の複数の流派で説かれる姿勢の要求事項を示している。
鼻と膝頭(皿の部分)と前足のつま先が、上から振り下ろした一直線上にならんでいることを言う。動画を再度よく見てもらいたい。振り下ろしている手が描く一直線上に、鼻先・膝頭・前足つま先がある。
形意拳では、全修業期間を通して「三体式站椿功(さんたいしきたんとうこう)」という姿勢を取って、この三尖相照を含めた様々な姿勢要求を満たすための練習をする。初心者は、この練習しかさせてもらえない場合もあるほどだ。
「三尖相照」を守る意味は複数あるが、ここでは、股間の急所(金的)を守るため、と覚えておこう。金的は実際の格闘では攻撃しにくいが、当たると戦闘不能となり、致命的である。それはいじめにおける戦いでも同じことである。歩法による身体操作で相手の攻撃をやり過ごしていても、金的に一撃をくらったらそこでおしまいである。身体は止まり固定の的となり、集中攻撃を受けてしまう。
三尖相照で常に膝を閉め、股間を守る意識を得ると、全方向に移動した際も、無意識に膝を閉めるようになる。移動しつつ重心の安定を図りつつ急所の防御をし、移動し続けることによって相手より優位な場所に立つのだ。
コウ歩・ハイ歩・退歩とともに、このコン歩で得た移動しつつの防御の意識は大事にしたい。
歩法教授(2):歩法(擺歩・扣歩・退歩・跟歩)の連動練習・基本編~正確な技術と足の運用方法を学ぶ
連動練習の基本編である。八卦掌の歩法を習得するために必要なこととは何であろうか。それは、様々な歩法を組み合わせてステップを刻み続け、かつその動作が滑らかになるよう意識しつつ繰り返すことである。
対多人数移動遊撃戦における歩法の主役は、あくまで滑歩と遊歩である。しかし教室内での戦いでは大きく移動できない場合もある。その際は、相手の近くにおいてステップによる変化攻撃をすることも必要となってくる。そこで、この連動練習が効果を発揮する。
連動練習をある程度積み重ねると、歩法の順序に決まりはなくなり、その時に応じたステップを刻むことができるようになる。そもそも八卦掌は、千変万化の拳法であるため、突き詰めると、型というものから離れ、自由に動くことになる(他の拳法でも同じ)。
しかし初心者にいきなり「千変万化に自由に動け」と言ってもできるものではない。技術に習熟していない者にとって「自由に動け」はかえって難しいのだ。そこで「基本の型」が役に立つ。歩法の練習にも複数の歩法の「基本の型」がある。初心の段階では素直にそれらの型を練習して、一日も早く「慣れる」ことを目指そう。
型を練習することで、歩法のパターンを体で覚えることができる。ここでは、以下の3つの連動動作の型を示すことにしよう。先ほども言ったが、最終目的は「移動遊撃戦」であるが、接近戦におちいることも想定して、ここで連動練習の型をしっかりと学習していこう。
- 退歩連動
- 連歩(快歩)連動
- 後半斜連動
ここで教授するものは繰り返し練習し、考えずとも勝手に身体が動くくらいにまでなって欲しい。最初は動画を参考にして動作を真似て、その後は速度を上げずに滑らかにできるようにしていく。滑らかにできるようになったら速度を若干上げていく。時折、ゆっくりと練習し、正確な動作を確認する。
歩法の連動練習1:退歩連動(たいほれんどう)
連動練習の基本型である。難しく考える必要はない。動画の基本動作(0:00~0:40 )をまねて、とにかく慣れよう。
スピードよりも、各動作を、メリハリをつけて行うこと。動画中でも、スピードより動作を大きく行うよう心掛けているのが分かる。
(1)擺歩:前足を腰に引き付けるつもりで引き上げつつ逆ハの字で上げ、そのまま下ろす。
(2)扣歩:後ろ足を前足の前にコウ歩で移動させる。前足に後ろ足をかぶせる(覆う)ようにサッと移動させる。
(3)退歩:退歩で後方へ移動。
(4)跟歩:退歩の足が着地したと同時に、前足を後方へ移動させ始めの姿勢に戻る。
歩法の連動練習2:連歩(快歩)連動(れんぽれんどう・かいほれんどう)
前に二歩進んでから、扣歩⇒擺歩にて転身する動作である。単招式「進歩穿掌」~回身式の「回身老僧托鉢式」の動作の足のみ版練習となる。
(1)連歩:快歩ともいう。連歩の際は、止まることなく流れるように、一気に前に進めること。形意拳における馬形拳(ばけいけん)の歩法ともなるため、馬快歩(ばかいほ)と言う人もいる。
(2)扣歩:一歩、二歩と歩いた後の三歩目に扣歩する。連歩の後の扣歩ゆえ、扣歩による身体のねじれ度合いも大きくなる。
(3)擺歩:扣歩によって身体に生じたねじれを、大きく擺歩して身体を後方へ展開させることで解消する。この「ねじれ解消による展開」力が、八卦掌の3発力法「扣擺発力(こうはいはつりょく)」となる。ここでは、つま先を後方へまっすぐ向けて着地する(通常の擺歩のようにハの字で着地させない。実際に使用する際は、振り向きざまにハの字で相手の足を攻撃したり、足技を受けたりする※動画1:13~)。
(4)跟歩:退歩の足が着地したと同時に、もう一方の足を、先に移動させた足の後ろにすかさず移動させる。次の攻撃に移る際に後ろ足が寄せてあると、すばやく動作に移行できるためである。上述したように、擺歩~跟歩の後は、三尖相照状態で終わること(その状態が無意識でできるまで繰り返す)。
歩法の連動練習3:後半斜連動(こうはんしゃれんどう)
後半斜連動は、当門で「八卦掌の中核」と位置づける「単換掌理」の斜め後方スライド身法の変化形でもある。
後半斜連動では、後退スライドの後、前方向へ大きなU字を描くがごとくに擺歩する。やってみると分かるのだが、大変体力を使い、かつ、素早く動くことが難しい動作である。
自分の身体に生じた慣性に真っ向から抗する動きのため、実戦ではあまり行わない。特に、対多人数移動遊撃戦のように、後方に敵がひかえている可能性があるシチュエーションでは、この歩法によってその場にとどまることは、後方敵に捕まることを意味する。
単招式「風輪劈掌」の基本練習において使用する歩法である。
単換掌理による風輪劈掌では、擺歩で小劈~大劈で防御攻撃しつつ扣歩⇒擺歩で後方へ大きく展開しつつ内から外への大劈で後方離脱する。
動画はある程度ゆっくり、U字軌道が意識できやすいように大きく行っている。練習時はこのように大きく練習すること。
歩法教授:単換掌理にもとづく「斜め後方スライド歩法」
『歩法教授:単換掌理にもとづく「斜め後方スライド歩法」』は、対いじめスライド離脱の身法|多敵に負けない撤退戦・電撃戦 のぺージに移動しました。
歩法教授(3):歩法の連動練習「対物対人想定練習」~目標物を置いて敵の側面に回るイメージをつかむ
目標物を目の前に置き、それを相手と見立てて、連動練習をする「対物対人想定練習」を説明していく。これは、相手の側面に回り込むイメージをつかむいい練習ともなる。目標物を何も置かずに練習することは、対敵のイメージを維持することが困難で、かつ集中力も切れやすい。
対一人敵前変化攻防の近代スタイル八卦掌では、対物練習において反復練習をしてステップ力(方向転換時瞬発力・瞬発系持久力)を養う。私も、近代スタイルを練習していた頃は、ひたすら対物対人想定練習に時間を割いた。
しかし実戦では、動画中のように動作の速度を上げたとしても、簡単に側面になど回り込むことはできない。相手を中心に置き、その側面に歩を進めるならば、相手は移動した方向へ少し向きを変えるだけで、こちらの攻撃に対することができるからだ。
よって、対物対人想定練習は、緊急時の眼前変化の際の練習だと割り切ってほしい。武術の技術が乏しい弱者が強者に対抗しうる唯一の手段は、やはり歩法教授(3)で示した、単換掌理にもとづく「斜め後方スライド歩法」による敵と力がぶつからない身法なのである。
あえて側面ステップで対抗するならば、一歩で敵側面に回り込もうとしないこと。一回の側面への進歩で、相手の側面に回り込むことができることなど、滅多にできないからだ。連続して歩法でステップを刻み続けていくと、時に相手を崩しやすいポジションに位置取りをすることができる。
目標物を置いてその側面に回り込む練習は、多くの拳法家が実践しているシンプルで効果的な練習法である。ここでいくつかの型を説明しよう。
擺歩→扣歩→退歩
まず最初に、ハイ歩で目標物の側面に足を踏み出す。
間髪を入れず、コウ歩で前足の前に一気に出す。
すかさず、後ろ足となった足を、斜め後方へ後退させる。
斜め後方へ進めた足に追随するように、コウ歩で前に出していた足を退歩で下げた足に寄せる。以後数回繰り返す。
扣歩→跟歩→退歩
歩きつつの攻防(多人数戦などの場面)において、最も多く使われる連動動作である。連動練習の基礎ではあえて取り上げなかった。実に応用の効く即戦的な歩法であるため、目標物を眼の前にして練習した方が実際の攻防のイメージがつきやすいからである。
この連動歩法は、ハイ歩で側面に回り込むよりも一般的に行いやすい。熟練すれば、コウ歩する足を進める方向や、コウ歩するときのつま先の入れ具合を調整し、大きく横に動いたり、相手の前で微妙に横に移動して痛撃を避けつつ、最短距離で相手の正中線上に打撃を加えることができる。
この歩法に伴う技は数多くある。決まった型にこだわることなく、自分なりの使いやすい技を考え、それをひたすら練習するのも面白い(八卦掌はそもそも型にとらわれない千変万化の拳法である)。
弱者生存の護衛護身武術を極めたい方へ~清王朝末期頃のままの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える水野先生の道場「八卦掌水式門」入門方法
1.八卦掌水式門~清朝末期成立当時の原初スタイル八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一指導する稀代の八卦掌家・水野先生の道場
八卦掌水式門で八卦掌第7世を掌継させていただいた、掌継人のsと申します(先生の指示で仮称とさせていただきます)。掌継門人の一人として、八卦掌水式門の紹介をしたいと思います。
八卦掌水式門は、清朝末期成立当時のままの原初スタイルの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える八卦掌専門道場です。「単換掌の術理(単換掌理)」による「弱者使用前提」・「生存第一」の技術体系からぶれず、成立当時の目的を一心に貫く伝統門です。
八卦掌第6世の水野先生の伝える八卦掌は、強者使用前提・対一人・対試合想定の近代格闘術的八卦掌が主流となっている現代において、対多人数移動遊撃戦による弱者使用前提の撤退戦を貫いた極めて異色の存在となっています。
先生の伝える八卦掌の最大の特徴は、「単換掌の術理(水式門で先生は、「単換掌理・たんかんしょうり」と略して指導しています)」に徹している点です。
「単換掌の術理」とは、敵と接触を極力さけ、敵の力とぶつからない斜め後方へスライド移動しながら対敵対応をする、「相手次第」を排し「自分次第」にシフトした術理です。
間合いを取り、敵と力がぶつからない場所へ移動しながら「去り打ち」することを正当な戦法としているため、女性やお子さん・お年を召した方にとって極めて現実的な護身術となっています(※よって水式門では、私を含め、女性の修了者さんが多いです)。
単換掌の術理を理解するには、修行の初期段階に、術理に熟練した指導者による対面での練習を通して対敵イメージをしっかりと構築することが必要不可欠、だと先生は言います。
『八卦掌は「勢(せい)」が命の武術。前に向かってひたすら進み続けることで勢を維持せよ。後ろ敵は勢があれば追いつけない。横敵には単換掌の術理・斜め後方スライドで対応せよ。電撃奇襲をすることで、守るべき人に手を出させない、囮(おとり)護衛による中国産護衛護身武術なんだ』は先生の「口癖」化した説明ですね。
相手の侵入してくる角度や強度、そして敵動作に対する自分の身体の使い方を、先生の技を受け、または先生を試し打ちをしながら自ら身体を動かして学んでいきます。 先生は、「私の技を受けるのが最も上達する近道となる。しっかりと見てイメージを作り、独り練習の際、そのイメージを真似するんだぞ。」と語り、常に相手になってくれます。 それは初心者には果たせない役割。水式門では、先生はいつでも技を示してくれます。相手もしてくれるし、新しい技を指導するとき、使い方もしっかりと見せてくれるから、一人の練習の時でも、イメージが残るのです。
よって最初から全く一人で行うことは、リアルな敵のイメージが分からない点から、大変難しいものとなります。この問題は、私がこの場で、先生の指導を受けたほうがといいと強くすすめる理由となっています。
私も石川県在住時は遠隔地門下生でした。先生が富山に来たときは、集中的に相手になってもらいました。石川県という遠くであっても、先生の教え方のおかげで、ブレずにここまで来ることができました。
単換掌の術理に基づいた弱者生存第一の八卦掌を指導する八卦掌の教室は、日本国内では水式門だけです(それか、公にしていません)。
弱者使用前提がゆえの現実的方法で自分を守る武術に興味がある方。力任せの攻撃にも負けない護身術や八卦掌を極めたいと思う方は、水式門の扉を叩いてください。水式門なら、弱者が生き残る可能性を生じさせる八卦掌中核技術を、明快に学ぶことができます。
2.八卦掌水式門は、仮入門制の有る純然たる「伝統門」道場
八卦掌水式門は、代表である水野先生が、八卦掌第5世(梁派八卦掌第4世伝人)である師より指導許可を受けて門を開いた、純然たる「伝統門」です。それゆえ、入門資格を満たしているかを判断する仮入門制(仮入門期間中の人柄・態度を見て本入門を判断する制度)を、入門希望者すべての方に例外なく適用しています。もちろん私も仮入門期間を経て本入門しました。
水野先生が指導する八卦掌は、綺麗ごとのない護衛護身武術。一部に当然殺傷技法が伝えられ、昔の中国拳法と同じく実戦色が強い八卦掌。誰それ構わず指導することはいたしません。
特に先生は、拳法を始めた動機も真剣。他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまい、それで人が傷つけられてしまう事態を招くことを、心から心配しています。
よって各科に掲載された「入門資格」を満たした人間だと判断した場合にのみ、先生は本入門を認め、受け継いだ技法をお伝えしています。「八卦掌の伝統門として、門が負うべき当然の義務と配慮」。これも先生が常に話す口癖ですね。
水式門には『弱者生存の理で貫かれた護衛護身術「八卦掌」を日本全国各所に広め、誰もが、大切な人・自分を守る技術を学ぶことができる環境を創る』という揺るぎない理念があります。
先ほども触れたように、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまうことは、技法が濫用され第三者が傷つく事態を招き、理念実現に真っ向から反する結果を生んでしまいます。
水野先生は、門入口を無条件に開放して指導し門を大きくすることより、たとえ仮入門制を設けて応募を敬遠されたとしても、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまう事態を避けることを重視しています。
ここまで書くと、なかなか入ることのできない難しい道場だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。仮入門制はありますが、一般的な常識と礼節、思いやりがあれば、心配する必要は全くありません。
指導を受けてみれば分かるのですが、先生はいつも、門下生のことを考え、熱心に指導してくれ、怒鳴ったりもなく、笑顔です。安心してください(無礼な態度や乱暴なふるまいには、ベテラン・初心者関係なく厳しいですが)。
仮入門期間を経て本入門となった正式門下生には、「誰もが大切な人、自分を守ることができる清朝末式八卦掌」の全てを、丁寧に、熱心に、真剣に教えてくれます。
迷ってるあなた。水式門には、積み重ねるならば、弱者と言われる者でも高みに達することができるシンプルで明快な技術体系があります。先生の温かく熱心な指導で、「守る」強さを手にしてみませんか。