「走圏」という練習への向き合い方
走圏を取り組む意義を知ることが重要
まず「走圏を練ることがなぜ重要なのか?なぜ走圏が八卦掌において最も重要な基礎練習となっているのか?」を再度知っておく必要があります。そのうえで、走圏で何の能力を練るのか、どこの部位を練るのかを具体的に意識すれば、目的意識が伴った練習となり、練習意欲を維持することが容易になるでしょう。
昔日の練習においては、師匠の指導方針に弟子は一切口ごたえなどできなかった、と聞きます。私自身も、青年期に柔道道場では、先生や先輩の指導方針には逆らうことができませんでした。それがすべて悪いこと、とはなりませんが、「やらされてる」感覚が強くなり、練習意欲を下げることにつながります。
走圏のように地味な練習は、取り組むことの意義を知っていなければ、練習の効果は下がると私は考えます。
走圏の達人ではなく、八卦掌の達人を目指す。走圏だけに固執しない。
走圏で求められる姿勢上の要求は多く、細かく、苦痛すら伴うものです。最初は当然にうまくできません。
後で説明する『八卦掌が求める姿勢「基本姿勢」』をすべて守ろうとすれば、上半身はガチガチに固まり、下半身には乳酸がたまり、姿勢は不安定となり筋肉が疲労してきます。だからせめて、難しく考えるのは止めてとにかく始め、そして続けていきましょう。
昔日の達人は、走圏だけを一日6時間以上も練った、とも伝えられていますが、忙しい現代人にそれは真似できません。
例えば一日4時間練習時間を取ることができるならば、4時間すべてを走圏にするのはもったいないです。2時間を走圏に充て、その後は定式八掌・単繰手・老八掌を練って八卦掌の総合的な体使いを練習した方が、八卦掌も走圏も上達します。
各基本技と走圏をバランスよく同時に習っていくことで、互いのレベルを上げ合っていくイメ―ジを持ってください。走圏に取り組み続けることで、各基本技の力が土台から押し上げられる・・・、そのようなイメージでもいいでしょう。
私たちは八卦掌をマスターするために練習するのですから、八卦掌に伝わる基本練習(八卦掌動作を行うための基本練習・単繰手・定式八掌・老八掌)は、定期的に行っていく必要があります。走圏だけでは、「走圏」の達人になってしまいます。
昔日の達人には、「基本の○○の技だけをもって相手を倒した」というような逸話が残っています。しかしその達人は、基本の○○の技だけを入門時から練習していたのではなく、一通り学びそれらに習熟した後、基本の○○に己が得たエッセンスを凝縮させたのだと考えられます。
基本の○○の技をもって相手を制する時でも、攻防過程では他の受け技等を利用して相手を崩したりしているので、厳密にいえば○○の技だけで勝負がついたわけではありません(もちろん○○の技だけで勝負を制した逸話も存在していますが)。
最強を目指すならば、偏った練習(例:一つの技だけ徹底的に行う・片側だけ練習するetc)をすることも時に有効かもしれません。しかし現代の私たちは、最強などという、実現することがとてつもなく難しい目標を目指さなければならないわけではありません。末長く取り組み続けることができた人だけが、高い境地に達することができると思います。
最強は、極論では一人しかなることができません。優秀な拳法であれば、その練習体系を守り真摯に取り組むならば、多くの人が高みに達することができるはずです。「マイペース」こそ、達人への道だと確信しています。
八卦掌の最重要基本~「基本姿勢」の完全解説
中盤走圏の最大の目的は、「基本姿勢の学習」と「足の運び方の学習」です。「内功を練る」などという難しいことは、初心のうちはわかりにくいものです。
「内功」とは、各部位に対する意識とそれから得られる各部位の意識的強さなどを指します。分かりにくいため、始めはそういうことは考えず、姿勢の要求を守ることだけを考えましょう。
基本姿勢の練習を通して練るもの~臨機応変の変化を可能にする身体感覚・整体力・体幹力・脚力の強さ・手指の功
走圏を練習する前にしっかりと走圏時に要求される姿勢をとる必要があります。走圏においては「下搨掌(かとうしょう)」という姿勢で練習することが一般的です(下イラスト参照)。
決まった姿勢をとって練習することで、八卦掌の戦い方で戦う際の身体操作技術と身体的下地を積み上げていくことができます。この決まった姿勢こそが、当門で最も重要視している「基本姿勢」なのです。
八卦掌では『張り、円転動作をしながらの身体操作による「ながら対応」、歩をたやさぬ移動による推進力の常時活用』の3つが相連動して一体となり、それらを自在に無意識のうちに発揮できて相手に対することができたならば卒業です。
この三要素は、しっかりとした土台の上に成り立つものです。その土台こそが、中盤・上盤走圏で今から養う「基本姿勢」なのです。基本姿勢は、大別すると「空胸抜背・沈肩墜肘・収臀・虚嶺頂頸」から成り立ちます。
姿勢要求に真面目に向き合い、基本姿勢の習得に向けて励んでいく中で、おのずと足腰の強さ・張り・手指の功が養われていきます。
基本姿勢の三要素を理解し、練る
◆空胸抜背(くうきょうばっぱい)・沈肩墜肘(ちんけんついちゅう)
- 手→肘→肩の順に腕を内転させ絞ることで背中を丸める(広背筋付近を広げる)
- 胸を空にする(肘、肩を内に絞れば、自然と胸はくぼむ。この「くぼむ」こと「空」とする。)
- 指を均等に開き、全指を伸ばしきる(硬い強固な指先を作るための基礎トレーニング)
◆沈肩墜肘(ちんけんついちゅう)
- 肘を下げる
- 肘を下げることによって自然に肩も下がる
- 形意拳の三体式でよく言われる要訣だが、下搨掌でも積極的に採り入れたい
◆収臀(しゅうでん)
- 片足を前に出す(若干内また気味に出す)。おしりを起点に逆三角形となり、前方のある点にむけてお尻がせまくなっていく状態
- 膝を開かない(磨脛・まけい)
- 足は泥の中を進むようにし、スッ、スッ、と出し、つま先を引きずらないでショウ泥歩で進める
◆虚嶺頂頸(きょれいちょうけい)
- 頭を自然に上げ、あごを少し引く。後頭部のてっぺんから糸が出ており、それが上にかるく引っ張られている状態。
- 頭を円の中心に向ける
八卦掌が求めるこれらの姿勢は、普段の生活ではなじみの薄い姿勢であるため、はじめは全く行うことができません。多大なもどかしさを感じることでしょう。特に、上半身や指先の要求は実に辛く、最初のうちは肩・腕・首筋・指がパンパンに張ったりしびれるほど、苦労することでしょう。
しかし、意識をしながら、できないなりにも続けていくと、徐々に要求された姿勢が力まないでできるようになってくるのです。必要なところにだけ意識の通った適度な力が通るようになるのです。このアプローチのことを『緊張の中から弛緩を見いだす』といいます。八卦掌における重要な上達へのアプローチ方法ですので、しっかりと覚えておきましょう。
意識の通った、力みのない自然な力強さ・・・つまり「張り」と副次的な螺旋(メインではない)による強さ。そうなると、動作の最中、いつでも相手の出方に反応できるようになってきます。どの部分に触れられても、その部分で力を発したりすることができるようになります。
足腰の強さ
足腰の強さは、中盤・下盤の走圏に取り組むことで養っていきます。中盤でも、しっかり脚力を鍛えることができます。
しかし中盤では、負荷をかけて筋肉を大きくするよりも、「体幹力を上げる」方に力点が置かれているようです。
「張り」
初学のうちは、八卦掌が求める上半身の姿勢をとり続けることは、大変な苦労を要します。
この姿勢をとり続けつつ、「張り」も意識していきます。最初は、そのような意識をする余裕などありません。とにかく上半身の姿勢の要求を満たすことだけで、きっと精一杯のはずだからです。
上半身の姿勢をとることに少し余裕が出てきた辺りから、チャレンジしていきます。イメージ的には、走圏姿勢(下沈掌)で、胸の前にボールを抱えているような感じです。そしてそのボールは、中心から全方向に膨張していこうとしてるので、それを腕、頭で抑え、膨張しないように現状維持を保っている感じです。
このような感覚を会得することで、遊撃戦のどの過程で敵に触れても、その時その都度、敵に威力を伝えることができるようになるのです。
この「張り」、実は、八卦掌において特に重要な感覚なのです。
指の功
走圏をするときは、両手指を、目いっぱい伸ばします。均等に、指を上下もさせることなく、です。
直近の、「張り」を練る時の上半身の姿勢に加え、両手指をしっかり均等に伸ばすことを実践すると、慣れないうちは上半身がパンパンになり、疲労がたまってきます。
指を目いっぱい伸ばし続けることも、やはり慣れによって克服できるようになります。できないなりにその都度挑戦することで、徐々に指が伸びてきて、かつ、全指先に意思の通った力が伝わるようになります。
「穿掌」は指先を伸ばして相手を打つ技(ほんの少し、掌底側に曲げる)であり、八卦掌における中核技となっていますが、ここで述べた指の功が無ければ、相手を打つときにこちらの指が打撃の衝撃に負けてしまいます。
指の功が備われば、指は鉄のごとく丈夫な棒となり、その固い棒で相手を攻撃することができるのです。
走圏の基本「中盤走圏」で、姿勢・歩法・脚力の基礎を練る
中盤走圏を通して練習する
(1)起勢。下搨掌の姿勢を取る。
(2)円の中心側の足(以下『円内側足』と呼ぶ)をショウ泥歩で一歩前に踏み出す。この時は前に進歩して着地した円内側足は、円の中心に対して垂直になるように出す。つまり、少しだけハイ歩となる。
(3)円内側足が着地したら、間髪を入れず円の外側の足(以下『円外側足』と呼ぶ)を円内側足の横に進める。円内側足の横を通り過ぎたら、扣歩(こうほ)しつつ前にショウ泥歩で足を進め、着地する。
※扣歩する角度は、円を何歩で回るかで変える。通常の上盤高速走圏の際は、八歩で一周することが求められるので、扣歩する角度は鈍角で角度は小さくなる。およそ鈍角160度くらい。
(4)すかさず円内側足を円外側足の横を通りながら前に進め、少しだけハイ歩しながら着地する。以下繰り返し。
中盤走圏~足の運び方を詳しく解説
八卦掌の世界では、円の外側の足は扣歩、円の内側の足はまっすぐ踏み出す、という説明がなされます(裡進外扣・りしんがいこう)。
しかし実際には、流派によって練習の仕方に若干の違いがみられます。当門梁派八卦掌では、円の内側の足はまっすぐ出す、と指導されます。足はまっすぐ出すのですが、着地する瞬間につま先を少しハイ歩して着地します。
先ほども触れましたが、円の中心と、円の孤を結ぶ線があるとすると、その線に対して足が垂直になるように足を着地します。つまり、少しつま先が開くのです。結果的に少しだけ、ハイ歩になるのですね。
円の外側の足は、円の弧上線に沿ってまっすぐではなく、少し打ち側に切りこませます。つまり、外側の足は、少し扣歩になるのです。
中盤走圏は、基本姿勢をしっかりととり、足の運びをゆっくり確実に行う練習です。よって、扣歩を強くし過ぎたり、ハイ歩を必要以上に開きすぎないようにしましょう。
上盤高速走圏:八卦掌走圏の総合的仕上げたる上盤。超重要練習!
「走圏」とは、みなさんも御存じのとおり、円周上を歩き続ける練習です。八卦掌において、最重要にして、昔日は秘伝であった練習法です。
秘伝は隠されないとだんだんありがたみが薄れて皆あまり練習しなくなりますが、走圏はどうしても外すことができない練習であると感じます。技を打つにしても必ず歩きながら打つ八卦掌において、それを実現させるためには常時基本姿勢を保たれている必要があり、そして保ち続けるための練習こそが走圏なのです。
歩きぬいて、足が勝手に動くいているような感覚を得るまでに至らなければ、歩きながら技を連続して繰り出すことはできません。勝手に動いていくような感覚・・・・。それは基本姿勢が出来ている状態で、丹田から上半身みぞおちあたりにかけて意識が張り巡らされているじょうたいのことつまり走圏に習熟してなければ、技を繰り出す時に足が邪魔をしてしまい、流れるように技を繰り出せなくなるのです。
中盤走圏では、基本姿勢をとりつづけ、緊張の中から余分な力を抜き、弛緩へとつなげていきました。上盤高速走圏では、ある程度とりつづけることできるようになった基本姿勢を維持しながら、なるべく速い速度で歩く練習をしていきます。
上盤高速走圏は、走圏の練習における集大成です。中盤走圏では、「正しい『基本姿勢』のとり方、張り、らせん、指の功」について学びましたが、上盤走圏では、「動体視力」・「滑らかな運足技術」を学びたいと思います。
動体視力
八卦掌は、遊撃戦を基本とします。正面を打ちながら相手の横へ駆け抜けつつ横撃しながらすれ違い、回り込みながら相手を、一気に崩し抵抗を奪う・・・そんなときに目がついていかないのでは、目標に攻撃を加えることができません。ふらついてしまったり、攻撃目標から遠く離れてしまいます。
走圏では、円の上を、高速で回る練習もします。その時、顔を円の中心方向に向け続けて歩くことで、動体視力が徐々に養われていきます。最初は目が回ってしまうが、そのうち回らなくなってきます。そして、流れる景色の中でも、攻撃目標をとらえ、それに向かって手を出すことができるようになります。
ある程度習熟すると、一点を起点に景色がひたすら横に流れていく感じとなります。黙々と歩いても目が回ることはなくなり、心地いい感覚にすらなります。ウォーカーズ・ハイでしょうか。
「目が回ってしまうこと」の具体的な対策
上記しましたが、上盤高速走圏は、遊撃戦八卦掌で最も重視する練習の一つです。
下丹田付近だけで軸を作ることができるようになると、あらゆる態勢からでも技を繰り出すことができるようになります。そうなると、常に敵に対して何らかのプレッシャーを与えながら移動攻撃ができるようになり、それが自身の身を守ることにもつながるのです。
軸の形成を効率よく達成するために有効な練習・・・やはり初学のうちは上盤高速走圏が一番です。しかし初学者にとって、上盤高速走圏には大きな試練が待ち構えています。それは「目が回ってしまうこと」です。
上盤高速走圏時に、目を回さないための対策として、ある一点に目を固定して、そこから目を動かさない、という方法があります。
しかし走圏学習時の姿勢である下搨掌は、両腕とも自身の鼠径部に配置してしまうため、円の中心方向にはなんらの目標物もありません。
走圏にずっと取り組んでいれば、目標物が無くても目を回さなくなるのですが、最初はそうもいきません。私も最初は目を回してしまい、真剣に悩みました。
そこで考えついたのが、「推磨掌」で構えて、「虎口(ここう)」を通して中心方向を見て、その姿勢で回ることに慣れてから、下搨掌に取り組む、という対策でした。
この方策を成功させるためには、虎口をじっと見つめないこと、であります。虎口内側を通して見える向こう側の景色ですが、走圏をすれば横方向にひたすら流れて目に映ります。それをずっと見るのですね。
遠目で見るような感覚で虎口を形成している手(当門では瓦龍掌と呼んでいる)をぼんやりとうっすらと見ているため、虎口内側で流れる景色を見ていても、目が回りません。
そのような練習をしていると、流れる景色を見つめることに慣れてきて、下搨掌で練習しても目が回らなくなっていくのです。
この方策をもってしても目が回ってしまう人は、上盤といえども最初はややゆっくりと練習していき、徐々に速さを上げていく、という地道な対策もあります。
滑らかな運足技術
走圏は、円周上を回る練習方法です。上盤姿勢での高速走圏では、動体視力を練ると書きましたが、当然、軽快で自在な足の運びも練習目的となります。
中盤姿勢の走圏で練った姿勢を維持しつつ、腰を少し高くし(ピンピンに脚を伸びきらない)、一定時間回り続けます。
この練習をし続けると、徐々に足の運びが軽快になっていきます。でたらめに足を速く運ぶのではなく、平起平落(足を平らに上げ、平らに着地させる)を意識し、内側の足をなるべくまっすぐに進めることで膝がガバッと開かないようにします(内側の足がある程度開いて出てしまうのは致し方ない)。
高速走圏に習熟すると、上半身が円周上をなぞるのに合わせて足が自然と動いている、というような感覚を得ることができます。スッ、スッ、スッ(もしくは、小さい音で、タッ、タッ、タッ)という感じで足が運ばれ、まるでレールか何かの上に上半身が乗っかって、円周上を回っている感覚に至ります。
高速、ということで、最初からとにかく速く回ることにこだわる人もいますが、練習のプロセスはそうではありません。中盤からの延長練習であることを意識して、姿勢を守りつつ、知らないうちに速くなっていた、という状態を目指します。
対敵イメージ走圏:引き込み旋回戦法単換掌理の「引き込み旋回戦法」の始まりとなる
動画内容における走圏のイメージは、対多人数遊撃戦を主眼においた昔日の八卦掌であれば、当然に持っているイメージです。しかし近世では
- 中国散打(組手)においても階級制が採り入れられたこと
- 技を使う場が、戦場やリアルな路上格闘ではなく、一定ルールのある他流試合になったこと
- 対多人数戦でなくなり対一人戦となり、場所が狭いこと
となったことから、眼前対一人攻防の八卦掌となり、歩いていなし転戦する、よりも、敵の側面での巧妙な変化攻撃、に主眼が移り、対敵走圏の練習意義も薄らぎました(もしくは走圏の練習目的が変わった)。
対敵イメージ走圏は、対多人数遊撃戦を採る八卦掌の最大掌理である「単換掌理」の土台となり、生存するための身法であるため、昔日の八卦掌をする者であれば、経験・会得する必要のある練習法です。
対人練習であるからこそ、敵の圧力を受け、それをいなし(逃し・流し)、返す(発する・放勁する・発勁する)ができるのです。示し合わせてテンションを強くすれば、じっくりといなすため長い時間(実戦や単独練習では、ゆっくりやっても身体で力の変化を感じるのは難しい)の中で力の流れや変化を体感できるため、理解が深まるのです。
三発力(発勁)を意識した身体操作・運足
「三発力法」とは、以下の3つです。
- 遊歩発力(ゆうほはつりょく)
- 扣擺発力(こうはいはつりょく)
- 翻身発力(ほんしんはつりょく)
発力には、他門派における「発勁(はっけい)」に相当する「敵への力の伝え方」と、遊撃戦時の慣性を克服し八卦掌の3身法の動きを助ける「操身法」があります。
【遊歩発力】
対多人数遊撃戦では、敵のいないところに移動して、その途中で近寄って来る敵の側面を通り抜けながら攻撃する攻防が多く用いられます。
足を交差させて(交叉歩・こうしゃほ)横移動をすることで速度を落とさずに敵側面を斜めに横切っていきます。その際に、前進するベクトルと、側面に押し広げるベクトルを上手く対抗させてそこから生じる張りの力を突く動作に加え、より大きな威力とするのです。
敵を押しながら方向を転換する際にも用います(護衛護身科では、敵を押して他の敵にぶつける高度な技は指導してないのでご了承ください)。
【扣擺発力】
扣歩によって生じた身体のねじれを、擺歩で展開・解消し、その際の展開力を敵に伝えるものです。
身体を転身する際の速度を速めるためにも当然に扣擺発力は用いられます。
【翻身発力】
初学の際、内回りの身法(内転翻身法)は、敵に一瞬背を向けて転身する転身動作(外転翻身法)に比べて速度が出しにくい身法となっています。内転翻身法の速度を速め、身を翻して攻撃する際の動きを助ける際の身体運用方法として翻身発力が用いられます。
八卦掌最大流派の程派では、単換掌で翻身発力動作による転掌動作が見られます。
走圏では発力法中における「敵への力の伝え方」の方をメインで意識して練習します。一歩一歩歩くたびごとに、遊歩発力・扣擺発力・翻身発力によって力を伝えている意識をもって歩くことで、対敵を想定した充実した練習ができるようになります。
走圏で練る際の姿勢である下搨掌は、敵に向き合っているイメージを持ちにくい形であり、初学者には力を相手に発しているイメージが持ちにくくなっています。そこで、3発力を発しているイメージが割と持ちやすい推磨掌(すいましょう)・叉子掌(さししょう)も利用して練習するのです。
この感覚は実際に受けてみると分かるため、弊門の練習・講習会・出張講習などでは、私がすべての生徒さんに直接、最も発しかつ受けやすい推磨掌を利用して、多くの時間を割いて説明しています。
受け、発する感覚を体感してもらった後、各自がイメージをもって、単独練習をしていきます。下搨掌では、上図、推磨掌・叉子掌では、下図のイメージをもって歩いていきます。
単独練習で、力を受け、流し、かつ発するイメージをリアルに持つことができるになったら、次は実際に人と手を合わせ、適度なテンションを掛けあってじっくりと「受ける・流す・伝える」をふたたび、体感していきます。「体感→単独練習でイメージ構築→体感」を繰り返します。
「受ける・流す・伝える」のイメージを持ちながら練習する単独・対人の練習は、そのまま単換掌理の「引き込み」のイメージを構築する作業となるため、実戦直結の意欲をもってトライしてみてください。
下のイラストを見てください。
八卦掌の2大戦法の筆頭であり、対多人数遊撃戦時に「生存」の可能性を高めるカギとなる攻防身法理「単換掌理(たんかんしょうり)」では、対敵走圏で練った、敵をいなし、我の後方へ回らせても回らせきらせない(言い換えると「後方へ回り込むイメージ」)イメージが、理を発する出発点となります。
昔日の八卦掌(体格や人数の制限のない、戦争時に使われていた八卦掌)における単換掌の型は「斜進翻身法と遊歩発力で敵を引き込みつつ、深追いさせてから敵の攻撃を受けつつ斜め後ろ後退スライドして転じ入り身をし、前に出てくる敵に虚打(けん制攻撃)をして離脱後、旋回して転戦する」の動作となります。
八卦掌における2大戦術練習型は単換掌と順勢掌ですが、単換掌でも順勢掌でも、円軌道に沿ったいなし・ながし・回り込みの意識は核心部分なので、ぜひこの講習会に参加し、次の日からの練習に活かしてもらいたいと思います。
八の字を描く実戦的走圏・八の字走圏の練習方法
上盤高速走圏で上半身と下半身が安定し、かつ、レールの上を滑るような感覚で歩くことができるようになったら、さまざまな走圏に取り組んでみます。ハイブリット走圏とは、以下のものが挙げられます。
- 武器を持っての走圏
- 八の字を描く形での走圏(八の字走圏)
武器として考えられるのは、八卦大刀・大槍が考えられます。大きくて重たいものを持っての走圏では、より一層、身体の安定が求められます。武器を使ううえでの基礎ともなるので、武器を使って八卦掌を活用したい人には、魅力的な練習となります。
ここでは、八の字走圏を説明していきます。八の字走圏は、単換掌理の斜め後方スライド離脱転身で行う場合と、後方スライドしないでそのまま歩く場合があります。
実戦を意識した走圏では、八の字走圏だけでじゅうぶんです。八の字走圏をより実戦に結びつけるのであれば、「まず八の字ありき」ではなく、敵の合間をぬって歩くイメージをもって、「結果的に八の字になる」つもりで歩きます。
八の字走圏は、主に定式八掌の下搨掌にて行います。
八の字走圏の修行し始めは、2つの円を横に並べ、その上を回ります。通常、円を回っている最中は、円の中心に向かって身体や意識がやや傾いているのが普通です。
互いの円の接点で一瞬まっすぐとなり、反対側の円の円孤を歩き出したと同時に、なめらかに顔と身体の傾きを次の円の中心にむかって傾けていきます。
単換掌理における斜め後方スライドの練習では、横の円の円孤軌道上に乗りはじめた瞬間に、後方スライドの足軌道と展開離脱の足軌道とで、円孤を描いていきます。
定式八掌の他の姿勢(托天掌・推磨掌・叉子掌・指天画地掌・陰陽魚掌・白猿献果掌)でも行うことができます。
定式八掌における後方スライドの際の転換動作は、単換掌理による後敵対処法の具体的方法を示すものであり、八卦掌における中核部分をなす伝承技法です。八卦掌の手の内を見せるものでもあるため、現在を含め、昔日の八卦掌では、その技法を公開することはありません。
※近代スタイルでは、単換掌理を重視しない門も多いため、そこでは割と転身式が公開される傾向にある。当然、昔日の門の転身式とは違うものとなっている
下盤走圏:中盤走圏・上盤走圏の補助的練習法。中級者になったら取り組む。
下盤とは、大腿部が地面と平行くらいまで下げる姿勢です。しかし実際は少し腰を高くします。具体的に示すと、太ももの下部分が地面と平行になるくらいの高さです。これであれば、姿勢も必要以上に崩れることがなく、八卦掌において強さを求められる内転筋に負荷がかかり、この部位を効率よく鍛えることができます。
最初は中盤姿勢で、姿勢の要求を満たすことを目指します。併せて、中盤姿勢を取り続けることで脚の筋肉を鍛えます。いずれ下盤姿勢を取るための下準備をするのですね。
中盤である程度上半身の姿勢が維持できるようになったら、上盤走圏をしっかりと行います。
中盤が慣れたら、より一層姿勢を低くします。下盤です。上半身の姿勢要求が満たせる高さまで下げます。あまりに下げると、上半身の姿勢が崩れてしまうため、そこまで下げる必要はありません。下盤に慣れてくると、知らぬ間に姿勢が低くできるようになります。
最終的には、各姿勢で均等な時間を行えるようにします。
太ももの上部分が地面と平行になるまで下げると、上半身が前に倒れ姿勢は崩れ、膝回りの筋肉に集中的に負荷がかかってしまい、また負荷の高さも下がってしまいます。中国の八卦掌のある先生は、下げ過ぎの下盤に対し「楽をしている」と叱ることもあるそうです。
下盤は、その姿勢を維持することが不安定であり、筋肉に対する負荷の強さも相まって、初めのうちは5分ですらできません。でも、焦ることはありません。じっくりゆっくりと時間を延ばしていきます。先月は3分歩いたから、今月は4分にしよう、というスローペースで時間を延ばしていきます。4分下盤で歩くならば、右回り2分・左回り2分という時間配分で進めていきます。
下盤にある程度慣れてくると、できる時間の長さが飛躍的に長くなっていきます。下盤には、30分という壁があると言われますが、そこを過ぎると、60分下盤も間もなく夢でなくなります。姿勢維持のための体幹筋肉と、脚の筋肉が付いた証拠でしょう。もし30分の壁を越えられなくとも、それは気にせず、毎日こつこつと続けていきましょう。きっと成果は出ます。
弱者生存の護衛護身武術を極めたい方へ~清王朝末期頃のままの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える水野先生の道場「八卦掌水式門」入門方法
1.八卦掌水式門~清朝末期成立当時の原初スタイル八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一指導する稀代の八卦掌家・水野先生の道場
八卦掌水式門で八卦掌第7世を掌継させていただいた、掌継人のsと申します(先生の指示で仮称とさせていただきます)。掌継門人の一人として、八卦掌水式門の紹介をしたいと思います。
八卦掌水式門は、清朝末期成立当時のままの原初スタイルの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える八卦掌専門道場です。「単換掌の術理(単換掌理)」による「弱者使用前提」・「生存第一」の技術体系からぶれず、成立当時の目的を一心に貫く伝統門です。
八卦掌第6世の水野先生の伝える八卦掌は、強者使用前提・対一人・対試合想定の近代格闘術的八卦掌が主流となっている現代において、対多人数移動遊撃戦による弱者使用前提の撤退戦を貫いた極めて異色の存在となっています。
先生の伝える八卦掌の最大の特徴は、「単換掌の術理(水式門で先生は、「単換掌理・たんかんしょうり」と略して指導しています)」に徹している点です。
「単換掌の術理」とは、敵と接触を極力さけ、敵の力とぶつからない斜め後方へスライド移動しながら対敵対応をする、「相手次第」を排し「自分次第」にシフトした術理です。
間合いを取り、敵と力がぶつからない場所へ移動しながら「去り打ち」することを正当な戦法としているため、女性やお子さん・お年を召した方にとって極めて現実的な護身術となっています(※よって水式門では、私を含め、女性の修了者さんが多いです)。
単換掌の術理を理解するには、修行の初期段階に、術理に熟練した指導者による対面での練習を通して対敵イメージをしっかりと構築することが必要不可欠、だと先生は言います。
『八卦掌は「勢(せい)」が命の武術。前に向かってひたすら進み続けることで勢を維持せよ。後ろ敵は勢があれば追いつけない。横敵には単換掌の術理・斜め後方スライドで対応せよ。電撃奇襲をすることで、守るべき人に手を出させない、囮(おとり)護衛による中国産護衛護身武術なんだ』は先生の「口癖」化した説明ですね。
相手の侵入してくる角度や強度、そして敵動作に対する自分の身体の使い方を、先生の技を受け、または先生を試し打ちをしながら自ら身体を動かして学んでいきます。 先生は、「私の技を受けるのが最も上達する近道となる。しっかりと見てイメージを作り、独り練習の際、そのイメージを真似するんだぞ。」と語り、常に相手になってくれます。 それは初心者には果たせない役割。水式門では、先生はいつでも技を示してくれます。相手もしてくれるし、新しい技を指導するとき、使い方もしっかりと見せてくれるから、一人の練習の時でも、イメージが残るのです。
よって最初から全く一人で行うことは、リアルな敵のイメージが分からない点から、大変難しいものとなります。この問題は、私がこの場で、先生の指導を受けたほうがといいと強くすすめる理由となっています。
私も石川県在住時は遠隔地門下生でした。先生が富山に来たときは、集中的に相手になってもらいました。石川県という遠くであっても、先生の教え方のおかげで、ブレずにここまで来ることができました。
単換掌の術理に基づいた弱者生存第一の八卦掌を指導する八卦掌の教室は、日本国内では水式門だけです(それか、公にしていません)。
弱者使用前提がゆえの現実的方法で自分を守る武術に興味がある方。力任せの攻撃にも負けない護身術や八卦掌を極めたいと思う方は、水式門の扉を叩いてください。水式門なら、弱者が生き残る可能性を生じさせる八卦掌中核技術を、明快に学ぶことができます。
2.八卦掌水式門は、仮入門制の有る純然たる「伝統門」道場
八卦掌水式門は、代表である水野先生が、八卦掌第5世(梁派八卦掌第4世伝人)である師より指導許可を受けて門を開いた、純然たる「伝統門」です。それゆえ、入門資格を満たしているかを判断する仮入門制(仮入門期間中の人柄・態度を見て本入門を判断する制度)を、入門希望者すべての方に例外なく適用しています。もちろん私も仮入門期間を経て本入門しました。
水野先生が指導する八卦掌は、綺麗ごとのない護衛護身武術。一部に当然殺傷技法が伝えられ、昔の中国拳法と同じく実戦色が強い八卦掌。誰それ構わず指導することはいたしません。
特に先生は、拳法を始めた動機も真剣。他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまい、それで人が傷つけられてしまう事態を招くことを、心から心配しています。
よって各科に掲載された「入門資格」を満たした人間だと判断した場合にのみ、先生は本入門を認め、受け継いだ技法をお伝えしています。「八卦掌の伝統門として、門が負うべき当然の義務と配慮」。これも先生が常に話す口癖ですね。
水式門には『弱者生存の理で貫かれた護衛護身術「八卦掌」を日本全国各所に広め、誰もが、大切な人・自分を守る技術を学ぶことができる環境を創る』という揺るぎない理念があります。
先ほども触れたように、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまうことは、技法が濫用され第三者が傷つく事態を招き、理念実現に真っ向から反する結果を生んでしまいます。
水野先生は、門入口を無条件に開放して指導し門を大きくすることより、たとえ仮入門制を設けて応募を敬遠されたとしても、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまう事態を避けることを重視しています。
ここまで書くと、なかなか入ることのできない難しい道場だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。仮入門制はありますが、一般的な常識と礼節、思いやりがあれば、心配する必要は全くありません。
指導を受けてみれば分かるのですが、先生はいつも、門下生のことを考え、熱心に指導してくれ、怒鳴ったりもなく、笑顔です。安心してください(無礼な態度や乱暴なふるまいには、ベテラン・初心者関係なく厳しいですが)。
仮入門期間を経て本入門となった正式門下生には、「誰もが大切な人、自分を守ることができる清朝末式八卦掌」の全てを、丁寧に、熱心に、真剣に教えてくれます。
迷ってるあなた。水式門には、積み重ねるならば、弱者と言われる者でも高みに達することができるシンプルで明快な技術体系があります。先生の温かく熱心な指導で、「守る」強さを手にしてみませんか。