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推磨式基本功|清朝末式八卦掌代継門人科:仮入門教程

推磨式基本功~練習する理由と「翻身旋(ほんしんせん)」

八卦掌には、他の門派と同じく複数の基本練習が存在する。八卦掌の基本の中で最も重視されるのは「走圏」「螺旋功」だと言われがちである。

しかし清朝末期成立当時のままの原初八卦掌(以下「清朝末式八卦掌」と呼ぶ)では、当教程で練習する推磨式基本功こそが最も重要な基本功となる。

「走圏」は、移動遊撃戦時の意識の配り方に慣れさせ、移動する際の歩き方を養うことに特化した限定的な練習である。「螺旋功」は、特定・一人の敵の眼の前にとどまって、敵の力任せの攻撃や体格差を克服する必要に迫られた近代格闘術八卦掌で重要となった技巧的な基本功に過ぎない。

ゆえに「走圏」だけをやり続けて八卦掌の達人に到る、というようなことは、清朝末式八卦掌でも近代格闘術八卦掌でも無い。「螺旋功」に至っては上述の通り、斜め後方スライドで敵と距離をとりつづける清朝末式八卦掌においては、使うことは不可能であり、準備体操程度に行うにとどまる。

これら限定的な基本功に対し、推磨式基本功は勝手が違う。清朝末式八卦掌における複数の基本功の中で、中核技法たる「斜め後退スライド撤退戦対敵身法(単換掌の術理)」に直結するのが、「推磨式基本功」で学習する「翻身旋」となる。

翻身旋を修行の初期段階から学び、洗練させることで、無駄のないキレのある斜め後方スライドにつなげる。そうすることで、「勢(せい)」を実現する。

洗練された翻身旋理による斜め後方スライド身法

「勢」とは、清朝末式八卦掌において生死を決する最上位要素。高い移動推進状態を維持している状態のことである。身体的資源不利者(弱者)が、複数の敵・強者・武器所持者に襲われても、その身を一定時間護身するための、生存の命綱である。そしてその勢を維持するための翻身旋こそ、生存の土台となるのである。

「足を固定した状態(定歩)で翻身旋を身体に経験させ、歩きながらの翻身旋の実行につなげること」こそが、推磨式基本功に取り組む理由となる。推(すい)・拍(はく)・蓋(がい)・平穿(へいせん)などと種類はあるが、手の動きなどはあくまで翻身旋に付随するものにすぎない。

八卦掌水式門の「本科」において練習する推磨式基本功は、以下の6つとなる。

  • (1)推(すい)
  • (2)拍(はく)
  • (3)蓋(がい)
  • (4)平穿(へいせん)
  • (5)劈(へき)
  • (6)撩陰(りょういん)

通信講座部教程では「推」・「拍」・「蓋」・「平穿」の四法をまず練習していく。この基本四法の学習を通して、清朝末式八卦掌の核心技法「翻身旋」の術理を身体にインプットしていく。

股関節部分ををたたみながら身体を後方に向ける具体的な方法を学ぶことで、敵に抗しない転身と、敵にとって分かりにくい手技攻撃を実現させていく。

平穿は、動きが大きく、勢いも出るため、練習していて、攻撃している感覚を存分に味わうことができる。また、八卦掌の徒手(素手)における原点的基本技「単換掌」において、ファーストコンタクトを平穿で行うことが多いため、平穿の技法を高めることは、実戦における防御能力を高めることにつながる。

推磨式基本功の最重要項目:翻身旋(ほんしんせん・身を翻す旋法動作)

すべての推磨式基本功では、斜め後方スライド撤退戦時の身法を円滑にきれよくおこなうための股関節部分(股間部分)の使い方である「翻身旋(ほんしんせん)」を用いる。そして、「」これは清朝末式八卦掌における最上位術理となる。

腰を回転させることによって転身するのではなく、股関節部分を畳み斜め後方スライドすることで、両足の互いの内側が擦るくらい近付き(磨徑・まけい)、転身動作が体軸を中心として限りなく一直線上にて行われることとなる。

翻身旋の俯瞰

この要訣によって、「(小)擺歩→扣歩→(大)擺歩→扣歩」の動きだけで、「けん制のための手出し→スライド→虚打けん制→転身スライド前敵けん制」をおこなうことができるようになる(下写真参照)。

この動きの代表的かつ基本的な型が「単換掌」となる。それゆえ水式門では、翻身旋理による斜め後方スライド撤退戦の対敵身法を「単換掌の術理」と呼ぶ。

単換掌の術理の術理に精通すると、敵の斜め後方・側面・旋回時外周からの敵のアタックに対し手を出して対応しても、その移動速度をほとんど落とさずに対応することができる。

つまり、清朝末式八卦掌における最重要要訣「勢(せい)※高い移動推進力を維持した状態」を敵の猛追があっても維持でき、勢が維持されているがゆえに、多人数の敵から逃れ、強者の力任せの攻撃にぶつからず避け、勢による電撃奇襲攻撃が敵の脅威となり、守るべき人を囮(おとり)護衛という手段で守ることができるようになる。

翻身旋に習熟すると、腕の軌道を身体のすぐそば(体の軸から横に飛び出さずにキレよく実行できる)とすることができ、軌道が最小半径となり、敵から見たら「小さい動き」で技を繰り出すことができるようになる効果も生み出す(刀裏背走・とうりはいそう)。

軌道半径が小さくなることで攻撃初動動作が小さくなり敵にもわかりにくくなるため、不意打ちけん制の効果も高まる。

腰を後ろに回しただけの動作で肘下の手を後方へ向けて振り下ろすと、その手の軌道は頭の真上ではなく、頭の斜め前を通り過ぎる軌道へと変わってしまう。

股関節周辺部分を畳んで転身することによって、八卦掌の技は、体軸に限りなく近い位置にて、回ったり、切ったりする。

実際の八卦掌の各技には、股関節部分を畳まないことによって繰り出される技も当然に存在するのだが、ここは、股関節畳みの動作による頭の上からの振り向きざま攻撃を学習しているため、しっかりと守ること。

悪い例は、腰のみを回転させて身を翻すことである。斜め後方スライドの際に、敵が向かってくる方向へ、我の身体が動く過程が含まれてしまう。

その一瞬で敵は我に大いに接近することになり、力がぶつかりやすくなる。間合いが詰まることにより、後方スライド時に出した手をつぶされ、力がぶつかったことによる動作の遅れによって、敵に正面を向いた状態で押し込まれ、離脱ができなくなり、力で押し込まれる事態を招く。

腕の軌道半径も動作も大きくなり、敵に悟られやすくなり、けん制不意打ちの効果が減少する、という結果も招くが、最も悪い結果となるのは、やはり力がぶつかることである。

足を固定しておこなう推磨式基本功において、股関節部分をたたむ動作によって転身する概念を身体に覚えさせる。これこそが、推磨式基本功の最重要使命である。

推(すい)

股関節を畳みながら推の動作をし始めるのではなく、股関節を畳んで身体を転身させ、上体が後方へと向き切ったと同時に、間髪を入れず、後方へと手を推し出すのが「推」である。

単換掌・双換掌の2大基本技を参考にして、幾つかの手の出し方を用いた「転掌式」における「推磨掌転掌式」で、この手法が採られている。

最も簡素な動きのため初学者でも使いやすく、修行初期に師から習うことが多い。ゆえに練習蓄積時間が他の転掌式と比して多くなるため、習熟した掌継人にもよく使われている。

翻身旋による推

胸前抱式(きょうぜんほうしき)にて立つ。両足は肩幅分の広さで両足を置く。足の向きは外に開くわずかな「ハの字」となる(写真1)。

転身する軌道の反対側の尻部を後ろから円ボールで押されるような感覚で斜め前に出しながら、転身軌道側の足を股内側に畳み、転身していく(写真2~4)。

股関節部分を畳んで転身し切った状態から、我の身体全体の斜め後方へ、手を押し出す(推・写真5~6)。

腰を回転させて転身すると、推の軌道は、円弧を描き敵方向へ向かうことになる。手が身体軸から離れて敵方向へ向かうことを意味するため、手の重さによる遠心力がかかり、身体軸が揺れる原因となる。また、推の軌道は円弧を描くことになり、遠回りして敵の向かうことになり、敵に見切られ、腕の根本部分を抑えられるなどしてブロックされやすくなる。

拍(はく)

股関節を畳みながら身体を開く側の腕を我の頭の斜め上まで持ち上げ、「はたく」動作で手を翻し、再び下方へ押さえつけるようにして後方へ推し出すのが「拍」となる。

頭の斜め上で手をはたいて身体を翻す動作は、清朝末式八卦掌における発勁の一つ「翻身発力」を用いた動作である。斜め後方敵の急接近に、斜め後方スライドしながら打つと、転掌式たる「拍打転掌(はくだてんしょう)」となる。

「拍」を用いて前敵や横敵に電撃攻撃のために急速接近したり、前敵や横敵から急速離脱したり、または横敵・斜め後ろ敵にけん制攻撃するのは、「翻身拍打(ほんしんはくだ)※別名:青龍探抓」となる。

翻身拍打は、八卦掌の原則技「単換掌」の最後に組み込まれる技であり、転掌刀術でも多用される極めて重要な技となる。

翻身旋による拍

片方の手の手のひらを上にして、物乞いをするような姿勢「老僧托鉢式(ろうそうくはつしき)」にて立つ。両足は肩幅分の広さで両足を置く。足の向きは外に開くわずかな「ハの字」がやりやすい(写真1)。

股関節部分を畳みながら後方へ身体を転じる動作(翻身旋)に合わせ、身体を開く方の手を、我の頭の後方上までやや勢いよく引き上げ、そこではたく。はたくと同時に、身体は翻身旋による転身をほぼ完了する(写真2~3)。

翻身旋によって翻りを終えた瞬間に、身体の末端部たる手を、斜め下方へと押さえつけるような軌道によって推し出す(写真4)。

蓋(がい)

「蓋」は、双換掌・定式八掌の主要転掌式たる陰陽魚掌における上半身の身体動作を、定歩(足を固定した状態)で練習するものである。

八卦掌修行者は、「翻身旋」の理を洗練させるための術理たる「刀裏背走理とうりはいそうり※伸ばした(突いた)手を素早く身体軸に近付けることで、翻身旋を切れよく行ううえで妨げとなる末端部の遠心力などを排することを目指す術理)」を、「蓋」を通して修行初期に学習する。

転掌刀の陰陽上斬刀・連身藤牌における連身牌・双身槍における蓋手サイ槍など、武器術中の定番技の動きには「蓋」の手法と身法が含まれているため、推磨式基本功中において極めて重要な型となる。

翻身旋による「蓋」

身体を開く方の反対側の手を、翻身旋によって股関節を畳みながら身体を転身しつつ頭の後ろから上へと抜けさせ(写真1~4)

身体の転身終了と同時に頭斜め上から下方へかぶせ下ろし(写真5~8 ※この手法を「蓋手・がいしゅ」という)

その後、蓋手した手を手前に引きつつ身体に寄せながら、反対側の手を手のひらを上にした穿掌で逆の斜め方法へと突き出す(写真9~12)

平穿(へいせん)

平穿を効果的に打つためには、推磨式基本功で要求される上体を後方へ向けるプロセスを徹底して守る必要がある。ここでも当然、翻身旋が要となる。

つまり、翻身旋にて体軸から身体が極力はみ出さないように転身しつつ、平手による平穿掌を、転身終了と同時に、手を伸ばす感じで放つ。

平穿は力を伝えやすく、当たれば強力なダメージを敵に与えることができる。動作は横方向への平斬りのためシンプルであり、実行しやすい。

しかし上体の後方への向け方を、腰の単純回転だけによって行うと大振りの手刀攻撃になってしまい、根本部分(肩の付け根付近)を抑えられるなどして、簡単に避けられてしまう。

推の場合と同じく、上体が後方へと向き切った直後に、間髪を入れず、後方へと手刀を切り出す。敵はその発出タイミングが分かりづらくなり、防御も難しいものとなる。

劈(へき)

「劈」には、大きな劈「大劈」と、小さな劈「小劈」があるが、推磨式基本功における「劈」は大劈である。

「股関節をたたむ動作によって手を引っ張り上げ、斬り下ろす」という、股関節たたみ動作先行の感覚(股関節部分を畳むことで身体が転身し、その転身にあわせて手が繰り出される)を、推磨式基本功中最も動作の大きい「劈」にて養う。

股関節をたたみ後方へ身体を向ける動作に合わせて、前に出した手の肘の下に沿えた手を、頭の真上を通って後ろに振り下ろす。

頭の真上を通すためには、後方転身時、腰を回転させるのではなく、股部分を「畳む」つもりでおこなうことが大変重要である。

推磨式基本功を各手法で練習する前に、ここで発想の転換をしてほしい。「頭の真上を通すために、股関節周辺部分をたたんで転身する」のではなく、「股関節周辺部分を畳んで転身する動作の結果、自然と劈が、頭の真上を通る」のである。

腰を回転させて身体を転身すると、付随する手は、頭の真上を通らず、頭の斜め前上を通るため、最短距離攻撃をおこなうことができない。

撩陰(りょういん)

清朝末式八卦掌におけるけん制攻撃・電撃奇襲攻撃の際に頻繁に用いるのが「撩陰」となる。

しかし手で行うよりも、何かしらの道具(主に、身の周りにある棒状の道具)を移動推進力によって下から上方へ大きくすくい上げ、敵にぶつけて攻撃するイメージである。

手(棒・刀)の軌道は、翻身旋理により身体に沿っている必要がある。股関節を畳むのではなく腰を回転させてすくい上げると、手(棒・刀)の軌道が、身体から離れて外方向に円弧を描いて敵に向かうことになり、遠回りとなり敵に見切られやすくなる。

また、遠心力により後方スライドの切れが削がれ、身体軸がぶれることで、打ち出した後の身体操作が難しくなる。

「下からすくい上げる=金的を打つ」という発想に囚われない方がいい。金的攻撃は、武術未経験者でも本能による防御行動がなされるため、なかなか当たることがない。

それよりも、移動推進力を用いて手や棒を敵にぶつける方が、敵の足を止め、もしくは防御の手ごと攻撃し損傷を与えることができるため有効である。清朝末式八卦掌における「撩陰」が、他派の「撩」に比べて高くまですくい上げるのは、金的攻撃よりも、ぶつける攻撃を想定しているためである。

翻身旋による「撩陰」

胸前抱式から、撩陰をする側の手の反対側のお尻部分を、後方から押される感覚で前に出しはじめ(写真1)

それと同時に、撩陰をする側を内股方向に畳み後方へ身体を向けはじめ、それと同時に、撩陰を身体に沿って、身体のすぐ横を通り過ぎさせながら後方へすくい上げ(写真2~3)

股関節を畳んで身体を後方へ完全に向き切ると同時に、撩陰の手は我の顔の前の高さまですくい上げる(写真4)