指導内容
八卦掌水式門における指導内容は以下の通りです。初学時は、董海川先生が伝えたとされる基本単式技と型を重点的に何度も練習します。混沌として自由の効かない対多人数戦の中で無意識に技が出ることを目指して、基本技に絞って徹底的に反復練習をします。
技術を学ぶ履修課程は、「基本科」と「遊撃戦本科」に分かれます。
※承門科は、遊撃戦本科を終え、八卦掌水式門の「掌継人」となることを希望する人が進む科であり、技術指導は遊撃戦本科で終わります。
基本科
基本科を修了すると、遊撃戦本科に進む資格を得ます。
- 基本歩法(扣歩・擺歩・扣歩擺歩連動練習)
- 走圏
- 単繰手
- 螺旋功(龍玉遊掌・左右螺旋功)
- 推磨式基本功
- 仆腿功
- 定式八掌
- 定式八掌を使った力を伝える対人練習
- 老八掌
- 吸化掌(張りの感覚を養う対人練習)
- 刀(八卦大刀ではない90センチくらいの棒使用)
- 遊撃八卦腿
基本科において学習する技は、梁振蒲先生伝の八卦掌です。梁派の八卦掌は、剛柔の共存する八卦掌ですが、当門では穿掌での入り身を重視しているため、剛的性格が強い八卦掌となります。
私が修行過程において出逢い、影響を受けた参考にすべき空手拳士・柔道修行者・合気道家(養神館合気道修行者)らの影響を受けています。
基本科で学ぶ刀操法は、八卦刀を基本として遊撃戦に対応する移動攻撃性質の強い刀法となります。練習時は90~100センチの棒を使って、目標物を実際に打ち、駆け抜けながら斬りつける(殴りつける)感覚を養います。
遊撃八卦腿は、その名の通り、移動遊撃戦の渦中に繰り出すことができる腿法が中心となります。よって、回し蹴りなどのように、その場に止まって軸を作り打ち込むような腿法は練習しません。
遊撃戦本科
遊撃戦本科を修了した方には、水式門本部が「八卦掌の指導をする技術のある者」と公認します(第三者からの問い合わせに対し、履修の事実と指導するに値する技術を持っていることを証すること)。
- 対多人数遊撃戦基本身法
- 棍(120~200くらいまでの棒使用)
- 単短棒
- 双短棒
- 対人約束散手(対1~対4)
- 対多人数想定の散手(対2~対4)
遊撃戦本科では、基本科で学んだ刀操法における「駆け抜けながら斬りつける」感覚を重視します。移動遊撃戦の基本身法となっています。身法の基本である半斜(半圏)翻身・外転翻身・内転翻身を徹底的に身にしみ込ませ、有効な入り身技術を実現し、近距離における変化攻撃へとつなげます。
単短棒は、短棒を身体の前に置き、身体を棒の後ろに隠し、遊撃戦時の身体操作で威力を補いつつ攻防する、護身術的要素の強い武器術となります。単短棒も、刀操法が基礎となります。
双短棒は、以前の水式門で遊撃戦本科の身法の元でした。しかし双短棒技術は八卦掌の手技にかなり精通している必要があり、未成熟の状態で激しく練習して自身を打ってしまいケガをすることも多いので、今では遊撃戦本科でも後半で習う技術となりました。
掌継科
掌継科に進む者は、遊撃戦本科で対多人数遊撃戦技術が一定のレベルに達している必要があります。対2の遊撃戦応用練習で、敵に補足されることなく8分の時間を逃げ切りながら攻防できる者が該当します(あくまで目安)。
そのレベルに達しているもので、かつ、八卦掌第7代・八卦掌水式門第2代掌継人の公認を希望する者が、承継科にて研鑽をすることになります。
研鑽、と書きましたが、新たな技術を学ぶのではなく、自身が修行過程で得た「気づき」・「習得技術」・「自分の指導場を持った際のカリキュラム」を何らかの形でまとめ、発表や文章形式保存し、門代表に提出します。内容は全く自由ですが、その研究内容は自分の言葉、説明の仕方でまとめられている必要があります。
提出後、内容を確認した後、八卦掌水式門が掌継人と公認したことを記した公認証書を発行します。そこで、全修行過程は修了となります。
八卦掌水式門の八卦掌は長年の苦闘から得た「護衛武術」。護身の役目も当然果たす。
「護身」と「護衛」は必ずしも同義ではありません。しかし自分守ることよりも、人を守ることの方が、その場に止まる必要がある点から、より一層の技術を要されると認識しています。
「武術」とは、戦場で己の身を守るために敵を殺傷する技術です。残酷な一面もある技術体系を見ているとそれを実感します。八卦掌も例外ではありません。※程派などは、その優美な演武の裏側に見える残酷さにゾッとするほどです。尽きせぬ興味の対象です。
当門で指導する八卦掌は、絶対護衛を究極の目的としている武術です。防衛対象は「大切な人」。大切な人には、己自身も含まれています。護衛術は自分が攻撃されず存在し続けていることが前提です。よって護衛を遂行し続けることができる能力がその技術にある、ということは、護身術としての能力もある、ということなのです。
私自身、目的を「大切な人を守るため」にして練習を重ねてきました。社会人になったことでなかなか出来なくなった対人練習をアテにせず、一人でできる対人想定練習を複数編み出して膨大な時間を費やしてきたのは、すべて極力実際に使う場面に近づけて練習をし、いざという時に「大切な人を守るため」です。
「大切な人」とは、「誰かにとって」大切な人。自分の親族や恋人、配偶者、子供などに限定されません。皆、それぞれが、誰かにとって大切な人。だからいつでもどこでも、トラブルがあれば手を差しすことを課しているため緊張感をもって生活をしてきました。その緊張感は、常に有事に備えて技術を磨き工夫をする姿勢を培うことに作用しました。
その考えのもと目の前で起こったことに対処し続け早40年近く。多くの経験をしてきました。成功より失敗の方が多かったですが、確実に私の八卦掌は護衛術としての役割を果たす力を上げきたと思います。
それは以下の点だからです。
- 体格等のフィジカルが支配する眼前攻防を見切り、移動遊撃戦に徹してスタイルを体系化しているから
- 取り組むのが容易でない対人練習に頼らず、一人でできる対人想定練習(スポ人支柱を使った練習など)の工夫がしっからとなされているから
- 筋肉などのフィジカルは、対人想定練習の中で実際に打ちきることで誰でも自然に養われれるから
- 日頃最も使いやすい棒を想定した武器術を体系化しているから
長年の経験による成果の一つが、相手に張りつかないで戦う徹底した移動遊撃戦スタイルを悟ったこと。私が、体格の面で劣っていることがそのスタイルへと導きました。
私は、武術をしている人間の中では体格は小さく、身長は167センチ、体重は60キロ強と背は低く軽く、それだけでも不利な条件を背負っています。よって、接近戦や眼前攻防スタイルで行う散手や組手では、極めて厳しい結果を突き付けられてきました。
八卦掌は敵横変化の接近戦拳法ですが、長いこと敵の傍にいると、変化攻撃にイライラした敵の力任せの攻撃に、いずれ捕まってしまう。あと、敵前でとどまると、どしっと構える拳法を使う相手の側面に回り込むことができない。横方向への移動速度を上げるには、限界がありました。
それを解決するのが、徹底した移動遊撃戦のスタイルだったのです。敵の対応に関係なく動き、相手をその流れに引き込み慣性の渦に引き込み、側面から移動打ちをする。
このスタイルに、体格は関係ありません。技術も単純でアクロバティックな動きもなく、普通の人でも誰でもできます。私にもできたのですから。しかし移動遊撃戦には多くの練習時間・練習回数が必要です。その点を克服したのが、対人練習に頼らない練習体系でした。
対人練習には、優れた点が多いのですが、欠点もあります。相手が必要で手軽にできないこと。そして実際に本気で打つことができないことです。
対人練習を重視し、対人練習至上主義に陥ると、一人で練習する単独練習がおろそかになります。単独練習は、極限の中において無意識レベルで正確な動きをするために欠かすことができないものです。れをおろそかにすることは、基本の動作が崩れることを意味します。
組手・散手を重視するあまり特定門派が持つ独特の動きが薄れ、傍から見たら皆キックボクシングのようになっているのは、その典型例です。
そして最大の欠点は、手軽でないこと。至上主義に陥っている人は、相手がいないと練習する機会が自然と減っていきます。単独練習に意義を見いだせなくなっているからです。練習時間が少ないことは、技の精度を高めることにマイナスを影響を与えます。動きが染みつかないのです。
スポンジ支柱などの目標物を使った練習を工夫してきたのは、対人想定練習が一人で出来る練習だからです。一人でできるなら、相手の都合関係なく、いくらでもいつでもどこでも練習できる。
多くの人に笑われ、無意味だと言われましたが、強くなるために大変重要な戦略の一部でした。そして対人想定練習でやり込んだ動きは、問題なく人の前でもできるのです。一人で思う存分取り組んだ、その圧倒的な積み重ねが、人前での自在な動きを可能ならしめたのですね。
対人想定物は、打たれても蹴られてもケガをしません。壊れるだけです。よって思い切り、実戦の動きで打ち抜くことができます。
穿掌では、間合いが大変重要です。相手には届かなくても、こちらは届く移動位置から、スッと手を伸ばす感じで急所を正確に攻撃する必要があります。
間合いをつかむには、実際に目標物を打つ練習を繰り返す必要があります。相手を使った練習では、回数が少なくなる点と、打ち抜く点で無理があり、思ったほどの成果をだすことができません。
対人想定練習をすることで、移動遊撃戦における絶妙な間合いを、移動時にとることができるようになります。これは回数を重ねるしかない。回数を重ねるには、一人で対人を想定した練習をする必要がある。
想定練習物を工夫してから、ずっと休まずに練習を積みかさねてきました。動きはシンプルになり、迫力のないものとなりましたが、相手には分かりづらいようです。これは膨大な積み重ねの成果だと自負しています。
一人でできる練習でここまで実戦力を養うこと出来る、ということは、誰でもやる気さえあれば、護身としての技術を体得できることを意味します。実際の場で動くことできるかどうかの絶対的保証は、私にもありませんが、練習しなければ確実に動くことはできません。
多くの怖い経験もしましたが、その都度、積み重ねてきた自信が私を支えました。無意識レベルで身体が戦闘態勢に入り、相手の行動に素早く反応出来ました。護身術として機能するか?それは、私の経験からも、自信をもって「イエス」と言います。
中国武術というと、護身的要素を期待される方もおられます。しかし当塾では、世間で指導されているいわゆる「護身術」というものは指導しておりません。
しかし他の場所で習った護身術を有効に活かすための基礎的身体能力は、当塾で八卦掌を真摯に練習することで得られると考えています。各人が習い研究した八卦掌技術と、護身術スキル・危機管理方法・危険回避術等が融合して、初めてその人自身が使用できる真の護身術が生まれると思います。
私は修行し始めの頃、当時の師匠に、外での練習を勧められました。外で練習すれば、技を練習するだけでは得られない様々な経験ができる、と。以後30年近く、中国拳法・日本武術の練習はほぼ屋外で練習し、その過程で様々な経験(主に恐怖・怒りを感じる経験)をさせていただきました。それらの経験をするたびに、私の習っている技術をどのようにしたら、もっと有効に発揮できるか、を試行錯誤してきました。それらの試行錯誤と実践から得られた護身のための知識や考え方は、練習会におけるさまざまなシーンで塾生の皆さまに伝えることができると考えています。
なお、対刃物護身術も、当塾では指導しておりません。練習会において、有志が自主的に練習する形態を採っています。私自身も対刃物護身術を人に指導するほどまでの経験はなく、共に研鑽中です。
対多人数遊撃戦の実戦八卦掌をより深く学んでみたい方へ。代表・水野より。
もし学んでいく過程で「ここがよく分からない」「この部分をもっと知りたい」「実際の戦闘における実戦技法を体感したい」と思った方は、ぜひ水式門入門をご検討ください。各人の体力に配慮した指導で、護衛護身の技術をお伝えします。
また、講習会・通信門下生制度もご用意しております。講習会は、八卦掌水式門に入門していない未経験の方でも自由参加できる開かれた講習会となっています。
通信講座と講習会をうまく活用し、大いに前進しておられる方もいっらしゃいます。全国の皆さんのご参加、お待ちしております。