『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術』とは
誰もが「本当に使える」護身術とするため、襲撃者につかまれない身法を習得することが本書の目的
本書の目的は、転掌に伝わる、襲撃者につかまれない・捕まらないための身法・対敵法を公開し、誰もが本当に使える「自分次第」の護身術を普及させること。
ただ逃げるのではなく、襲撃者の機先を制し、けん制攻撃で足を止め、離脱の機会を創り出すための具体的な方法「一定時間生存術」を、転掌の伝承のままに伝授します。
移動による攻防となるため、効率的で転倒しない歩き方を冒頭で詳しく指導。迫る襲撃者の攻撃から身を守る「斜め後方スライド」の転身法を、理論と併せてしっかりと技術指導します。
襲撃者につかまれない技術を徹底して磨くことにより、「引きつかんで倒す」などの高度な技法も必要とせず、移動攻防に慣れれば、誰でも護身が可能となります。
襲撃者の身体に接触して技をかける技術ではないため、一人だけの練習で十分レベルを上げることができます。
本書で学ぶことのメリットは?
持久力が向上します。本書で指導する「一定時間生存術」は、専門の歩き方による「早歩き」もしくは「小走り」で練習します。定期的に練習することで、自然と持久力がつきます。
ダイエットに効果大です。定期的に練習するということは、日常生活中に「中国拳法」という全身運動を採り入れること。護身力の向上におまけして、身体の余分な脂肪が落ちスリムになるという嬉しい効果が期待できます。
万が一の際の安心感が得られます。襲撃者に高度な技法をかける護身術と違い、自分がサッと動くことができれば、護身成功の確率がグッと上がります。襲撃者の状況に左右されない「自分次第」の護身技術の習得は、あなたに大きな安心感をもたらします。
体幹力の強化になります。斜め後方へ下がりながらの対敵法の練習は、身体を安定させる練習にもなります。定期的な練習によって体幹力は強化され、日常生活においてバランスよく軽やかに動くことができるようになるでしょう。
本書はこんな方におすすめです
既存の護身術を難しく感じている方。本書で指導する「一定時間生存術」は、「襲撃者の手をつかんで巧妙な技で倒す技術」ではありません。襲撃者の接近に対し、素早く移動し距離を取り、、幾度かの対敵転身法でさばいて襲撃者を引き離し、離脱する技術です。この技法は、定期的に練習する方であれば、誰でも習得できます。
一般の女性護身術に疑問を感じている女性の方。護身術道場で組手(自由打ち合い練習)を経験し、男性の圧力に圧倒され、自信を無くしている方に最適です。本書の技術は、襲撃者の力に抗しないための移動身法を養うもの。練習すれば誰でもできます。
本格的な中国拳法に興味のある方。本書で指導する「一定時間生存術」は、転掌における技術そのもの。護身術向けにカスタマイズしたものではありません。本書で学習する、ということは、純然たる中国拳法を学ぶことなのです。
独学で実用的な護身術を身につけたい方。本書で指導する技術に合わせて、八卦掌水式館では対応動画をYoutubeチャンネルにアップし、独習者が独りで動作を学習できるよう工夫しました。「全国に普及させる」ための動画です。あなたの独習にお役立てください。
- 『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術~西洋格闘術でない身体柔弱東洋人専用護衛術による真の自分護衛術』の概要
- 本書で独学できるのか?答えは「練習する者ならば入口に立つことができる」
- 本書を使った学習の仕方
- 『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術』対応動画と、動画学習のポイント
『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術~西洋格闘術でない身体柔弱東洋人専用護衛術による真の自分護衛術』の概要
後宮において技術の浅い官吏~技術中堅クラス官吏までの護衛技術を持った護衛官が使った技術に絞って解説している
「転掌」は護衛技術です。水式館のサイトを見たことがある人ならば、その護衛技術が、移動遊撃戦による囮(おとり)護衛であることを知っていると思います。
しかしそれはあくまで、転掌を習い初め~中堅官吏になる直前の者たちの護衛技術です。転掌における護衛法の第一段階です。転掌をやり込みその技法に精通した転掌マスタークラスは、襲ってくる者の前に出てくる突進のベクトルに逆らうことなく、並走スライドで要人を守ります。つまり、相手の攻撃が届くか届かないかの距離(間合い)を保ちながら、敵が突出して我の出し続ける手に当たるまで、その距離を保って攻防し、護衛するのです。
転掌のマスターレベルになると、ここで初めて、八卦掌における走圏の意味が理解できるでしょう。この攻防ををするための移動法の練習が、現行八卦掌における走圏に該当します。※転掌に「走圏」練習はありません。
本書は、転掌マスターが繰り広げる、並走斜め後方スライド変則撤退戦攻撃を実現するための基本中の基本、大きく斜め後方へスライドしながら攻防する、護衛法第一段階「斜め後方スライド撤退戦」の対敵身法による「一定時間生存術」を解説しています。
「第一段階の基本のみ?」と考えるならば、とにかく練習してみるといいでしょう。未だに私(水野)は、本書で示す内容を「重要基本」として、練習し続けているです。繰り返せば繰り返すほど、様々なカスタマイズが思いつくくらい、奥深いものです。初心者が取り組むには、多すぎるくらいの内容。ぜひ堪能してください。
現代格闘技によって植え付けられた常識を打ち崩すことが本書の使命~「試合用格闘技」と「一定時間生存術」の違いを理解せよ
本書最大の狙いは、テレビや映画で見る、構えてから攻防・・のあのスタイルの常識を、あなたの頭の中から追い払うことです。あのスタイルは昔のトレンドではありません。
武術とは、弱者が、強者の暴力に対し、己の今持っている資源で、以下に効率よく対処するか、の発想から生まれたものです。
筋トレをし身体を重くしたり、少し殴られただけでは倒れない打たれ強さを獲得するために身体各部を固くする発想は、男性強者の発想。つまり、力や体格差、若さなどの身体的優位さで、自分より弱いものを倒す、強者側の実行する武術です。
本書をわざわざこの世に出したのは、すべての身体柔弱なる者に、「弱者のままで対処する方法」を伝えるためです。多くの格闘技道場・護身術道場は、自分の取り組んできた全く目的の違うもの(強者養成を目指した格闘技)の小手先技法のみを改編して「護身術」化し、教えているのが現実です。彼らが教えているのは、試合で勝利するための格闘技であり、水式館で教えているのは、とにかく攻撃を回避してなんとか生存につなげる「一定時間生存術」なのです。
目的が違うなら、目的を達成するための過程(プロセス)も違っていて当然です。一般の護身術は、そもそも利用目的を違えているため、設定した目的を達成するためのプロセスに大きな無理が生じているのです。一週間に1時間程度、トレーナーとミット打ち練習をしただけで、理性を失って襲ってくる男性襲撃者の急所に先制攻撃なんてできません。
向き合ってから、射程距離に入った途端前に突進してくる男性襲撃者のスピードと圧倒感は想像を絶します。身体が固まってしまったら、先制攻撃はおろか手技での防御を含めた手を出す動作すらできないのです。
私はそれを、中学生の時に佐藤金兵衛先生の本を見て直感的に気づきました。その日から今まで、多くの人に理解されない中で、やっとここまで体系づけたのです。この成果を見るも見ないも、あなた次第。
テレビの中で見る格闘技で強くなりたいなら、毎日必死に筋トレをし、身体を重たくし、重量と力で相手を圧倒することです。
もしあなたが、ここで話す内容に興味と共感を示すなら、早速本書を手に取り、昔日の弱者使用前提の生存術を体験してみることです。「強者になる必要なんてないんだ」と実感し、心に平安が訪れ、真に護身術を必要とする立場の人であれば、明日からの練習にやる気が湧き上がることでしょう。
使えない「手技で攻撃を綺麗にさばく」技の指導はしない。歩き方・身体の移動方法など「自分次第」の根本的身法の習得を目指す。だから使える。
両者が互いに向きあう写真があり、相手がこう来たら、こうする・・を期待しているなら、本書は「外れ本」です。買わないことをおすすめします。
本書では、そのような解説はありません。「相手がこう来たら・・」の時点で、無限のパターンで押し寄せる自分の思い通りにならない「敵」の存在を無視しています。
「相手がどのように来ても実行する身体操作法」を本書では指導します。それゆえ、技法はシンプルで、少ないです。たったふたつの対処技を実行するために、考え方・身体の使い方の理屈・移動の仕方・移動時の上半身の姿勢・運足技術を学ぶのです。
内容は極めて地味なれど、初級~中級拳士が理解しておくべき術理は、すべて書いてあります。その術理をまず読み、そして練習し、練習し、時折また読み、言っていることが「ひょっとしてこういうこと?」と理解したら、また練習し・・・を繰り返すことで、やっと血肉となるのです。先生が毎日教壇に立って教えてくれるから上手くなる、のではありません。
敵の猛然とした襲撃に対し、あなたが実行することは、斜め後方スライドで、間合いを作成し、敵の襲撃速度を相対的に遅くすることです。そしてその中でけん制攻撃と転身技術によってチェイスを何度も何度もかわし、敵の息が上がった時点で、離脱すること。これは、昔日の転掌護衛官が、己を一定時間生存させた、死線を潜り抜けてきた実績技・術理です。
読んでいてわかる通り、敵の前進のベクトルに抗せず、反対側へ移動しながらやり過ごし続けるのがメインです。手技で攻撃をさばくことはほぼしません。時折、軽く触る程度です。この「斜め後方スライド」対敵身法は、敵の技量に関係なく実行できるもの。言い換えるならば、「敵」の都合に左右されない「自分の状況で完結できる技術体系」なのです。
繰り返しの練習は当然に必要です。膨大な繰り返しを要します。当たり前です。繰り返して養われる身体移動のキレと持久力が必要なのですから。しかしその練習は、自分ひとりでできるのも、転掌が「自分次第で現状を打破できる技術体系」の武術と公言することができる根拠なのです。
ここまで読んで「どんなんだろう?」と少しでも思ったなら、迷わず読んでみるといいでしょう。今まで「本当に護身術なんてあんなにうまくいくの?」と思っている「疑い深い人」ですら、その疑問に答えが見いだされます。
言っておきますが、本書に「マジック」はありません。武術雑誌にはよく「魔法のような身体操作法で敵が分けも分からぬうちに倒される技術」が掲載されます。あのたぐいの技術は期待しないでください。ここで示す技術と練習法・術理に、神秘性は一切ありません。繰り返しの練習によって、やっと実行できるものばかり。
「魔法のような技法で・スマートに・鮮やかに・一瞬で」を期待する者が共感することができる内容は、少しも掲載されていません。
本書で独学できるのか?答えは「練習する者ならば入口に立つことができる」
本書は、水式館が本部を置く石川県金沢市に通うことができない人に向けた書です。
そもそも、その練習過程のほとんどが「独学」とならざるを得ない者に向けて書いた書ですから、初心者でも分かりやすい平易で専門用語を使わない解説を心掛けました。
もしあなたが、例えば本州以外の人であるとか、経済的に金沢を訪問することができないなら、本書は大いに役立つでしょう。そこに書いてある術理を読み、練習し、練習し、また読み、練習し・・・を繰り返すことで、転掌の入口に立つことは可能です。
入口に立つまで、まず練習してみることです。その後のことは、その時考えればいいのです。
私は、八卦掌原型の武術であった「転掌」を教えてくれた師に、たった2年半の短い期間のみ、師事しただけです。それゆえ、必要最小限の技法を徹底的に繰り返し、味わってきました。この少ない材料しか無かったため、繰り返すしかなかったのです。
あなたは本書で、まずふたつの対敵法を実行するための、理論・基本の身体の動かし方を学ぶ必要があります。「試合用格闘技=実戦」だと勘違いされた現代では、その常識を頭から消す作業も行わなければなりません。
2,200円で、それらの考え・術理・練習法・対処法を学ぶことができるのです。あなたが、「あなたのままで使うことができる護身術」に興味があるのならば、早速購入し、練習を開始してください。
本書で示す練習法は、ひとりで実行できるものばかりです。誰の協力も必要ありません。誰の協力もいらないから、好きなだけ繰り返すことができるのです。
とにかく繰り返し、洗練させ、持久力をつけることです。練習が持久的練習となるため、相乗効果で体重も減り、身体の移動が軽やかになってくるでしょう。
敵が迫ってきたら、反対側へスライド移動する技術を身につけることで、敵の動きが相対的に遅くなり、敵の攻撃に当たりにくくなります。躊躇しないこと。相手が何か言っていても、構わず斜め後方へスライドし続けること。
今から160年前の中国清王朝宮中で、宮女(きゅうじょ)・宦官(かんがん)らが命をかけて王族を守るための使った「一定時間生存術」を、2,200円であなたの身体にインストールしてください。
本書を使った学習の仕方
まず本書を注文し手に取ること。それはあなたの師となる
本書を使って学習すつための第一歩は、このページを何度も読み返し、本書の目的を理解したうえで注文することです。私が中学生の時、1,500円以上の本「中国拳法 八卦掌」を、ためらわず買ったように。佐藤金兵衛先生のその本は、未だに私にとって最初の師です。
私は、志ある者になら、転掌の技法を惜しみなく教えます。しかし、少しの金を出し惜しみ、あわよくば無料でかすめ取ってやろうと考える輩には、一切その真理を伝えるつもりはありません(そういうタイプは実に多い)。
「みだりに伝えず」は、出し惜しみをしているのではなく、不誠実もしくは粗暴冷酷な人間に転掌の殺傷技法が伝わるのを避けるためです。
本書でも、上級技法たる人の生死を分かつ技法までは掲載しておりません。基礎のできてない初心者には尚早であるし、そのような反社会的な技法をみだりに公開しない道義的責任が、武術指導団体には求められるからです。
しかし、あなたが一定時間生存するための「自分を活かす技法」は、本書を手に取ってくれたあなたのために、惜しみなく公開しています。先ほども言いましたが、本書は、一定時間生存術の入口に立つための本です。そのための技法と理論は、ここにすべて載っています。安心してご購入ください。
「■序論~本書の目的と武術選びについて」 「■護衛武術「転掌」による弱者護身術~5つの鉄則」を何度も読んで、格闘技護身術の常識を頭から追い払う
「一定時間生存術」の土台的技術は、「転掌」における「歩き方」です。難しく考える必要はありません。つま先歩きを早速実行に移してください。
「こんな歩き方なの!?」と思うでしょう。そうなのです。それこそが、己の身体を常に予測不能で急激な敵の急襲から身を守るための、最大のツールとなるのです。これさえできてしまえば、手による防御がいらなくなるくらいの技法なのです(手の技法が不要なのは達人レベルの話)。
つま先歩きを実行しながら、頭の中に入り込んで常識化した「格闘技護身術」の術理を、頭から追い払います。最も最初に取り組んでもらいたいのが、「強くなるために筋トレをすべし」たぐいの、強者養成プログラムです。強者化には時間がかかります。「万が一」は、数年先ですか?遠い未来ですか?
強者になるまで待ってられません。いや、強者になる必要もありません。戦うことが当たり前であった昔ならば、弱者が強者に変わるプロセスの武術は成り立ちませんでした。強者がより強者になる武術か、弱者が弱者のままで戦う武術か、のどちらかでした。もちろん、本書の転掌や転掌式八卦掌(清朝末式八卦掌)は後者です。
「一定時間生存術」を構成する術理「単換掌の術理」を理解し、次の段階に備えること
つま先で歩くことに違和感を感じなくなってきた頃には、あなたの頭から現代格闘技の洗脳が消えているでしょう。そこで初めて、転掌の技法に入っていきます。
推磨式基本功(推掌定歩基本功)により、斜め後方スライド対敵身法実行時の、股関節の使い方を、身体にインプットします。まず足を止めて、その場で。
推磨式基本功は大事な基本練習ですが、一定時間生存術は、動くことで可能となるのです。よって、動いた状態での足の運び方を練習していきましょう。運足技術練習です。ここから中核技法に入っていきます。
あなたは必ず「単換掌の術理」をここで何度も読む必要があります。そこで説明されている「翻身旋理(ほんしんせんり※日本語読みで示しています)」と「刀裏背走理(とうりはいそうり※日本語読みで示しています)」を今から習得するために。なぜそのふたつの理が、一定時間生存術を実行する「転掌」で必要なのか、をあなたは心から理解する必要があります。
理解することで、転掌の次世代武術「八卦掌」において、単換掌が基本技である理由が分かります(現行八卦掌修行者には、その理由を理解して練習している者はほとんどいない。これは、現行八卦掌が使えない理由の一つである)。
最も難しい「緒戦(戦の始まり)」の過ごし方を読み、ここでも「一定時間生存術」が有効であることを知る
戦いの中で最も難しい瞬間が「緒戦」です。多くの人間は、緒戦でためらうため、襲撃者の犠牲となるのです。
転掌における「一定時間生存術」では先制攻撃をしないため、緒戦でためらうことなく、日頃練習してきた行動を実行することができます。
つまり、敵が少しでも接近してきたら、斜め後方へスライドすればいいのです。日頃練習してきた行動をためらわせるのは、「相手に対する遠慮」のみ。「襲うつもりでなかったらどうしよう」です。
大丈夫です。接近してきた時点で疑われても仕方ないのです。私たちは、相手の思惑を知る術がありません。相手が本当にあなたを襲うつもりで近づいてきた可能性は、ゼロパーセントですか?そうであったとしても、それは私たちには分からないのです。外部状況を見てゼロパーセントでなかったら、ためらってはいけません。最悪の場合を想定して、あなたはためらわず緒戦行動を起こしてください。
ためらわず実行するためには、本書で示す3パターンを、最低限練習しておく必要があります。すべてのケースを想定したものではありませんが、ためらわずスライドするための練習には間違いなくなるでしょう。
敵に背を向けない斜め後方スライドを通して、実戦時の身体の使い方をシミュレーションする
最後に、敵に背を向けない斜め後方スライド対敵身法を学習します。
本書で示す「推掌転掌式(すいしょうてんしょうしき)」は、転掌・八卦掌の基本型「単換掌」の簡素版です。簡素版であるが、移動遊撃戦時の対敵対処法とそれに含まれる重要術理・身法を、すべて含んでいます。
真っすぐ直線移動して速く歩きます。敵が接近してきたと頭で想定します。空想の敵が接近して攻撃してきたら、あなたはすぐに敵に向かって手刀で手を差しだし、敵の攻撃軌道をふさぎます。ふさいでいる最中も足のスライドを止めず、肩を入れ切る瞬間に、敵に向けて、反対側の腕を伸ばし(けん制)攻撃をします。
このシンプルな対処法こそ、一定時間生存法でもっとも使う対処型となるのです。シンプルだからこそ、徹底的に繰り返せば速い段階で無意識レベルで繰り出すことができるようになります。シンプルだからこそ体力の温存につながり、移動遊撃戦が長丁場となってもなんとか手を出し続けることができるのです。
「敵に背を向けない」対敵身法の次は、「敵に一瞬背を向ける」対敵身法を学びますが、基本は「敵に背を向けない」対敵身法です。これは徹底的に繰り返すこと。
「推掌転掌式」を繰り返すことで、一定時間生存法に必要な動きを全て練習することができます。このシンプルな型を通して、とりあえず転掌・昔日八卦掌の生存のための真髄を理解してください。
『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術』対応動画と、動画学習のポイント
『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術』に対応する、弊館サイト上の無料掲載動画とイラストを目次ごとに掲載しておきます(※イラストは、本書掲載のものも掲載)。本書には動画が掲載できないため、ここで目次ごとに沿った動画を掲載することで、書籍購入者のアフターサービス代わりをしたいと思います。
本書を購入したが、実際の動きを見て練習したい方は、ここで対応動画をチェックし、日頃の練習の模範としてください。
技は少なくシンプルゆえ、重複している動画もあります。重複動画は、それくらい重要なポイントということです。
■はじめに 1p
ここでは、本書の目的と、本書を手に取った諸氏に対するメッセージ・学習の仕方が示されています。
ここで言いたいことは、「繰り返すことで、転掌の入口に立つことができる」です。ひとりで練習できる技術体系がメインのため、どれだけ厳しい状況(例えば不登校など)におちいっても、ひとりで学習することで、自信を取り戻すことができる、点です。
■序論~本書の目的と武術選びについて 8p
序-1.本書の目的 8p
序-2.護身を考える際の武術の選び方 10p
序-3.選んだ後は、基本に焦点を当てて繰り返し、原則を会得すること 12p
■護衛武術「転掌」による弱者護身術~5つの鉄則 14p
鉄則1:最初に「敵と向き合って構え・・」というテレビの格闘技試合や映画で植え付けられた対敵の常識を捨て去れ。 15p
鉄則2:とにかく距離を保て。距離を保つことは、対多人数・対強者・対武器における護身の絶対的基本である。 18p
鉄則3:防御はもちろん、攻撃すらも「斜め後方スライド」しながら行う「けん制撤退戦」を貫け。当てなくていい。当たらなければいい。 22p
鉄則4:「移動遊撃戦」で敵を引き回し、敵の足が止まったらキロメートル単位で離脱せよ。そのための持久力をとにかく養え。 25p
鉄則5:脚は常に移動防御・移動攻撃で使うため、蹴り技を使う暇はない。よって練習する必要もない。 28p
この動画を見ていただければお分かりの通り、転掌・転掌式八卦掌では、攻防は常に移動と共に行われています。
これは裏を返せば、軸足を作って行う動作(軸足を必要とする蹴り技)を行うことができないことを意味します。
軸足を作る=その場にとどまる、ことになるため、転掌ではほぼ蹴り技を使用しません。
水式館では、門弟に蹴り技を教えることがありません。逆に、他門派の人間が組手などで蹴り技を出してきても、構わず移動し続けろと指導します。
リーチが長いと言われる蹴り技でも、移動距離のスケールと比べたら、その差は歴然としています。蹴り技は届きません。転掌においては、そのようなメリットのない技に、貴重な練習時間を割くことはありません。
鉄則6:刀術ベースの棒操術を身につけ、有事の際に身の周りにある棒で対抗できる可能性を生み出せ。練習しなければ可能性は生まれない。 29p
「武器は手の延長」。中国拳法ではそのようなことがよく言われます。
しかしなぜか日本では、武器術を真剣に練習することはありません。演武用に、模造刀や木刀を使って、型を練習する程度です。
しかし水式館では違います。修行初期段階から、転掌の原点となった「単換刀」を学習し、転掌の術理の基本を体得することを目指します。
持っている武器が槍か、刀か。そのようなことは重要ではないのです。転掌を構成する術理で、自分の身体を操り、その身体移動に付随する武器を移動によって扱う(斬る・叩く・はじく等)ことができるようになることが重要なのです。
身体移動によって持っている道具を振り回すことができれば、どのようなモノでも武器化できるのです。上着であっても、バスタオルであっても、カバンであっても、買い物カゴであっても。
動画は、武器操法の基本である、転掌に伝わる刀術型「転掌刀」の主要な技です。本書では紙面の関係上武器術に触れていませんが、いずれ必ず出版し、皆さんに武器術の道しるべを示したいと思います。
■推磨式基本功(推掌定歩基本功) 32p
転掌の最重要基本功たる「推磨式基本功」 32p
推磨式基本功。転掌門において最重要とされている基本功です。原初技たる推掌定歩基本功があり、それに付随する5個の変化技も練習して、転掌の手技の出し方をも習う基本功です。原初技たる推掌から、「推掌定歩基本功」と呼ぶ指導者もいます(私の師である、楊師がそうでした)。
最重要基本功とされているのは、もっとも最初に、転掌を土台レベルから支える術理「翻身旋理」に触れる練習であるという理由から。
「股関節を畳んで斜め後方へと身体を展開していく」動作は、日常生活ではなかなか体験できない動作。ここで身体各所に、この非日常的動作を経験させます。
日頃の練習の最初に、身体各所をあたためる目的も込めて練習するといいでしょう。私は毎日、練習しています。
推磨式基本功の最重要項目:翻身旋(ほんしんせん・身を翻す旋法動作) 35p
転掌の土台技術は、歩き方にあり、単換掌の土台技術(術理)は、翻身旋理(と刀裏背走理 ※後述)にあります。
翻身旋理は、移動遊撃戦、敵が四方から急接近して自分に攻撃をしてきた際、股関節を畳んで最小限の旋回で身体を敵の反対側へ移動させる技術です。
腰を回転させて旋回すると、回転のたびに身体に必要以上の遠心力がかかり、敵の反対側へ移動する際のキレが鈍くなります。
股関節をたたんで、身体を股関節のたたみで後方へ転身させ、そのうえで手を推し出す。このシンプルな動きは、足を動かしながら翻身旋理を実行する練習の導入となります。
推(すい 推掌定歩基本功) 38p
動作が最もシンプルな基本功。昔日は、この「推」と、後述の「蓋」「平穿」しか練習しなかったとさえ聞いています(師伝)。
シンプルな動作=簡単で底が浅い、ではありません。このようなシンプルな動きは、おおよそその技術に求められる術理をすべて含んでいます。
股関節の畳みで身体を後方へと向け(移動させ)、身体の入り身と同時に手をスッと出す。この流れは後に続く推掌定歩基本功の各技に共通しているポイントです。推掌でしっかりと理解しておきましょう。
拍(はく 拍掌定歩基本功) 40p
推のシンプルな動作に、ほんの少し変化を加えた基本功。振り向き様に、頭のほぼ頭上で、手を一瞬はたくようにして翻しながら、後方へ推し出す。
この動きは、転掌・八卦掌で極めて頻繁に登場する、転身蓋掌(蓋掌転掌式・陰陽魚掌など、名称多数)の基本となる身体・手の使い方の初歩となります。実は拍掌の動きは、刀術(転掌刀)の術理の基本より発生したと考えられ、他の武器術(槍、双単棒など)でも大いに活用できる動きなのです。
推掌で、下半身の動きに慣れてきたら、拍掌のような少し技巧的・武器術的な技に挑戦すると、好奇心が刺激され練習を長く続けられるでしょう。
蓋(がい 蓋掌定歩基本功) 42p
「蓋掌」は、前出の拍掌とおなじく、武器操法で大きくその真価を発揮する動きとなります。
転掌における武器術は、上半身で武器を振り回すのではなく、キレのある翻身旋理による身体移動によって、身体に追随させて武器に大きな軌道を描かせ後ろ斬りします。
よって土台たる翻身旋理の練習をしつつ、初心者から初級者となり余裕が出てきた修行者に、翻身旋理によって移動する身体に武器を追随させる斬る(叩く)術理を体験させる意図で、定歩基本功の最初のうちから、拍と蓋を練習させるのです。
修行の初期から、これほどまでに武器操法を意識させる転掌が、いかに「とにもかくにも生存を」をスローガンにしているかお分かりでしょう。
平穿(へいせん 平穿掌定歩基本功) 44p
単換掌における、斜め後方から迫ってきた敵への手出し動作において、最も使われるのがこの「平穿」です。
股関節のたたみによって身体が後方へずらし向けされるのに併せて、脇下付近から、手のひらを下に向けた「手刀」を繰り出します。
対多人数移動遊撃戦は、持久戦でもあります。手を頭の上にあげる「蓋掌」や「劈掌」、「拍掌」などは、出来なくなる可能性があります。
そのような緊急事態に、この平穿は役立ちます。熟練者は、そのやりやすさや省エネ的な技法から、好んで平穿を用います。
勢いが出る手法ですが、大振りにならないように。必ず股関節の動きに合わせて、身体が後方へ向いたら手刀を敵方向へまっすぐ伸ばすような感じで行いましょう。
劈(へき 劈掌定歩基本功) 46p
手刀を頭上に上げ、そのまま下ろす手法です。
素手の技法、というよりも、刀術にて用いられることの多い技法です。
股関節のたたみ具合をチェックするうえで大変役立つ手法となります。振り上げた手が、頭上を通っていることを確認しながら行いましょう。
もしあなたの手が、頭の斜め上前方を通っているなら、股関節のたたみではなく、腰を回転させることによって身体を後方へ転身させている可能性があります。
撩(りょう 撩掌定歩基本功) 47p
身体の下方から、手を上に半円を描いてあげる手法です。
この手法で用いる動きも、刀術で多く用いられます。転掌刀(転掌における刀術の基本型)では、撩陰刀(りょういんとう)という型が、複数存在します。
撩陰刀は、股関節のたたみによる翻身旋理の移動に伴って、下から斬り上げられます。その重要刀術の基本ともなるため、ここでは手に何か刃物でも持っているかのようなイメージで、練習していきましょう。
下から上へすくい上げる技は、ともすれば金的攻撃の技法ととらえられがちです。しかし撩掌は、金的を打つことをさほど重視していません。むしろ持っている棒を、下から上へと移動しながらすくい上げ敵に思い切りぶつける使い方として使用されます。
■「基本姿勢」のとり方 50p
基本姿勢~姿勢要求の理由ととり方 50p
基本姿勢をとる際の注意点 51p
■歩き方~ショウ泥歩による路面を選ばず居着かない機動力基礎技術 53p
歩き方は、八卦掌独特の歩き方「ショウ泥歩(しょうでいほ)」で歩きます。歩き方では、この「ショウ泥歩」の習得がメイン課題となります。
転掌・転掌式八卦掌におけるショウ泥歩は、高速移動の速度を落とさないで急速転身を可能とする、命綱的技術。「ショウ泥歩無くして、転掌なし」です。
ショウ泥歩は、その場に居着かないための重要極意だから技法の土台となるのです、居着かないことで、最初の攻撃に対し機敏に動き出し後退スライドにつなげることができます。
「移動=防御」の転掌における、移動の最重要スキルであるショウ泥歩の理論と練習法をここで確認のうえ、練習してください。
ショウ泥歩とは 53p
着地は、足指付け根と土踏まずの間の、盛り上がった部分で行います。慣れないうちは、大変な違和感を感じます
八卦三十六歌訣の第一番目の「歌1」に「抓地牢(そうちろう)」というポイントがあります。日本語に訳すならば、「地面をひっかくように着地する」です。このポイントは、着地する瞬間足を手前に少し引きながら落とすことで実現できます。この抓地牢こそが、足場の悪い場所における「滑り」を防止し、どのような状況でも日頃の機動力を発揮させるための秘訣となります。
近代スタイル八卦掌の指導の現場では、つま先を前に出しながら、着地する瞬間にスッと一層前に出します。これは手を前に伸ばしながらかゆい箇所をかこうとするのと同じことであり、引き込むイメージで物をひっかく「抓地牢」の感覚を得られません。動画において、足を着地させる瞬間をよく見てください。
ショウ泥歩要訣1:「抓地牢(そうちろう)」で路面状況を選ばない移動技術を得る 54p
近代格闘術八卦掌では、ここで示した抓地牢を、厳密に実行していません。ひっかけるように着地しなくても、滑るリスクがないからです。
滑らないのは、技術が高いからではありません。路面状況の良い場所でのみ練習するうえに、急速転身を要するような切羽つまった練習をしないから、滑りやすいことに気づかないのです。
師や周りの修行者が、誰もが皆同じことを実行し、かつ指導者も、現行八卦掌のショウ泥歩が「滑りやすい」場所でグリップが効きにくいことを経験したことがないため「滑りやすい」ことに気づかず、その歩き方に疑問を抱かないのです。
ショウ泥歩要訣2:「平起平落」で、「居着く」状態を避け機敏に動き回る 59p
「平起平落」は「足裏全体」ではなく、先ほどの「足指付け根から土ふまずの間の盛り上がった部分」を平らに上げ、平らに下ろすを実行することで可能となります。
昔日の地面は整地された地面などほぼ無かった。路面など整理されてなく凸凹であったため、足を引き上げ凸凹の上を超えて足を進める必要があったため「平起平落」の要領を求めらました。
平起平落を実行すると、かかと部分が地面に着く時間は、ほんのわずかとなります。
■対敵イメージ移動練習で、移動時の軸を安定させる 62p
■転掌の構え方 65p
■対敵身法理論解説:「単換掌の術理」とは~弱者使用前提の技術体系を支える弱者のための術理 68p
転掌そのものの土台技術は、抓地牢と平起平落によるショウ泥歩。では、転掌の対敵対処法の土台技術は?それが「単換掌の術理」です。
転掌は、移動速度を落とさないことがとにかく重要です。移動速度が落ちると、後方から来る敵に補足され、周囲の敵の攻撃が当たりやすくなり、かつ、振り向き様にいる敵に、電撃奇襲をすることができなくなります。
これらができないと、おとり護衛は出来ません。この移動速度を落とさない技術が、「単換掌の術理」です。
そしてこの術理を実現する最もシンプルな型が、「単換掌」なのです。転掌における単換掌は、斜め後方敵に手を出し攻撃軌道をふさぎ、肩を入れながらけん制攻撃をして敵の足を止め、そのまま去っていくというシンプルなものです。
このシンプルな技法を繰り返して一定時間生存し、要人をおとり護衛するのです。つまり、転掌が王族に求められた護衛の任を果たすために考えられた、初心者でも何とかできる護衛法なのです。
本書では、単換掌の術理を詳しく解説しています。要人をおとり護衛するための最も根幹の戦闘理論とも言えます。そのことを念頭に置き、単換掌の術理を学習してださい。
単換掌の術理概説~宦官が自身の立身出世のために考え出した弱者使用前提武術の中核術理 68p
「単換掌の術理」の最終目的~「勝利」より「生存」を第一に考えたスタイル 69p
「単換刀」~戦場藤牌刀術から転掌への橋渡しとなった原点刀術型 71p
単換掌の術理を構成する翻身旋理・刀裏背走理を生み出した、転掌の原点・単換刀。
最前衛の盾持ち歩兵たる「藤牌兵(とうはいへい)」の刀術から、その形は生まれたと推測されます。
刀を引きあがる動作は、背中を見せて移動する転掌における、背中部分の防御として機能し、その引き上げは同時に、敵を下から上方向へと斬り上げます。
想定する使用者は非力な宦官・宮女であったため、移動によって刀を引き上げ、移動しながら斬り下ろし、翻身旋理によって去り斬りをします。
水式館では、この単換刀を、修行の初期段階から行います。武器操法の基本が習得できること、翻身旋理・刀裏背走理の両理を素手の練習型よりも強く体感できることが理由です。
機会があれば、転掌刀の基本型を、書籍の形で紹介したいと思います。
過渡期の「単換掌」~「単換刀」を徒手の手返しの良さの利点を活かして完成させた初期「単換掌」 75p
■転掌の説く、緒戦(しょせん)における対敵行動法 79p
「転掌の説く、緒戦(しょせん)における対敵行動法」を読む前に知っておいてもらいたいこと。
とにかく敵に近づかれないこと。これは、よくある護身術の、「脅威に近づかないこと」を言っているのではありません。近づかせないでつかまれない、はがいじめにされない具体的な技術のことを言っているのです。ここでは、この「近づかせない」技術をいかんなく発揮する方法を説きます。
この技術を徹底的に磨くならば、敵に先制攻撃を入れる必要はありません。「手をつかまれたらどうする」。手をつかまれる=相手を近づけすぎです。それは近づかせない技術がまったくなく、かつつかまれてから対処する、という思い込みを持っているからです。
相手が近づいてきたら、すぐさま間隔を空けます。何を言ってもわめいていても、構わず間隔を空けます。そしてそののち、一気に斜め後方スライドで間隔の距離を広げます。
「だけど!手をつかまれたらどうするんだ!」。これは実際に言われた言葉です。
転掌では、とにかくつかまることがないように、徹底して斜め後方スライドを練り、洗練させ、急速スライドを可能にすること目指すのです。ひとりで練習する護身術です。練習相手はいません。練習相手もいなくて成功確率もあげることができない振り払い・先制攻撃の護身術に、なぜ限られた時間を費やすのでしょうか。
それは、現在の動画投稿サイトに大量に存在する、「つかまれたケースから鮮やかに離脱する」動画に影響され過ぎているからです。皆さんは、「護身術」き聞いたら、真っ先に「つかまれたケースから鮮やかに離脱する」動画を思いだしますよね。それは、すでにあなたの頭の中が、そのように洗脳されているからなのです。
最悪の事態を想定し、ためらうことなくトップスピードまでもっていく 79p
なぜ、トップスピードに持っていくのか。それは、敵と自分との間に、とにかく間隔を作り出すため。
昔日の弱者の護身術の大基本は、「とにかく間合いをあけること」でした。庶民に、武術を練習する時間も、機会も、そして許可もありませんでした。そして襲撃者は屈強であり、かつすでに何らかの危害を加えるつもりでつかみにきているのです。つかむならまだいい。実際、刃物襲撃者は、何も言わずにいきなり刺してきます。
眼の前で止まって、振り回す。しません。
目の前で止まって、スキを見つけてから刺してくる。様子など見ません。
とにかく刺してくるのです。ですから、視界を広く見る練習を日頃から行い、そこでつちかった「遠目」の技法で接近者を察知し、接近者の反対側へ斜め後方スライドします。その技術を、とにかく養うのです。その技術を習得すると、つかまれる本当に寸前まで、離脱回避のチャンスを創り出すことができるようになります。
その技法こそが、護身成功を高める技術なのです。忘れましたか。転掌は、徹底した「弱者使用前提」の武術。強者に対し、つかまれた後に巧妙な技法が通用しないことなど百も承知です。もし強者相手に、華麗に絡めとったり転ばしたりする技法で転掌が構成されていたら、軍事・武術の知識も当然ある王族集団からダメだしをされ、宮中内護衛武術になど採用されなかったでしょう。
そのような敵を積極的にまじわる武術は強者の武術であり、弱者を強者にするための武術です。
緒戦において「構え」をとることはない 81p
柔道や近代八卦掌のような、敵の方向に向いて構える武術では、私は常に息苦しさと不安を感じていました。
柔道や合気道で、力任せの攻撃をされたことのある女性や子供であれば、すぐにわかるはずです。私ですら、体格のいい男性には、腕を取る系の技を決める自信がないのです。それは、何度も失敗し、力任せの攻撃にねじ伏せられた経験があったから。相手次第だから。相手の事情は、その都度変わるもの。そのようないきあたりばったりの要素に、私は常に不安を感じていたのです。
突進してきたらどう対処する?ああくるかもしれない。フェイントされたらどうする?と。
転掌にも、つかまれた後や、押し倒された後の対処法が存在します。転掌は、やるかやられるかの熾烈な歴史を持つ中国大陸の武術です。つかまれる、倒されるなどのわが命存亡の危機に、手を払う、崩して逃げるなどの対処法はありません。油断した相手の命を一気に奪うことで、その絶対的危機を逃れます(転掌では、その技法を実現するための下準備を、初歩より行う)。
しかしそれは最終手段であり、庶民や身分の低い者、命をかけて戦う経験の乏しい庶民には実行しにくいことを創始者も知っていた。だから、絶対的危機におちいらせないための、つかまれるかつかまれないかの分かれ目まで回避行動が可能な移動護身技術を開発したのです。
その回避行動をする際、「構え」は不要(邪魔)となります。その知識をもって読んでください。
緒戦の典型3パターンにて事前練習をする 83p
本書ではここから、具体的な緒戦行動法を教えていきます。この部分を読む前に再度、護身術動画の「相手が手をつかんできたら・・」を頭から排してください。
昨今の護身術動画では、つかまれているシーンから物事がスタートしていると、先ほど言いました。あのような動画は、護身術対処法の定番の「型」を私たちの頭に植え付けてしまっています。
あのような対処法が最も優れたものであり、最も合理的で、かつ護身成功確率も高い、と。指導者が武術の達人であったり、警察・軍隊出身者で実戦経験も豊富、などと書いてあったりすると、なお疑うことなく信じてしまいます(だから多くの武術家は、軍隊や警察での指導を、たとえそれが数日であってもアピールする)。
転掌の自分護衛術を紹介すると、学習者は必ず敵に手をつかまれた後の対処法を求めます。「つかまれてしまうまでが勝負だから、その練習(つかまらない練習)をとにかく繰り返してください」と言うと、多くの者(特に男性)は次から来ることがなくなります。
パターン1:敵に対し半身で待ち伏せし、敵が動いた瞬間に斜め後方スライドを開始する 84p
自分の心の中で不穏を感じる人間を発見したら、まず警戒の気持ちを持ちましょう。そしてその人間が近づいてきたら、その人間の正面を向くことなく、半身で肩越しに見ておきます。
警戒しすぎですか?そんなことはありません。男性もしくは襲撃者の接近に、もっと過敏になるべきでしょう。それは海外では当たり前です。
海外では、女性や弱者を狙った犯罪がとにかく多いです。しかし海外では、流麗華麗な「つかまれたあとの護身術」は普及していません。あくまで、武術等に興味のある女性が、たしなむ程度です。
それは海外でも、「敵の手を巧妙な技で外して逃げる」のような護身術を潜在的に「役に立たない非現実的な技法」と考えているからです。海外での護身術の弱者護身術のスタンダードは、とにかく「近づけさせないこと」。海外(特にアメリカ都市部)の女性は、見知らぬ人間に関しては、男性はもちろんのこと、女性ですら近づけさせません。
その疑念の対象は、当然親族にも及びます。夫婦間でも、その中が険悪となれば、たちまち近づけさせない対象になるのです(アメリカにおいて夫によって命を奪われる妻の数は、本当に多い)。
「つかまれない」ためには、まず「近づかせない」こと。遠目で周りを常に見て、視界から自分の方へ近づいてくる不審な人間がいたら、身体を入れて気持ち肩越しにその人間を見ておきます。視界の端からやや中央寄りで。
そしてなお近づいてきたら、一気に、ためらうことなく、この動画の緒戦法を実行します。
本当に襲うつもりの男性は、何も言わず、グッと近づいてきます。転掌の移動練習では、頭を固定させ、広い目で周囲を見る能力をやしないます。それは、視界の端にいる人間でも、近づいてきたことが分かるようにするためです。視界の端から中心点(自分)に分け入ってきた敵に、無意識レベルで身体を入れて回避行動を発動します。
パターン2:敵の機先を制し高速ショウ泥歩で一気に間合いを空ける 85p
パターン1は、視界の端から中に分け入ってきた人間に対処する緒戦法でした。
このパターン2は、より緊急性が増しています。相手がこちらに対し、何らかの行動を起こしている場合です。
何か文句を言っている。手を伸ばしてこちらに来い、みたいなジェスチャーをしている。相手の真意は分かりません。ですので、私たちはこのような相手をただちに「襲撃者」とみなし、しかるべき緒戦対処法で臨みます。
近づけさせない練習を、日頃から徹底しているならば、こちらに何らかの意思で近づいてきても対処は可能です。
少しでも速く、その場から移動し軌道を変え、敵を離します。近づけさせてしまっても、触られる程度なら、回避の可能性はまだ十分残っています。触られない状態ならば、日頃繰り返しの練習の中でつちかった、洗練された斜め後方スライドと虚打けん制で、十分間隔を作り出すことができます。
頭の中から、たくさんの動画で見られる鮮やかな振り払い系護身技術を追い払うこと。つかまれたら終わり、という危機感をもって、完全にガチッとつかまれるまで回避行動をすることです。あのような動画は、つかまれることに暗黙の市民権を与えています。
あきらめないことです。つかまれることを異常事態・最悪の事態と日頃から言い聞かせ、つかまれないための行動を、つかまれるまで行うことです。
パターン3:後ろに下がる中で、ついてくる敵の何らかのアクションを合図に、高速ショウ泥歩で一気に間合いを空ける 86p
このパターンでは、自分は相手と反対側へ移動しているのに、相手は追随してきています。緒戦対処法における最悪のケースです。この襲撃者に、遠慮のかけらもいりません。遠慮する=自分に危害が及ぶ、と頭に刻んでください。
追随していることが分かったら、この敵は何らかの行動を必ず起こします。接近速度が速くなった、接近しながら何か言った、手を伸ばしてきた、何でもいいでしょう。その変化をトリガーとし、高速ショウ泥歩で一気に間隔を空けます。
このような、接近しながら何か行動している襲撃者に、初心者が格闘技式護身術を実行するのは無理があります(熟練者であっても難しい)。
しあなたが、何かしらの理由でこれらの技術を欲するならば、習うのは意義あることでしょう。しかし護身術を欲する一般人は、おおよそ時間がないもの。護身術に何十年もかける時間的余裕はありません。短期習得が求められます。それは昔日の農民徴収兵に護身技法をとりあえず指導をするのとよく似ています。生存の可能性を生み出すための最も早い手段を実行すること。転掌は、その指導対象が、武術ど素人の宦官・宮女であり、最低限の一定時間生存術の短期習得を宿命づけられた武術。
短期習得を宿命づけられた転掌が、考え出したのが、先に動いて一気に間隔を空けて、その後自分のスタイル(土俵)で戦うことです。
パターン3は、転掌が最も想定している緒戦対処法と言えるでしょう。
■斜め後方スライドにおける足の運び方(運足技術) 88p
斜め後方スライドの運足方法 88p
転掌における足の動かし方では、擺歩(はいほ)・扣歩(こうほ)・直歩(ちょくほ)があります。
移動戦がメインの転掌・転掌式八卦掌では、擺歩と扣歩は、できて当たり前、さほど意識していません。
なぜなら、斜め後方スライド運足技術の中で、一緒に練習してしまうからです。
真っすぐ移動する際は直歩。右旋回する場合は、右足が小擺歩、左足が小扣歩。左旋回する場合は、右足が小扣歩、左足が小擺歩となります。
そして斜め後方スライドを行う際、扣歩と擺歩、そして直歩をうまく使い分け、スライド運足をしていくのです。
近代八卦掌では、擺歩・扣歩自体を使って、敵の足を引っかけたり、蹴飛ばしたり、防御したりします。
しかし転掌では、擺歩・扣歩はあくまで、移動時の運足方法の一つにすぎません。よって、擺歩・扣歩を特別にとりあげた独立した練習法は存在しません。
そして擺歩・扣歩をする際も、常につま先の後ろ部分にて着地することは変わりません。居着かないことで生み出されるキレのある身体移動、どのような路面状況でも日頃の機動力を発揮する歩き方の秘訣(抓地牢)、の両者を実行することの方が、転掌でははるかに重要です。
擺歩・扣歩の練習はサッサと終わらせて、運足時に抓地牢・平起平落ができるようになることを目指しましょう。
運足における翻身旋理の重要性 89p
この部分が、転掌における対敵身法の要となります。
熟練者は、熟練した翻身旋理による斜め後方スライド運足だけで、敵を突き放します。また、長期戦になって手が上がらなくなった時、熟練した運足技術は我が身を助ける最後の手段となります。
翻身旋理は、単換掌の術理を支える土台です。単換掌の術理を支えるもう一つの術理「刀裏背走理」も重要ですが、翻身旋理は転掌の命である移動技術を構成する術理であるため、その重要度は際立ちます。
推掌定歩基本功で練習した、股関節をたたむ秘訣を思い出しましょう。それを動きながら実行するのです。
■移動攻防法(1):敵に背を向けない斜め後方スライド(内転翻身斜め後方スライド撤退戦対敵身法) 92p
練習段階1:要点と術理を知り、基本型を繰り返し動作に慣れる 94p
ここでは、最もシンプルな対敵技法たる「推掌転掌式(すいしょうてんしょうしき)」を練習して、敵に背を向けない斜め後方スライドを練習していきます。
初心のうちは、動作に慣れることが重要です。動作に慣れてから、本型を構成する各所を洗練させていき、速度と精度を高めていきます。
この練習はひとりでしっかりと行うことができます。敵の接近をイメージし、急接近してきた(とイメージした)ら、平穿で手を敵方向へ差し出し攻撃軌道をふさぎます。
平穿で出す時も身体を入れる時も、足を止めてはいけません。移動で防御していることを忘れないようにしましょう。手を出す行為は、あくまで防御の補助動作にすぎません。
シンプルな動きゆえ、動作が分かりにくいと感じるかもしれません。
スロー動作を参考にし、動作の手順を覚えてください。速い動きも、洗練された斜め後方スライドも、繰り返しによって覚えた無意識レベルの動きによって導かれます。
注目してほしいのは、全動作において、その移動速度が下がっていないことです。移動速度を落とさないことが「単換掌の術理」の最大の目的です。
推掌転掌式は、単換掌の術理から生まれた最もシンプルな動きです。これを最高の教材とし、敵に背を向けない斜め後方スライドの対敵法を理解しましょう。
練習段階2:対多人数戦・対強者戦を可能とする「入身法(にゅうしんほう)」を意識した型練習をする 98p
入身法(にゅうしんほう・いりみほう)は、転掌で一定時間生存する可能性を高める、大変重要な身体操作法となります。
入身法をすることで、敵の急接近による攻撃を、攻撃到達の直前までかわすことができるようになります。けん制攻撃を放つ際、入身法をすることで、自分の攻撃がけん制以上の効果を発揮します。けん制時に、敵の攻撃にも当たりにくくなります。
入身法は、転掌における上級者が、少しでも入り身の成功確率を高めるために練習を繰り返すほどの上級技法となります。しかし初心者の方も、ぜひこの技法を知っておいてください。
知らないでやみくもに練習するのではなく、入身法の存在を知って、今この瞬間から意識していきます。
入身法の術理~入身法による攻撃動作は、なぜ生存を可能とするのか 101p
■移動攻防法(2)・敵に一瞬背を向ける後退スライド(外転翻身斜め後方スライド撤退戦対敵身法) 103p
練習段階1:基本型練習で転掌独特の流れるような転身動作を体験する 104p
転掌における移動遊撃戦では、敵に背を向けて移動し、頃合いを見て振り向きながら手を出して攻撃する技法がよく用いられます。
この技法は、敵に背を向けないで手を差し出して対処する移動攻防法(1)と双璧をなします。
敵が外方向や横、もしくは完全に後ろから迫ってきた場合、手を出すことが難しい場合があります。そのような時、背を向けたまま移動速度をあげつつ小旋回して、そこから斜め後方スライド動作に入り、手を出してけん制攻撃へとつなげます。
この動作を練習する際は、手を上にあげて行うことから始めます。この動作は「蓋掌転掌式(がいしょうてんしょうしき)」と呼ばれています。
手を上げて行うのは、身体の転身に勢いをつけること、そして、上げた手で引き上げ防御・引き上げ攻撃をするためです。
思い切り引き上げて身体の移動速度を上げ、敵との間隔を少し広げ、そののち手だし動作へとつなげていきます。
敵に背を一瞬向ける斜め後方スライドは、武器術(特に転掌刀術)の大きな基本動作ともなっているため、何度も繰り返して行います。
練習段階2:危機的状況をゼロリセットしうるイメージをもって大きな動作・多くの歩数で練習する 108p
■あとがき 111p
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