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最低限の時間で仕上げる護衛武術「転掌式八卦掌」弱者護身術

弱者(宦官)の囮護衛武術として生まれた八卦掌の原型「転掌」で大切な自分を守る。小手先の改良なし・伝承のままの、弱者使用前提に徹した超実用的護身術。

まえがき~当講座を利用するにあたって。遠方在住で指導を受けることができない方へ。

本護身術講座は、転掌式八卦掌における中核技術「一定時間護身し続け囮となる技術」を習得するための練習中における、「一人で練習することができる基本部分」に、護身術を志す者が、一人で取り組み始めることができるようまとめたものとなります。

公開講座において、転掌式八卦掌の徒手技法の大基本「単換掌の術理」と「単換掌」を公開します。護衛武術たる転掌式八卦掌の自分護衛術を、ここでしっかりと学んでください。

転掌の技法は、敵の力とぶつからないことを要とするため、近代格闘術八卦掌の制敵の精密技法を学ぶよりも格段に一人練習がしやすくなっています。しかし、全部を独学で極めることができるものではありません。ひとりよがりを避けるためにも、転掌技法に精通した指導者の指導を受ける必要があります。

当ページにて示す内容は、昔日の転掌式八卦掌における護身技術のエッセンス・単換掌の術理(ここに出し惜しみはありません)と、それを理解したうえで取り組む一人練習までです。そこから先は、指導との対面学習と併せて研さんする学習内容となります。

しかし、遠方在住者は、それも叶わないと思います。もし指導を受けることが今すぐ叶わないなら、身近な人に後ろから追ってもらった状態で後述する単換掌を練習しつつ、何とか機会を見つけて指導者の指導を受けてください。講習会の利用、もしくは弊門通信講座「護身術通信講座科」にて一人練習を学習し、人に追ってもらった練習も見てもらいアドバイスを受けると良いでしょう。

護身術とは、最も大切な「自分の命」を守るための、最もシビアな技術体系です。命がかかった技法ゆえ、お気軽に自分の考えだけで済ますことはできません。指導を受けることができない悩みは、八卦掌水式門指導部「shiroikukmoajisai@gmail.com」にご相談ください。※批判や意見については、一切お答えしませんのでご了承ください。

※本ページ中の使用画や名称は、使用画のネット中外での流布による思わぬ被害・著作権侵害を防ぐため、全人物画をイラスト・名称を仮称にて統一しています。

はじめに~『最低限の時間で仕上げる護衛武術「転掌式八卦掌」弱者護身術』とは

転掌創始者・董海川先生

身の危険を感じ、短い時間で己を守るための技術を身につける必要のある身体資源不利者たる「弱者」向けの弱者使用前提の護身術を、このぺージ内にまとめ学びやすくしました。このページでは、まず徒手技法(素手による技法)に限って指導します。

八卦掌の原型にして原点、清朝末期頃成立当時の「転掌(てんしょう)」は、清朝末期粛親王府宦官(かんがん・去勢された宮中内男性官吏)・董海川先生によって開かれた中国武術です。移動遊撃戦を展開し一定時間自分の身を守り生存し続けることによって囮(おとり)となり、清朝王族・王族の寵愛を受ける姫君らを守る、護衛の任務を授かった宦官の護衛武術でした。

宦官・女官は「転掌」を用い、王族の暗殺などをもくろむ侵入者(刺客)から、徹底した移動遊撃戦で一定時間生存し続け囮となって、仲間が救援に来るまで時間稼ぎをすることで護衛の責務を果たしたのです。

この「一定時間生存し続け」の技術でもって、現代社会においてそのままの形で用いることができるという、きわめてまれな拳法を、「護身」に焦点をあてて徹底的に解説していくのが、『最低限の時間で仕上げる護衛武術「転掌式八卦掌」弱者護身術』です。

『最低限の時間で仕上げる護衛武術「転掌式八卦掌」弱者護身術』は、国内外で唯一、成立当時の「転掌」の技術体系を残した八卦掌「清末転掌式八卦掌」を研鑽・伝承する八卦掌水式門の代表・水野が担当。小手先の護身術化などの改変は一切せず、原初の技術体系のままに、短時間で超実用的な護身術に仕上げるために完全解説していきます。

「短い時間で」「最低限の時間で」と書くと、簡単に練習もせず習得できると考えがちです。しかし、遠慮や理性のブレーキのない暴漢を撃退するための技術(護身術)が、「お気軽」に習得できることはありません。それを理解し真剣に練習するあなたには、必ずや生存のために無駄のない「転掌」式八卦掌の技法が役立つでしょう。

弱者が短期間で真に身を守ることができる護身技術を身につけるためには、以下の点を心にとめて、武術選びから気を付ける必要があります。

短期間で仕上げる以上、「流麗華麗」に走った意味のない練習は何一つできません。型を綺麗に演じるための練習をしても「その時」に意味をなさないため練習しません。

ここで指導するものは、我が身を守るために急に必要となった経験から導かれた現実的な技法ばかりです。

真に我が身を守りたいならば、その点を常に頭に入れ、迷うことなく練習を重ねてください。とにかく「繰り返す」こと。

有事に自然と身体が動くようになるまで、身体に染み込ませます。実戦では、頭で考えている暇はありません。相手の動きに対し、自然と身体が後方へスライドしなければ、敵の突進に対応できないと思ってください。

護衛武術「転掌式八卦掌」弱者護身術~5つの鉄則

鉄則1:まず一番最初に「敵と向き合って構え・・」というテレビの格闘技試合や映画で植え付けられた対敵の常識を捨て去れ。

構えるな。敵と向き合うな。構えた瞬間、あなたはその場所にドカッと居座ってしまい、敵の猛然攻撃に反応できなくなります。

構えてから戦うのは、対戦相手が自分と同じくらいの体重で、かつ審判の制御下におかれた「試合」の中だけです。同じ体重であれば、力任せの攻撃にある程度耐えることができます。耐えられなくなって押されて攻撃を一方的に受けることは大変危険です。格闘技は他の球技等の競技に比して一層の命の危険が伴いますが、必ず審判がいて、試合を止めてくれるのです。

「敵が襲う意志を示したら、まず向き合って構え、様子を・・・・」という「常識」が、あなたの採る選択肢を限定させていることに気づく必要があります。強者の力任せの攻撃に対し、ぶつかりながら防御する選択肢に限定させてしまっているのです。構えてその場に居着いてしまえば、敵の力と抗しない斜め後方へ移動して防御するという選択肢は選ぶことができません。

構えない状態で、敵を斜め後ろに置きながら逃げるように移動し、距離を保ちます。移動し始めてしまうことで、「居着き」を防ぐのです。敵が襲う意志を示して距離を縮めてきたら、もはや迷うことはありません。斜め後ろに速い速度で後退し始め、先んじて2メートル以上の距離を空けます。

「敵が動き始めたら動く」ではなく、敵が動き始める前に、もしくは敵が動くと思った瞬間に、自分からさっさと後ろへ、速い速度で移動してしまうことが大事です。敵が動いたら後退スライド・・・では、少し反応が遅れただけで、敵の手があなたに到達してしまいます。

目線を合わせるな、と言い切ってしまうことはあまりにも危険です。しかし、完全に見えないくらいの後方へ回った敵は、振り返ってとらえ続ける必要は一切ありません。そのような敵に対する防御は、ただ前方向へ、勢いを維持して進み続けること。前にしっかりと進んでいれば、そのような敵の攻撃は当たりませんし、当たったとしても大きなダメージはありません。※そして、どのみち自分の攻撃も当たりません。よって見続けることは意味がないのです。

この流れは、そのまま、清末転掌式八卦掌の基本練習となります。

移動していて、視界に入ってきた敵に対し、敵をそのまま横目でとらえながら斜め後方へ移動し対処します。これが単換掌の動きとなります。

練習では、頭をまっすぐ向けた走圏を行い、敵が視界に入ってきたと想定して、単換掌の術理で対応する練習をとにかく繰り返します。八卦掌の有名基本練習である「走圏(そうけん)」は、単換掌などの対敵行動の合間の、移動の方法を学ぶ練習です。これが対敵イメージ走圏です。

そして、移動時の姿勢を練習するためにも、手を下げリラックスし、必要に応じて素早く後退し、かつ手を出すことが可能となる姿勢・状態を保つ・・・これはそのまま基本姿勢走圏となります。

鉄則2:とにかく距離を保て。距離を保つことは、対多人数・対強者・対武器における護身の絶対的基本である。

距離(間合い)を取ることの重要性

まず、敵の攻撃に接触しない技術を身につけることを最優先します。言い換えるならば「敵が突撃してきたら、自分も速度を落とさずに後方に下がる技術」を身につけることを最優先するのです。

「手を出して、技で防御する」概念を頭からまず追い払う必要があります。護身術教室の紹介動画や紹介画像では、女性が男性インストラクターの攻撃を手技で防御するものがよく紹介されています。それも、流麗華麗に。

あれらの画像や動画のおかげで、護身術に興味のあるほとんど多くの女性は「技で防御する」概念を頭に植え付けられているのです。忘れてはいけないこと。あれは互いに約束の上で成り立つ「約束組手」です。実戦ではありません。

「しかし先生、後ろに下がったら、後ろから追いつかれてしまう。そんな怖いこと、できない。」

しかし、後ろに下がらなかったら、その場で力任せの攻撃に、一瞬にしてねじ伏せられることになります。下がらないでその場で敵の攻撃を受け止めることも、十分怖いのです。そして、逃げることもできないため、生存や護身を達成する可能性は、ほぼありません。

これは実戦イメージの問題です。多くの護身術を習う人が、実戦における理性のない敵の攻撃を経験したことがないため、あのような動画=実戦と考えてしまうのです。すくなくとも、護身術教室の模擬動画は、実戦ではありません。繰り返しますが、約束組手を見せているだけです。

そもそも、敵の理性のブレーキがなくなった攻撃を、その時、現実のものとして受けとめることができる人がどのくらいいるでしょうか。日頃から、実戦が起こることを想定して練習している人としていない人では、万が一の時の気持ちの切り替えに大きな差がでます。

猛然と向かってくる敵に、為すすべもなく突っ立ったままで、一方的に攻撃されてしまうのは、そのためです。これは、格闘技などを日頃練習している人も全く同じです。

鉄則1でも触れましたが、とにかく敵意を感じたら、何も考えず斜め後方スライドを実行するのです。それが見当違いでもいいのです。相手がその気でなくてもいいのです。

私の職場では、野生動物の脅威が現実的な脅威でした。野生動物(イノシシ)から身を守るためには、イノシシの気配を感じたら、何も考えず、大きい移動距離でもってその場を離れます。ほとんどの場合、向かってきません。しかしまれに、向かってくるイノシシもいます。常日頃から、イノシシの気配を感じた時点で、その場を離脱する訓練をしているため、たとえ回避行動のほとんどが徒労であっても、その都度堂々と実行できるので、万が一の場合に、私の身を守ったのです。

間合いを取るための「斜め後方スライド」

弊門で護身術を指導する際は、上記の命を守る技法について、「敵と距離を置くこと、敵と接触しないこと=ほぼ唯一の防御法」だとひたすらに説きます。そのための技法が、清朝末式八卦掌中核技法の ふたつの『後退スライド』なのです(イラスト参照)。

これはとても大切なことです。刃物を持ち寄って戦うことが常だった昔日の武術では、「防御」とは「間合いをとる」ことだったのです。

事実、日本剣術を実際に研究し、練習していた兄弟子の話しによると、昔日の間合いは5~10メートルが当たり前とのこと。そうでないと、いくら防御し続けても、いずれに刃先が触れて致命傷になったのです。

弊門でも、間合いは3メートル以上をとることを目指しています。

敵と離れていれば、技の技術はほぼ必要ありません。敵が接近してきたとき手を前に出しながらすぐさま後退スライドする(慣れれば必ずしも手を出さなくてもよい)技術のみが、重要なものとなるのです。

鉄則3:防御はもちろん、攻撃すらも「斜め後方スライド」しながら行う「けん制撤退戦」を貫け。当てなくていい。当たらなければいい。

斜め後方スライドによる「撤退戦」を貫き、「当たらない」を目指す

八卦掌原型「転掌」の説く弱者護身の理は、攻撃する時であっても我が身を危険にさらすことを求めません。つまり攻撃も、必ず後ろに下がりながら行うことを貫かせます。

水式門の本科における対人練習でも、後ろに下がりながら攻撃する練習を繰り返します。つまり習得する攻撃技術は「撤退戦」となります。

「下がりながら攻撃したら、自分の攻撃が敵に届かないじゃないか!」という意見は、強者の脅威にさらされその危機に対処する必要のある切迫した状況の中で護身術に向き合ったことのない者が言う意見です。

護身術とは、敵を倒すための技術ではなく、我が身を守る技術です。倒すことは、敵から身を守るための一手段であり、目的ではありません。目的はあくまで、「生存する」こと。

率直に言うならば、「当てなくていい。当たらなければいい。」なのです。

清末転掌式八卦掌は、一定時間徹底して移動遊撃戦を展開し「生存する」ことで囮(おとり)護衛を果たした宦官護衛官の武術。一定時間「生存する」の技術部分は、現代においても揺らぐことのない有効な「護身術」として使用できるのです。

倒すためには、敵の攻撃射程圏内に入って、我が攻撃を敵に当てないといけません。敵の攻撃射程圏内に入れば、当然、前に出た瞬間に敵の射程圏内の内側まで入り、攻撃を喰らうことになります。つまり「倒す」という手段は、「生存する」という目的を脅かすリスクを生じさせる、危険の伴った「下策」なのです。

清朝末期は、庶民ですら日常生活中で命を落とす危険があった動乱の時代でした。攻撃を当てて敵を倒す技術よりも、敵の攻撃に当たらない技術(間合い取りの技術)を磨いて生還する方のが、ダイレクトに生存を実現させる「上策」だったのです。

清末転掌式八卦掌と、近代格闘術八卦では、その目的が違っている

近代格闘術八卦掌は、防御を横方向スライドでかわしますが、攻撃段階では前に出ます。攻撃を当てて相手にダメージを与え敵を倒すこと・・・が大きな目標となっているのです。そして、護身術から離れているため、敵を倒して自門の強さを示すことが「目的」となりました。

防御から反撃への転換点で、強者たる敵の力をいなす技術(螺旋功・内功)が必要となります。これらの繊細な技術は、強者である敵の攻撃を真っ向からいなす技術でもあるため、強者相手の対人練習における膨大な繰り返しが必要となります。練習環境の確保が難しく、かつ「相手次第」の技術の典型となります。

敵の突進に対し、後退スライドを止めずに移動(防御)し、敵が我の射程圏内に無理して入りこんできた際には、手を出して、もしくは斜め後方スライドの移動技術で、もしくは手持ちの道具などで打ち、敵の足を止める。この大きな流れを常に頭に入れて練習していきましょう。

鉄則4:「移動遊撃戦」で敵を引き回し、敵の足が止まったらキロメートル単位で離脱せよ。そのための持久力をとにかく養え。

弱者が護身を実現させるためには、最初から最後まで移動遊撃戦を貫き敵に抗しないこと

護身術の基本は先制攻撃をして、敵がひるんだスキに逃げる。もしくは、とにかく逃げる。そんな非現実的な方法を謳う護身術レクチャーサイトをよく見かけます。

先制攻撃をしてから逃げる、には、大きな危険が潜んでいます。先制攻撃でダメージを与えることが、ほぼ出来ない点です。

先制攻撃をすれば、どっぷり敵の前に身体を残すことになります。失敗したら逃げるしかありません。しかし身体を残す=身体がその場に居着く、なのです。失敗後、敵の攻撃が来る前に、身体を安全な場所に移動させなければなりません。しかし居着いた状態での急速移動は、熟練者でも難しい技術となります。

なぜ、先制攻撃にこだわるのか?逃げる機会を創出するうえで、敵に攻撃をしてダメージを与えることは、失敗の危険の大きい、相手次第の、「賭け」的手段となります。

ではいきなり斜め後方へ移動して、移動遊撃戦を展開することは、なぜ認められないのか。それは、敵への先制攻撃が当たらないことを、実戦を経験したことがないから難しいと思うことができないこと。そして、息を切らして移動しまくる戦いを、受け入れたくないこと、の2点が理由です。

世間が、対多人数をやりすごす移動遊撃戦の有効性を知っても採り入れないのは、いまだ現実を受け入れることができないから、だけなのです。私たちはこの講座で、弱者護身の戦いの場の現実に触れました。それはあなたにとって衝撃的であったかもしれません。しかし、納得できるものでもあったはずです。あなたはこれからどうしますか。

撤退戦には、徹底戦特有の技術「単換掌の術理」で。最後は持久力の土台を活かして離脱せよ。

ただ逃げて、逃げ切れるはずがないことは、冷静に考えればわかることです。転掌は、その点をしっかりと理解しています。それゆえ、撤退戦の技法を最も重要な基本技法として残しました。それが「単換掌の術理・単換掌理」です。

敵は、理性のブレーキが無くなった状態で、我の欲望を実現するために、逃げる相手を無我夢中で追いかけてくるのです。

古来の戦争においても、戦意を無くし、一切の抵抗もしないでただ逃げるだけの部隊の被害は悲惨を極めました。逆に、伏兵(ふくへい・待ち伏せの兵)を置いて追撃してくる敵にダメージを与えながら撤退する部隊は、その被害を最小限に抑えることができました。

転掌式八卦掌における、斜め後方スライド撤退戦の対敵行動は、敵に警戒心を与え、追撃の速度を落とさせ、離脱のチャンスを生み出します。単換掌におけるけん制攻撃が、猛然と向かってくる敵の足を止めるのです。そのけん制攻撃を、つちかった持久力の土台で、何度も繰り返します(5~20回程度)。

ここで、持久力を養ってきた努力が報われます。持久力は、本人の努力次第で、年齢性別的不利を補うことができる夢のある領域です。

持久力を用いた戦い、もしくは持久力を向上させるための努力は、地味で辛いものが多いため、多くの人が避けて通りたいのです。ことに、マジックのような身体操作で、息も切らせず敵をあしらうことを達人芸と思い込んでいる人には、持久力向上の有効性はなかなか受け入れることができない要素なのです。

敵の息が切れ動きが鈍り、我の転身に反応することに対応できなくなったら、「生存」を賭けて最後の対敵行動「離脱」に入ります。離脱の際は、キロメートル単位で離脱します。十数メートル敵から離れただけでは、体力のある敵に効果を発揮しません(すぐさま距離を縮められてしまう)。それは離脱ではなく単なる「回避」にすぎません。

昔日の達人は、武術の技術をまったく持たない庶民には、「逃げる技術」と、「逃げ続ける体力をつける練習方法」を教えました。清末転掌式八卦掌でも、その2つをしっかり教えてくれます。

鉄則5:脚は常に移動防御・移動攻撃で使うため、蹴り技を使う暇はない。よって練習する必要もない。

転掌式弱者専用護身術においては、蹴り技を練習する必要はありません。なぜなら、蹴り技を使うことがないからです。正確に言うならば「蹴り技を使っている暇がないから」です。脚は常に「勢(せい)を保った移動」という名の「防御」のために使うため、蹴り技のために脚を止める時間がないのです。

後退スライドの使用例を見てください。とにかく「移動速度を下げないこと(勢を保つこと)によって敵との距離を保つ」観点から、移動を妨げるような技・動きはしないことに徹しています。つまり、蹴り技を使ってないことがお分かりでしょう。

通常蹴り技を放つ際は、身体を支える身体軸を、蹴る方の脚の反対側の脚で作ることになります。

身体軸を形成する際は、軸足として身体を支えるため、一時、敵の前面もしくは側面にて止まることになり、その瞬間だけ移動(=防御)ができないことを意味します。

昔日の八卦掌では、「止まる=死」と例えるくらい、身体が止まることを忌み嫌います。防御ができなくなり、敵にとって「動かぬ的(まと)」となってしまうからです。

ここは、「最低限の時間で仕上げる・・・護身術」です。使わない「蹴り」技に、貴重な練習時間を費やすことはできません。練習する必要はありません。きっぱりと言います。これは、清末転掌式八卦掌をじっくり練習する時間・期間がある弊門門下生でも同じことです。

鉄則6:刀術ベースの棒操術を身につけ、有事の際に身の周りにある棒で対抗できる可能性を生み出せ。練習しなければ可能性は生まれない。

身の周りの物で戦うことを説く護身術道場は多く存在します。しかし、その多くが、対人練習において、払う、手を絡め武器を落とす、などの、大変難しい勇気を伴う用法の解説に終始しています。

清末転掌式八卦掌における刀術「転掌刀」は、武術的素養も休憩する場所すらもない人間が、暗殺のエキスパートや理性を失った人間の刃物攻撃から、高い確率で生還できる方法を型の中に収め、その短いシンプルな動きを身体にしみ込ませるものとなっています。戦いにおいて武器をもって身を処す方法が盛り込まれた、命を預ける型なのです。

そして転掌刀は、当該護身術の基本技たる、斜め後方スライドによる推掌転掌式の動きそのものであり、転掌刀を練習すれば、合わせて徒手(素手)の動きの技術も磨くことになり、相乗効果が高まります。

極力シンプルな型を、その使い方を知ったうえでひたすら繰り返し、身体に染み込ませ、そののち、斜め後方スライド対敵身法の練習の中で、「とにかく使ってみる」ことで、実戦において自然と動きが出るようになるのです。

「武器は手の延長」といって、敢えて多くの時間をとらずに済ます修行者が多いのに驚きます。武器術のために時間を改めて取って練習することをしてこなかったあなたの練習時間では、まったく足りません。足らない人にとって、手に武器を持つことは、邪魔以外のなにものでもないのです。

護身術である以上、身の周りの物で対処するのは当然のことであり、素手は最終手段となります。清末転掌式八卦掌では、武器を扱うことはきわめて自然で「採るべき」手段とされています。武器術は、極力毎日何らかの武器をもって、単換掌・双換掌を練習することで、その存在が動きを邪魔しなくなり、自由に取り扱うことができるようになるのです。

土台基本解説:基本姿勢走圏で、移動時姿勢「基本姿勢」・構え方・歩き方を学ぶ

基本姿勢

「基本姿勢」とは、敵に追いかけられた時、敵に言い寄られた時、言い寄られながら追われている時に、とる姿勢となります(※本門八卦掌では、多人数相手に旋回しながら回避行動する際に最も多用する)。

弱者使用前提拳法の八卦掌が、命を賭けた戦いにおいて身を守る身法「後退スライド」対敵身法を最も出しやすい姿勢として考え出したのが、ここで解説する「基本姿勢」なのです。

八卦掌というと、「グランド・マスター」をはじめとする幾多のカンフー映画の影響で、手を敵に推し出して構える姿勢が有名となっています。しかしあの姿勢では、あの姿勢のままで固まってしまい、自身の自由な移動を妨げ、敵の突進に反応しづらくなります。

手は必ず下げ、各身体箇所に過度の力を入れないように意識します。全体的にリラックスしておきましょう。移動する際、手が移動の振動で揺れるくらいがちょうどいいのです。

胸をくぼませると、広背筋周辺がアーチ状に左右に広がります。手は下げ、腕を軽く内側に絞りましょう。足をほんの少し曲げ、高い椅子に座っている時のような腹部状態を作ります。その状態こそが、移動遊撃戦時の「基本姿勢」として清朝末式八卦掌では伝承されます。

女性護身術においても、全く同じです。女性護身術が最も想定する「敵が一人」の場合であっても、後方へ移動しながら敵に対することは変わらないからです。

歩き方を養う走圏練習において、八卦掌修行家のほとんどが、円の中心を向いて歩きますく。特定の方向へ頭を向けることは、知らずうちに一方向への意識の過度の集中を招きます。

敵を斜め後ろに置きながら対応する際、その移動の過程で、敵の位置が変わることがあります。対多人数戦であれば、我に迫り来る複数の敵の位置が目まぐるしく変わるのは当然のこと。しかし、女性護身術で想定している「対一人戦」でも、後退スライドしながら移動する際、自分と敵の位置関係で、立ち位置は常に変わります。常に敵が、回っている円の中心から我に迫ってくるわけではないのです。

その際、頭を円の中心に向けていては、円外側から来る敵に対応できません(気づくことすらできない)。

よって、命を賭けた護衛護身武術の清朝末式八卦掌では、必ず走圏練習を行う際、前を見て歩くのです。

「後方から来た敵に気づかないのでは?」という疑問が湧くと思います。しかし思い出してください。八卦掌では、常に勢いを保って前方向へと進み続けることを。つまり後方から迫って攻撃しようとする敵の攻撃は、勢いが落ちない限り当たらないのです(当たっても、触れることができる程度である)。

移動遊撃戦において、速度を落とさないことは、後方敵への防御すらも想定しているのです。頭が特定方向へ向いていては、高速移動を維持できません。よって進行方向前にまっすぐ向け、視界に入ってくる敵のみ対応します。

視界に入ってない敵の攻撃など、自分が止まらない限り当たることがないため、対応する必要がないのです。

歩き方

歩き方は、八卦掌独特の歩き方「ショウ泥歩(しょうでいほ)」で歩きます。

実はこの歩き方、八卦掌の使い手のみがしている歩き方ではありません。サッカー選手、多人数想定練習を行う時の実戦合気道家などが、採っている歩き方となります。彼らに共通する点は、高速移動時、急速転身をする技術を求められるという点。

清朝末式八卦掌におけるショウ泥歩は、高速移動の速度を落とさないで急速転身を可能とする、命綱的技術なのです。最も重要な技術の一つとなります。「ショウ泥歩無くして、清朝末式八卦掌なし」と言ってもいいでしょう。

また、ショウ泥歩は、その場に居着かないための重要極意でもあり、居着かないことで、最初の攻撃に対し機敏に動き出し後退スライドにつなげることができます。

「移動=防御」の清朝末式八卦掌における、移動の最重要スキルであるショウ泥歩を、以下で詳しく解説します。熟読のうえ、練習してください。

着地と離陸方法~「抓地牢(そうちろう)」(地面を足指でひっかく)

着地は、足指付け根と土踏まずの間の、盛り上がった部分で行います。慣れないうちは、大変な違和感を感じますが、繰り返すことで、「居着く瞬間のない移動行動」を手にすることができるでしょう。

盛り上がり部分で、地面にスタンプを押すかのように、歩を刻んでいきます。着地する際、斜め後ろに引くように着地するのは、昔日の八卦掌家が説く大変重要なポイントとなります。このポイントを守ることで、足場の悪い場所(整理されてない地面・滑りやすい地面)でのバランスの崩れを最小限に抑えることができます。

八卦三十六歌訣(八卦掌のポイントを短歌形式でまとめたポイント)の第一番目の「歌1」に「抓地牢(そうちろう)」というポイントがあります。日本語に訳すならば、「地面をひっかくように着地する」です。このポイントは、着地する瞬間足を手前に少し引きながら落とすことで実現できます。何か物をひっかく時(かゆい部分をかく時など)、前に伸ばす感覚ではなく、自分側にひっかくのと同じことです。

近代スタイル八卦掌の指導の現場では、つま先を前に出しながら、着地する瞬間にスッと一層前に出します。これは手を前に伸ばしながらかゆい箇所をかこうとするのと同じことであり、引き込むイメージで物をひっかく「抓地牢」の感覚を得られません。動画において、足を着地させる瞬間をよく見てください。

着地の瞬間、一層前に足をスライドさせつつ伸ばし着地することの最大の欠点は「滑りやすい」ことです。それは、路面状況が悪い場合(凸凹路面・凍った路面など)で、足を滑らし、バランスを崩したり転倒してしまうこ。移動遊撃戦において、倒れることは大変なリスクを伴います。

着地時スライドの美しさを優先させるために、着地時前スライドショウ泥歩が原型ショウ泥歩と違い滑りにい性質を失った点が知られず広まりました。着地時前スライドでも「滑らない」と認識されたまま広まってしまったのです。そして現代修行者は、足場のいい場所でしか練習をしなくなったため、着地時前スライドショウ泥歩が滑りやすいことに気づかなかったのです(もしくは、戦うこともなくなったため、さほど重大視しなかった)。

私は富山の雪中でも練習する機会が多いため、すぐにこの弊害に気が付き、そこから現在弊門で指導している「手前に気持ち引きながらの着地」の要領へとシフトしました。

余談ですが、着地する瞬間、自分側に少し引きつつ着地する動作は、倒れている敵を踏みつける際にも役立ちます。蹴り技を一切行わない清朝末式八卦掌における、唯一の脚使用攻撃となります。

「平起平落(へいきへいらく)」という着地・離陸方法で、居着かない移動を確保する

八卦掌や他の中国拳法でよく出てくるのが「平起平落」です。悪条件の路面状況下であっても、日頃の練習でつちかった機動力を発揮するための秘訣となります。

足裏全体を平らに上げ、平らに下ろすとよく説明されていますが、やってみると分かるのですが、足裏全体を平らに上げることはできません。かならずかかとから上がってしまいます。ましてや移動遊撃戦の激しい移動の最中に、足裏全体を垂直に引き上げるなどできないのです。

では「平起平落」は実現不可能な要求なのか?

実は「足裏全体」ではなく、先ほどの「足指付け根から土ふまずの間の盛り上がった部分」を平らに上げ、平らに下ろすを実行することで可能となるのです。

※昔日の地面は当然アスファルトや整地された地面などほぼ無かった。路面など整理されてなく凸凹であったため、足を引き上げ凸凹の上を超えて足を進める必要があったため「平起平落」の要領を求められた。近代スタイル八卦掌が行っているような、地面に平行にスライドさせて滑らせるように着地する動作は、地面が平らではないためできなかった。

平起平落を実行すると、かかと部分が地面に着く時間は、ほんのわずかとなります。

「足指後ろ付近で着地~かかと着地~足指後ろ付近で離陸」ではなく「足指後ろ付近で着地~足指後ろ付近で離陸~(前足のかかと着底とほぼ同時に、後ろ足が前足を通り過ぎるためかかとに体重がほとんど乗らない)」「実質の2ステップ」となるため、すばやくテンポよく、足を繰り出すことができるのです。

対敵身法の理論解説:「単換掌の術理」とは~弱者使用前提の技術体系を支える弱者のための術理

「敵の力とぶつからない場所まで斜め後方へスライドして、生存第一の鉄則のもと防御・攻撃をする」ことです。水式門では、「斜め後方スライド撤退戦対敵身法」・「後退スライド」と呼ぶこともあります。

この術理によって、転掌式八卦掌の最重要基本技たる「単換掌」は構成されており、他の型も、斜め後方スライドによって実行されます。

単換掌の術理概説~宦官が自身の立身出世のために考え出した弱者使用前提武術の中核術理

身体的資源不利者(以下「弱者」と呼ぶ)が、今まさに迫りくる危機に対応するには、弱者使用前提で技術体系が組まれた武術を習う必要があります。

ちまたには多くの武術が存在しますが、その選択基準で選ぶならば、選択できる武術はほぼ無くなります。ほとんどが、屈強な男性修行者向けの技術体系で組まれたものばかりだからです。八卦掌は、弱者使用前提を貫いた武術として、その選択基準をしっかりと満たすきわめてまれな武術です。

しかし八卦掌も、男性後継者らによる他流試合での勝利第一主義武術への改編によって、そのほとんどが強者使用前提の技術体系へと変わっていきました。

八卦掌水式門で指導する八卦掌(以下「転掌式八卦掌」と呼ぶ)は、宦官(かんがん)であった創始者・董海川先生が創始したころのままの技術体系で貫かれているため、弱者使用前提の技術を学ぶことができるのです。

成立当時の名称は「転掌(てんしょう)」でした。八卦陰陽理論の影響を受ける前の、3つの術理のみでほぼ構成される、極めてシンプルなものでした。宦官や宮中内の女官でも清朝王族・寵姫(王族の寵愛を受ける正室・側室ら)を守ることができるように組まれた技術体系のため、清朝粛親王府にて護衛武術として採用され、大いに名を上げたのです。

宦官や宮中内女官でも、王族を守ることができる技術体系。つまり弱者が大切な人・要人・そして自分を守ることができる技術体系であるが、その体系を対敵行動の中で土台として支えるのが、「単換掌の術理」なのです。

動作に焦点をあてて名称を付すと、「斜め後方スライド撤退戦の対敵身法」となります。

「単換掌の術理」の最終目的~「勝利」より「生存」を第一に考えたスタイル

近代格闘術スタイルでは、こちらのレベルが相当高くないと、体格差・技術差・体重差などの外面的要素によって、手わざ防御で対処する際の成功率が大きく左右されてしまいます。

こちらに向かってくる敵の攻撃に対し、自分の身体をその場にとどまらせ、下がることをしないで「防御→攻撃」を行うと、敵の攻撃圧力を正面切って受けることになり、かつ敵との距離が縮まってしまうため、防御行動に稚拙さが少しでも出ると、こちらの腕はつぶされ押し込まれ、力任せの攻撃の連打を喰らう事態におちいります。

斜め後方スライドで敵との間合いを保ちつつ対処する行動パターンを習得することで、たとえ敵の手が自分に到達しても自分の手にかかる圧力を逃しながらスライド回避でき、去り打ち攻撃を放って敵の前進を止めることすらできます。

よって成立当時の八卦掌原型「転掌」の示す「斜め後方スライド→虚打けん制→転戦けん制→内転翻身法による進行軌道の転換」の具体的流れと、その理由を説明する「単換掌の術理」は、弱者が体格差などの不利な状況においても「生存」する可能性を生じさせるための転掌式八卦掌のエッセンスとなっている。

そのエッセンスは、敵側面にとどまって攻撃を「当てる」ことよりも、後方スライドで間合いを作り、敵の攻撃射程圏内から身を遠ざけることによって「当たらない」ことを重視する技の体系を生み出したのであります。

弊門では、単換掌における転身防御である老僧托鉢(もしくは「平穿」)を下がりながら行い、スライドしながら虚打穿掌を放ちます。この流れを重視し、繰り返すのです。

それは、「斜め後方スライド→虚打けん制→転戦けん制→内転翻身法による進行軌道の転換」の身法によって、敵の影響力の少ない領域に我が身をスライド移動させる護身の行動を、無意識レベルで行うことができるようにするために行うのです。

「単換刀」~戦場藤牌刀術から転掌への橋渡しとなった原点刀術型

「単換掌」というシンプルな型を理解するためには、戦場刀術から転掌への橋渡しとなった最初の刀術「単換刀」と単換刀を構成する2つの術理「翻身旋理」・「刀裏背走理」を理解することが必要となります。

転掌式八卦掌真伝|宦官護衛武術「転掌」術理八卦掌の精髄において単換刀は詳しく解説されていますが、以下でも簡単に触れておきましょう。

単換刀は、太平天国の乱当時の藤牌兵の戦場刀術を主な材料として作られました(楊師伝)。

切れ味の悪い重たい刀を、敵が後方から追い上げてくる極限状態の中で、身体移動によって上げ下げし操作して刀身を敵の刀身もしくは敵身体にぶつけ、けん制し身を守る。「斬る」は二の次なのです。貴族でもない下層兵士もしくは庶民が持つ刀に、研ぎ澄まされた刀を準備し装備させることは現実的ではなかったのです。

身体移動によって防御し、身体移動の推進力を利用して攻撃をする転掌式八卦掌の術理が、単換刀に明確に見られます。単換刀では、身体移動によって刀を持ち上げ敵の攻撃軌道をふさぎ、敵の斬撃を弾き、移動しながらの振り下ろしや振り回しによって、敵に刀をぶつけ、攻撃します。

重たい刀を、後退スライドに伴う身体移動によって引き上げ、下ろします。振り出した刀をわざわざ身体に引き戻したりしません。自分が刀の下をくぐって斬るための角度を作り、移動しながら斬撃をするのです。

素早い転身移動を可能にするため、股関節をたたんで転身半径を最小とする「翻身旋理」を用います。

翻身旋理による転身動作に、刀を持つ手を絡めて引き上げます。「絡めて引き上げる」とは、引き上げた「刀を持っている手」の下をくぐることで、身体移動に引っ張られるようにして刀先が回る。引っ張られる際、刀の刃の付いてない部分(刀裏・刀背)が自分の背を向いた状態で引っ張られる「刀裏背走(とうりはいそう)」の状態となります。

刀を持つ手は、身体軸から極力離さないで行います。そうすることで、身体移動で刀や長棒を操る感覚を味わいながら、実際に自在に扱うことができるようになります。

刀の柄の部分にとどまることで刀を振り回して自分も振り回されることに伴う体力ロスを防ぐこともできます。そして、柄の部分にとどまることで、自身と敵との間に距離を保つことができ、護身を可能とするのです。

重たい刀(棒)を手首の返しだけで操作するのが難しいこと、実戦の緊張感の中で刀を持ち替えることが危険であることなど、単換刀は橋渡し的な型でありながら、極限状態の実戦の現実を考慮した実用的な型であると言うことができるでしょう。

「単換刀」を徒手の手返しの良さの利点を活かして完成させたのが「単換掌」

刀を持たない徒手では、「単換刀」にない手返しの良さを活かし、「去り打ち」の攻撃技を加えます。敵の接近に際し斜め後方スライドをしながら手を差し出し、敵に向かってけん制の穿掌(せんしょう)を放ちます。

以下の写真は、単換刀の指導を受け型の技法がある程度上達した後、「移行期の単換掌」として楊師より伝授してもらった単換掌です。

敵に差し向けた手が、梁振圃伝八卦掌の老八掌・単換掌における「老僧托鉢(ろうそうたくはつ)」と若干似ています(写真1~6)。引き上げた手の反対側へ、くぐることによって身体を移動させながら、『穿掌』を放つ(写真7~9)。

写真1~3における、引き上げた手をくぐる動作は、現在の転掌式八卦掌の単換掌では残っていません。徒手において必ずしも効率的な動きと考えられなかったからです。

徒手は、手に何も持たない分手返しが最も良いスタイルとなるため、重い刀・棒を扱う前提の「くぐる」動作は、徒手型では残らずカットされたと考えられます。実闘では、相手を倒し自分を守るための動作以外は、容赦なくカットされるのが常であります。それゆえ、現在の単換掌の型となったのです。

移行期における単換掌

ここで、単換掌の術理の意味を再度考えてみたいと思います。なぜここまで下がる必要があるのか?それは、力と力がぶつかり合う世界から我が身を移動させて防御するためであります。逃げているのではありません。転掌式八卦掌では、移動は最大の防御法なのです。

力と力がぶつかり合う世界では、体重の重い者、筋力に勝る者、技術に勝る者、そして人数が多い方が圧倒的に有利となります。それは、例え技術が無い人間であっても、筋力や体重、人数で、技術の無さを誤魔化すことができることを意味します。言ってる内容に筋が通ってなくとも、勢いや口調、数にモノを言わせて主張を押し通す構図とよく似ています。

※ボクシングや柔道などで厳格に細かく体重階級制が採り入れられているのは、体重差によって勝敗が左右されてしまうのを防ぐためです。向き合って戦う世界では、それくらい、体重差・体格差は勝敗に影響するから、ここまで細かく階級を設定するのです。

実戦では、階級制などありません。そして、襲ってくる人間というのは、たいがい自分より体格等で不利な者を襲うのであります。よって弱者使用前提の転掌は、下がることによって敵の圧力が及ばない領域へと自分の移動させ、「自分の攻撃を当てる」ことより「敵の攻撃に当たらない」ことを目指したのです。

下がらなければ、いつまでも敵の圧力を受ける場所で対処しなければなりません。螺旋や六面力・膨張勁や化勁など、中国武術の世界には、強者の圧力をやり過ごすための秘伝がたくさんあります。しかしそれらはたいがい難しく、習得するのが困難なばかりか、「門外不出」と言って容易に教えてもくれません。

学習環境や経験によって、これらの難解な技法を使いこなすことができる者ならそれでもよいでしょう。

しかし多くの人間に、そのような高度な対処法はできません。強者とのほぼ毎日に及ぶ対人練習が必要ですが、そのような環境も多くの人間にはないものです。そして何より、習得するのに時間がかかり過ぎて、身を守る局面が来る時に間に合わないのです。それでは練習している意味がありません。

つまり、「倒す」ことよりも「生存」することに焦点をあて最終目的とすることで、弱者が使うことができる現実性と、予想される有事に間に合わせること、を両立させ、現実的・実用的体系であることの条件をクリアしたのです。

技術解説5:転掌式八卦掌の説く、緒戦(しょせん・戦いのはじめ)における対敵行動法

最悪の事態を考え躊躇なく対敵行動をする

だれもが口をそろえて言うこと。それは、後退スライドを主軸とする護身戦において「最も難しい段階は、緒戦(戦いの始まり)だ」.ということ。

襲い掛かってくるかどうか分からない段階では、日頃平穏な日常生活を送っている人間であれば、多くの迷いやためらいが生じるものです。

「相手はそんなつもりまでないのかも」「いきなり逃げだしたら相手に失礼では」と考えたりして、思い切った行動を採ることができないかもしれません。

また「いきなり人に襲われている状況に陥った」現実に気持ちが反応できない場合もあります。

日常職業生活中に命の危険が想定される要素が入り込んでいる職業軍人や保安警備系職の人間ならともかく、「戦う」要素が日常生活中に全く存在していない者にとって、護身のため急遽戦う気持ちにシフトさせることは、実は大変難しいことなのです。

ここでは、命を守るための行動を躊躇なく行うことができるために、いくつかの手段を提唱することにします。

それぞれのケースで採用している緒戦の対処法のポイントは、「合図」があったら、ためらないなく一気にトップスピードに持っていくということ。トップスピードとは八卦掌や中国古来の兵法にいう「勢(せい)」が伴っている充実した戦闘行動段階のこと。

あなたは動乱期清朝末期頃中国の護衛武術を練習している人間です。遠慮する必要はありません。ためらいなく「戦う」モードにシフトして欲しい。

トップスピードまで持っていけば自然と、命を守るために必死で行動する決意・戦闘意欲が湧きます。躊躇する考えが湧く余裕もなくなるからです。躊躇する心のリミットが外れることで、日頃練習している動作も自然と出てくるようになります。

緒戦において「構え」はしてはいけない

先ほども触れましたが、テレビ放映されて見る機会のある格闘技試合のように、腕を眼の前に差し出し、特定のポーズをとって敵に対することを「転掌式八卦掌」では決してしません。

理由は、「姿勢をとる=身体ごとその場所に居着く=素早く動くことができなくなる」からです。

転掌式八卦掌では、緒戦で、いかに少しでも早くトップスピードまでもっていくことができるか、が大きな勝敗要因となります。

敵の何らかの行動・もしくは明確な攻撃意識動作を感じたら、1秒でも早く、今まで居た場から身体を移動させる必要があります。

「身を動かす」は、「敵の攻撃の一打目をかわし、かつ、敵との距離を空ける」行動に他なりません。敵の面前にて構える行為は、敵に対して「動かない的」であると宣言しているようなものです。

そもそも転掌式八卦掌では、移動することが防御であるため、特定の場所に立って特定の姿勢をとることは決してありません。維持するのは、無意識レベルでの基本姿勢のみです。基本姿勢であるため、両手は当然、下に下げられています。

転掌式八卦掌では、止まることは死を意味します。特定の場所にて構えることは、止まるも同然と考えられています。よって、転掌式八卦掌では、「構える=死」なのです。これは門伝であり、転掌門では、師から弟子へ必ず伝えられる師伝にもなっているほどです。

イラストの男子学生のような、手を下に下げた「基本姿勢」の状態で移動し、機会を見て手を出し、敵の攻撃軌道を防いだり、敵を驚かせて足を止めたり、突出した部位(首など)を打ちます。

よって「基本姿勢」こそが、目に見える「構え」と言うことができるでしょう。

緒戦の典型3パターンにて事前練習をする

実際の戦いは、いつ何時、どのような形で、どのようなきっかけで起こるか分かりません。

であるならば、事前に準備はできないのか?いくつかの準備はできます。

すぐに携帯護身具を取り出すことができるよう、平素よりシミュレーションをしておくのは、必ず行うべきことです。

ここでは、敵の出方・戦いになりそうな状況に合わせ、機先を制し動きはじめ、生命線となる「敵との距離」を空けるための緒戦行動を教えます。

以下3パターンと違う場合もあるでしょうが、まずこの3パターンの緒戦を経験しておきましょう。あなたの身の回りの人の誰でもいいので、協力してもらい、1回でもいいから事前に経験しておきます。

パターン1:敵に対し半身で待ち伏せし、斜め後方スライドする

敵に自分背中を若干見せた状態で立ち、気持ちは「手を出しながら後方へ走るぞ」モードにしておきます。敵の危害行動がない状態でいきなり走り出す、よりも、大義名分を得た最も一般的な緒戦対敵法となります。

敵が近づいてくる、敵が手を出してくる、など、自分に何らかのアクションをする段階を、護身対敵行動の合図ととらえます。

アクションがされたら、後退スライドをしながら、後方へ高速ショウ泥歩で移動し始めます。

この際出す手技は、なくてもいいですし、出してもいい。出した手技は、相手に全く届かなかったり、全く違った場所に打たれたりするでしょう。しかし気にすることはありません。

動画を見てください。下がりながら、その際の勢を利用して、手を出しています。敵が本気で向かってきているなら、この手は当たるでしょうし、当たらなくても有効なけん制となります。

そして身体が後方へ向いたら、とにかく敵から離れる行動(敵から離れる方向への高速ショウ泥歩での移動)をとり、敵との間に距離をおきます。

息が上がるでしょう。しかし敵も一気に息が上がっているのです。気持ちが恐怖でいっぱいとなるでしょう。しかし、恐怖のない戦いなどないのです。

命をかけて、人生をかけて、何も考えずただ猛然と、してきた行動を、敵の行動が止まるまでし続け、敵の足が止まったら、最後の力を振り絞ってキロメートル単位での離脱行動に入ります。

パターン2:機先を制し高速ショウ泥歩で一気に間合いを空ける

相手が近寄って来たことを合図とした緒戦対敵法です。

相手は「近寄って」きているだけで、いまだ危害行動に出てない状態のため、ためらう気持ちが湧きやすい緒戦状況です。しかし「近寄ってくる」ことも、大変重大なアクションなのです。こちらはそれだけで十分恐怖を感じるのです。

そして、本当に近寄ってきているだけなのか、それはこちらには分かりません。ひょっとしたら、命を奪う行動・自分の貞操を奪う行動をもって近付いてきているのかもしれないからです。

護身の戦いでは、「常に最悪の状況を考える」ことが鉄則です。性善説ではなく、性悪説を採る。相手にそのような意図がなくとも、近寄ってきている時点で、相手に非があるのです。治安の悪い国だったら、それで撃たれても文句は言えないのです。銃社会のアメリカであれば、いきなりそのような行動を女性にとれば、銃で撃たれても文句は言えません。

日本でいきなり銃で撃つ、は想像ができないでしょう。せめて私たちは、心を知り得ない相手の接近に対し、機先を制し高速ショウ泥歩で距離を空け、キロメートル単位の離脱につなげていきましょう。

パターン3:敵のアクションを合図に、高速ショウ泥歩で一気に間合いをあける

近寄ってきている相手が、何らかのアクションをしたら、それを合図として高速ショウ泥歩で駆け抜ける緒戦対敵法です。

この場合、「アクション」は何でも構いません。手をこちらに差し出す行為だけでも、合図たるアクションに入れます。

先ほども言いましたが、こちらに相手の意図は分からないのです。手を差し出してくる動作も、本当は腕をつかみに来た動作だったのかもしれません。自分の顔を殴るための動作だったのかもしれません。それらがたまたま当たらなかっただけなのかもしれないのです。

「アクション」があったのです。近寄ってくるだけでも、十分なアクションです。しかしその段階から一層先の段階となったのです。迷うことはありません。相手は、近寄ってくるのみならず、手まで出したのです。人を恐怖に陥れた責任をとるのは、彼自身なのです。

ためらわず、敵の居ない方向へ、抗そうショウ泥歩で移動し、さっさと「勢」を帯びた状況までもっていきましょう。後はひたすら撤退戦を繰り広げ、敵の足が止まったら、持てる力をすべて使って、キロメートル単位で離脱します。

技術解説3:後退スライドにおける足の運び方(運足技術)

まずはじめに、後退スライドの足の運び方(運足技術)をマスターしていきます。

八卦掌では、敵からの防御を、「移動」で防ぎます。手技は、移動防御の「補助・予備」でしかありません。防御の重要性を「足90・手10」で表現するくらい、移動によぶ防御を重視しています。

ここでしっかりと運足技術を理解し、徹底的に繰り返して、何も考えないでも後退スライドの運足ができる状態にしていきます。

運足技術を極めると、手と足が分離し、「移動しながら攻撃」において、「この技を出す時は右から・・」などと考える必要もなくなります。弊門ではこの状態を「足の制約から解放される」と呼んで、目指すべき技術段階として指導しています。

後退スライド時の運足の基本は「小さな擺歩→小さな扣歩→大きな擺歩→大きな扣歩」

足は、小さな擺歩(はいほ)→小さな扣歩(こうほ)→大きな擺歩→大きな扣歩の順で滑らかに運び、この歩の連動によって後退スライドさせます。

写真1~2が小さな擺歩、写真3が小さな扣歩、写真4~5が大きな擺歩、写真6~7が大きな扣歩です。

※写真6~7の大きな扣歩は、身体が開いた状態から、足を寄せ身体の開きを収束させるため、扣歩時の身体運用となるため、足先が開いて着地していても、実質扣歩となる。

以下に、擺歩・扣歩の仕方を動画にて掲載しました。下の運足技術を少し練習してから、後退スライドの動きにチャレンジしてください。

 

八卦掌最重要要訣「翻身旋理」を実行し、敵の力と抗しないキレある斜め後方スライドを確保する

「斜め後方スライド」術理で生存を確保することができるための「翻身旋理」と「刀裏背走理」

下掲載の写真3~6に際しては、「推磨式基本功」で触れる「翻身旋(ほんしんせん)」理の要領を守ります。

「翻身旋理」とは、股関節部分を畳んで、身体を後方へと「ずらし向け」する方法です。後退スライドによる身体の転身を、身体回転軸から極力はみ出さずに、キレよく斜め後方を向くための秘訣です。

敵に向けけん制の意図で差し出した手を、翻身旋理によって、引っ張って体軸に戻します。そうすることで、伸ばした手の遠心力によって体軸が振られたり、我の身体が敵に向かうことを防ぎます。この理を、「刀裏背走理」と言います。翻身旋理の補助的役割的な理でありながら、八卦掌重要技の各所に登場する、極めて重要な術理となります。

※八卦掌の核心術理「翻身旋理」と、技を出すことで振られやすい身体軸を安定させ翻身旋理によるキレを鈍らせないための補助的理たる「刀裏背走理」については、「単換刀」翻身旋理にて学びます。

股関節をずらし向けすることによって、後方展開時に身体の横振れが大きくなったり、転身半径が大きくなって後退スライド速度が鈍くなることを防ぎます。

これから手技を出して敵の攻撃を防ぎ、もしくはけん制しますが、その時、伸ばした手を股関節のずらし向けをすることによって「引っ張り」、伸ばした手を体軸にから極力離した状態にしない感覚を、忘れないでください。

敵の力にぶつからず、敵の力のベクトルの反対側へ移動し続けるためには、移動推進力が高いままの状態を維持することです。この状態を「勢(せい)」といいます。

勢を維持するうえで、斜め後方スライド時の減速が、最大の課題だったのです。創始者は、この課題に、「翻身旋理」と「刀裏背走理」という明確な術理を示し、勢を維持する方法を伝えてくれたのです。

「翻身旋理」による斜め後方スライド動作解説

まず推磨式基本功において、両足を固定した状態で、股関節を畳んで後方を向く要領を身体に覚えさせます。

股関節を畳むと、太ももから膝までの部分が近付き、擦れるまで近付きます。これを「磨脛(まけい)」状態と呼びます。後退スライド時は、翻身旋法によって磨脛の状態の中、キレよく斜め後方転身を行います。

腰を回転させて後方を向くと、転身半径が大きくなり、転身に要する時間が長くなります。加えて、差し出す手の軌道が大円軌道となり、敵に手の軌道を見切られやすくなります。

腰を回転させて転身すると、腰の回転分敵に近づき、敵の力のベクトルに向かう形となり、敵と接触しやすくなり、力で押し込まれる可能性を高めます。

翻身旋法を守ると、後退スライド動作中、常に敵から離れる方向へ移動できるため、敵の力にぶつかることなく、撤退戦を行うことができるのです。

翻身旋法は、上記の基本姿勢を採り、身体の重心がリラックスした状態で下腹部上に乗っている状態で、かつ足が少し曲がっている状態、を意識すると行いやすいでしょう。

技術解説5・移動防御法(1):敵に背を向けない後退スライド(内転翻身斜め後方スライド撤退戦対敵身法)

 

敵に背を向けない後退スライド~基本型練習で動作を覚える

後退スライド時の運足方法を学んだら、いよいよ次は、本護身術の中核技法たる、「敵に背を向けない後退スライド」を練習していきましょう。

ここでは、動作がシンプルで初心者でも行いやすく、それでいて熟練者も頼りにする、「推磨掌転掌式(すいましょうてんしょうしき)」を用います。

「転掌式」とは、敵のいないところに移動している最中に、斜め後方や側面から迫ってきた敵に、移動の速さ・勢いを落とさずに一瞬でやりすごす、八卦掌の最重要中核技法のこと。

敵に背を向けない後退スライド・要点と動作・練習の仕方

推磨掌転掌式は、後退スライド対敵身法の代表的な技であり、八卦掌の原点「単換掌(たんかんしょう)」のシンプル版でもある主要技です。弊門で最も最初に指導する技であるが、後々までも多用する実績技であります。弊門一番弟子をはじめ、多くの門弟が、この技で危機やトラブルと回避しています。

推磨掌転掌式は、敵に背を向けないで、自分の胸前で対処する後退スライドの代表的技となります。動作が大きく、繰出す軌道がシンプルで割と直線的なため、初心者にとっても大変練習しやすい技です。

後退スライドしなが敵方向に手を出して攻撃軌道をふさぎ、すかさず反対側の肩を入れけん制しながらスライドして敵から距離を遠ざけます。

カニのような「横歩き」や、まっすぐ後方へ下がる「退歩」移動では、追撃する敵の速さに負け、押し込まれてしまいます。

後退しながらも、前方向移動のベクトルを後退スライド法で保つことで、勢いをさほど落とさずに敵中を駆け抜けつづけることができるのです。

敵に背を向けない後退スライド・スロー解説で真似てみましょう

ショウ泥歩で旋回しながら、後方から敵が迫ってくるイメージを強く持ちましょう。

敵が一気に距離を縮めてきたと仮定したら、斜め後方へ移動しながら手を差し、すぐさま肩を入れながらその手の手刀部を敵に押し出します。

押し出したと同時に完全に身体を転換し、先ほどの旋回と反対側の円孤上を歩き出します。

敵に背を向けない後退スライド・実戦化練習~弱者護身の極意「対強者・対多人数入身法」で行い実戦へつなげる

敵の接近に際する手だし動作

基本型で、「敵に背を向けない後退スライド」の動作を覚えた後は、敵の突進を交わして防ぐための、実戦直結の「基本型」練習をしていきます。

後で行う「対人想定練習」も含めた全ての練習の中で、この練習を最も取り組んでもらいたい。迫る敵のイメージさえ持つことができれば、一人でいくらでも練習できるのが最大の利点です。膨大な繰り返しを重ねれば、人を使った対人練習ができない環境にある人であっても、有事の際に無意識に回避行動ができるようになります。

敵が一気に距離を縮めてきたと仮定したら、斜め後方へ移動しながら手を差し出します。スッと出すだけで良いのですが、この際、身体を入れず、手を出すだけであり、敵に当てようとする必要もない点は注意してください。

手を出す際に身体まで入れてしまうと、身体が敵に対して真正面に向くことになります。真正面に向いた状態で、敵が前に激しく突出してきたら、敵の突進の力のベクトルをまともに受け、押し込まれてしまうでしょう。

身体が入ってなければ、手出し動作の後に敵が強く突進して押し込んできて次の動作「肩を入れる動作」に入ることが出来なくても、そのまま後退スライドし、流しかわせばいいのです。攻撃はできないが、敵の突進のベクトルを自分からずらし離すことで「身を守る」という目的はしっかりと果たすことができます。闘牛士のような対処法をイメージしてください。

重要なことなので繰り返しますが「手を出す=敵に当てる」ではないのです。出した手は、敵の攻撃の手や敵の身体に当たらなくても全く問題がありません(むしろ「当たる」状態というのは、敵と距離が近いことを意味するため望ましくない)。

出した手が敵に当たる当たらない関係なく、次の入り身動作へと移っていきます。

手だし動作→入り身(肩入れ)による攻撃動作

手出し動作で出した手を引きながら、引き続き後退スライドしつつ、次の動作「入り身(肩入れ動作)」に入ります。

敵に向かって気持ち肩を先行して入れ、入れきった瞬間に、けん制攻撃の手をねじり込むが如くスッと敵方向へ伸ばします。肩は完全に入り、身体が開き切った状態となります。

この身法は対強者・対多人数を可能とする昔日の「入身法」であり、対多人数移動遊撃戦を採る清朝末式の八卦掌独特の要求であり、かつ、大変重要なポイントとなります。

肩を先行させ、肩を入れ切った瞬間に手を出すことで、自分の身体を後方へ逃がしながら攻撃します。つまり、「肩入れに伴う斜め後方敵に対する手出し」動作は、後方へのスライド回避開始の動作ともなっているのです。

この動作を行うと、出した手の起点たる肩は、思い切り開き切った状態となります。他の武術ではこの状態はNGですが、昔日の八卦掌は違います。

昔日の清末式の八卦掌は、強者の力とぶつからない(接触しない)ことを最善とする後退スライド武術であるため、けん制攻撃でも間合いが詰まらない打ち方が求められます。その打ち方が、肩を入れついでに打つ打ち方なのです。肩を入れながら打つと、自分の身体には、入れついでに敵と反対側へ向かう力のベクトルが働きます。その力のベクトルを利用して「打ち去り」をするのです。

「打ち去り」をすることで、敵から自分へとつながる攻撃軌道上に、自分の入り身した肩と手が入るため、敵の攻撃を妨げることになります。それが「防御」の役割を果たすのです。

つまり、「敵の攻撃軌道上に、自分の入り身した肩と手を入れる防御」と、「入り身しながら後退スライドして敵から離れる防御」の2つの防御で、敵の攻撃の都度自分の身体に攻撃が当たることを防ぎ、離脱のチャンスが訪れるまでもちこたえ、生存することを目指すのです。

技術解説6:移動防御法(2)・敵に一瞬背を向ける後退スライド(外転翻身斜め後方スライド撤退戦対敵身法)

敵に一瞬背を向けて思い切り後退スライドするのが「外転翻身斜め後方スライド」となります。主に用いるのが陰陽魚掌転掌式(いんようぎょしょうてんしょうしき)です(※名称は参考程度で構いません)。

敵が複数人で、一気に襲い掛かってきたとき、その場からとにかく離脱する必要があります。もしくは、後方から迫る敵に不意に間合いを詰められ手を出すことができない場合があります。その際に、身体だけをとりあえずその場から引き離す必要があります。

もしくは、大きな円を描いて旋回移動している最中に急に向きを変えたい時、陰陽魚掌転掌式の身体操作法に従い、身をひるがえして敵の予測している進行方向の裏をかき、引き離す。

陰陽魚掌転掌式は、移動遊撃戦を採る八卦掌において、欠かすことのできない身体操作法であることがお分かりでしょう。

敵に一瞬背を向ける後退スライド・基本型練習で動作を覚える

この欠かすことのできない身体操作法には、敵に背を向けて身体を移動させる八卦掌の3大身法のひとつである、急速転身の身法 「外転翻身法」を利用します。そして、力の発し方は、扣擺発力(こうはいはつりょく)翻身発力(ほんしんはつりょく)の順で力を出して、一つの場所にとどまらず、移動し続けていきます(転身の最中でも、一切移動を止めない、ということ)。

この転掌式によって勢いよくその場から離脱することで、今の場所よりも安全な領域へと一気に自分の身体を移動させることができます。斜め後方スライド動作に入る前に一瞬敵に背を向け回る遠心力を利用して身体をくるっと回し、その後スライド動作に入ることで、滑らかに大胆に、敵の予測を裏切ることができるのです。

勢いよくその場から離脱する方法を身につけるため、最初は大きく振りかぶって後退スライドしましょう。慣れたら、振りかぶり動作なしでの後退スライド技法も練習していきましょう。

後ろから来る敵をとりあえず振り払わなければならない場合とは、一人ではなく「複数人に追われている場合」です。

複数人に追われて追いつかれそうな時、内転翻身斜め後方スライドでは対処が心もとない。内転翻身斜め後方スライドは、今まさに到達しそうな敵が一人である場合のスライド身法だからです。

外転翻身斜め後方スライドは、スライド始動時の動作の意表性も相まって、今まさに迫っている危機的状況をゼロリセットすることが可能なスケールの大きい身法となります。

外転翻身で一瞬敵との間合いを空け、スライドしながら悠然と大きく、相手に向けてサッと手をだせばいいのです(当てる必要もなく、ただ手を出せばよい。運よく当たる場合もあるし、当たらなくとも、相手の動きを止めることができる)。

一人練習をする際は、必ず、迫りくる敵のイメージを頭に持つこと。外転翻身してから後退スライドする際、自分を追ってくる敵を想定し、その敵に対し下がりながらけん制攻撃を放ちます。

外転翻身での一瞬離脱~斜め後方スライドまで下がりながら行うこと。敵の力のベクトルに対しぶつかってないのに、攻撃時だけ敵に向かうことで力がぶつかっている人がいます。弱者使用前提の清朝末式八卦掌をせっかく練習しているのだから、ここは最後まで、敵の力に抗しないで戦う心構えを持ちましょう。

敵と力がぶつかることで生じるデメリットについて、少し触れておきましょう。体格差等の影響を受け、その敵に時間がとられ移動遊撃戦ができない、などの明確なデメリットが生じます。よって女性の八卦掌修行者は、より一層「下がりながら対敵」を意識して練習するといいでしょう。

スローで見てみましょう。

ショウ泥歩で旋回しながら、複数の敵が後方から迫っているイメージを持ちます。

敵が一気に距離を縮めてきたと仮定したら、円の外側の手を頭上に持ち上げて身をひるがえし、持ち上げた手を背中の後ろに移動させながら、もう片方の手を頭の上を回して顔前に推し出していきます。

顔前に推し出しながら今まで回っていた円を外れ、反対回りに向きを変えて再び旋回動作に入ります。

単換掌解説2:単換掌の練習型解説

単換掌は、円軌道を旋回している状態から発する練習型と、直線軌道を直進した状態から発する練習型に分かれる。

近代格闘術八卦掌の単換掌は、円軌道旋回練習型のみであるが、転掌式八卦掌は、縦横無尽に移動し続け、移動速度によって防御し攻撃する戦闘スタイルのため、直線軌道直進型の練習を重視する。

各練習における共通の重要項目

直線軌道直進型練習

円軌道旋回型練習は、旋回行動時の練習法である。これに対し、直線軌道直進型練習は、言い寄ってきた敵から先んじて素早く移動し突き放し、もしくは、多人数線渦中において、斜め後方スライドして引き離しつつけん制虚打によって敵の足を止める対処法であると、まず覚えておこう。

直線軌道直進型練習では、速く移動する練習もたくさん行う。緒戦(戦いの始め)においてわずかの移動歩数で勢(スピード)を出す際の練習として有効である。勢さえ出してしまえば、あとは身体移動の慣性による速度を利用して、転身・斜め後方スライドを自在に行うことができるからだ。

複数人の敵と対する際、旋回して敵の集団の外に居続けることは理想であるが、旋回にも速度が出にくいなどの欠点がある。また、戦いの帰趨により、敵中にて我が身を処する場合もある。その際、移動速度の出にくい旋回軌道ではなく、直線軌道直進型練習によって得た技術を用いる。

旋回行動時は、すでに単換掌を発するためのちょうどいい角度が付いているため、流れで斜め後方スライドもしやすい。しかし直線軌道直進型の際は、移動し始めで勢がついていない場合もあり、かつ直線に進んでいるため、キレよく斜め後方スライドへつなげる必要がある。つまり翻身旋による無駄のない運足がカギとなる。

直線軌道直進型は

の流れで主に練習していく。

「旋回→直進→単換掌」で練習する場合は、(6)の翻身拍打を打つまで行うが、「直進→単換掌→直進」の型練習のように、長い道路などでほぼ一直線で練習する際は、(6)までは行わない。

直線軌道上を直進している状態から、斜め後方の敵に手を差し出す。つまり旋回時練習と違って、我の身体をより一層、敵に向ける必要がある。翻身旋による斜め後方スライドの洗練化がされてなければ、敵の接近攻撃時に、運足速度が間に合わないなどのもつれ・遅れを生じてしまう。

緒戦の場合、速歩し始めてから数歩の間で、より速い移動速度を出す必要がある。その時重要なのが、磨脛(まけい)状態の中で、進歩する足のつま先を真っすぐに出すことである。

出す足が外に向いていると、「がに股」の状態で脚が進むことになり、直線軌道上を左右に力が逃げながら移動するため、速度が出しにくい。必ず、着地時のつま先が内を向くくらい、まっすぐに出すことである。「八卦掌は内股の拳法である」とよく言われるが、それは運足効率を念頭に置いた動作要求の一つなのである。

これは多人数戦時における敵渦中でも徹底すること。敵渦中においては、急速に移動方向を変えることがある。その際、つま先が開きがに股であると、足の内側同士が接せず、最小軌道による斜め後方スライドができない。

翻身旋理が上手く行われ、磨脛が実現されており、出した手が刀裏背走の理によって身体に添わされている状態ならば、キレよく敵前から、我が身体を引き抜いてスライド回避しつつ、けん制の虚打穿掌を放つことができる。

直線軌道上移動時の斜め後方スライド開始も、つま先をまっすぐ出して移動しはじめる動作も、日常生活中で体験する機会がないため、実行しづらいはずだ。

何度も繰り返すこと。そうすること、直線機動進行時、素早く斜め後方が向け、かつ、戦いはじめの時一気に突き放し、後の流れを練習時と同じように行うことができるのである。

円軌道旋回型練習

円軌道旋回型練習は、多人数戦時、追跡してくる敵から旋回行動で回避している最中に、円軌道の内側から迫る敵に対処する練習法となる。

一人で練習する際は、斜め後方から迫る敵を想定して練習をする。前方敵接近に際し斜め後退スライドすることも状況によってはある(前方敵へは、前敵スライド回避攻撃対敵身法・順勢掌の術理で対応する)。

しかし単換掌の術理が想定している敵というのは、原則斜め後方である。ここでは、斜め後方敵への対応について説明する。

どの場合においても

の流れが最も多用するパターンとなる。

もっともオーソドックスな想定パターンであり、習得の出発点でもあるため、ここでしっかりと以上の流れを理解しておくこと。この形で練習を重ねると、転掌式八卦掌入門当時から教えられてきた基本技の意味が分かってくる。

なぜ近代格闘術八卦掌の走圏においては、横目で見ながらでも円の中心に視線を向ける練習をさせられたのか?それは(わずかに)斜め前方から来る敵を想定していたから。

対して、転掌式八卦掌では、円の中心に顔を向けることはしない。顔をまっすぐ向けた状態で移動する中で、技を繰り出し、急速転身したりする技法を学ぶ。

小さな円軌道の旋回時であれば、敵は斜め後ろから視界に入ってくる。その敵に対し手先行で振りかえりつつ手を出すことで、敵の足を少し止めることができる。

大きな円軌道の旋回時であれば、敵が我の視界に入るよりも早く、敵の気配・息づかいを感じる。その気配もしくは音のする方向へ、サッと手を出す。この際も「見えてない」のだから、敵の姿を確認するのは後回しにして、サッサと手を出すことである。

小円・大円軌道のこれらの対処法は、顔を真っすぐに向けて動かさないで移動しているから、大きく2つに分けることができる。頭を敵の都合でその都度動かしていたら、対処法は格段に増えてしまう。

対敵イメージ走圏とは、顔をまっすぐ向けて移動している中で、多人数の敵に対処するための訓練法なのである。

まずニュートラルな状態をしっかりと定めて体軸を安定させ、そこに極力シンプルな対処法を抽出し極め土台とし、その土台に変化型を少しだけ参考程度に作っておく。これは、修行期間の短さを要求された昔日の武術「転掌」の宿命なのである。

そのニュートラルな状態で、敵の接近してくる意識や感覚を肌で感じ取る練習を重ねることで、不意に迫る敵に対しても瞬時に間合いをとったり、けん制攻撃を撃ったりすることが出来るようになり、常に安全圏に我が身を置くことができ、生存時間を長くすることができる。

不意に迫る敵・急速接近して攻撃してくる敵に対するこれらの素手による対処法の代表的な動き(行動法)が、「単換掌」なのである。だから素手攻防における大基本技となっているのである。

「最低限の時間で仕上げる」ための毎日の練習方法

技術解説に入る前に、各技術解説で示した技・身体操作法練習を、どのように学習していくか。最低限の時間で仕上げるためには、動作・術理・基礎持久力を総合的に鍛えることができる効率的な練習方法に、限られた時間時間を集中することです。

近代八卦掌であれば、走圏を、ゆっくり低い姿勢で、長く・・・・という練習をします(梁派)。このような練習は、走圏による姿勢や意識に多くの意識を割く練習であり、実戦渦中での動きの速さや、基礎持久力を養う練習とはなりません。最低限で仕上げるためには不向きな練習方法です。

そこで大きな円(八歩で一周・・は円半径が小さすぎる。そんなものにこだわらないこと。)上を、技術解説1の基本姿勢でほぼ直線に進んで旋回し、その中で、推磨掌転掌式を行って進行方向を変え、再び反対回りに旋回して推磨掌転掌式へ・・・を繰り返します。

どれだけ大きい円で練習するか。それは、その場所で目いっぱい周ることができる円で行うことです。旋回を感じないくらい大きな半径円で行うのがよいでしょう。

「八卦掌は円周上を回って戦う拳法」と勘違いしている修行者が実に多い。円周上を戦う?そんなことはない、と反論しても、よくよく動きを見ると、円軌道旋回にこだわり、知らずのうにち、円軌道戦闘スタイルの先行観念に取りつかれている。

旋回行動は、スピードの出にくい移動手段です。一番スピードが出て敵の射程圏内から身をそらせやすい移動法は、キレのある翻身旋をマスターしたうえで行われる斜め後方スライドです。

つまり、旋回行動による敵からの回避・振り切り行動は、実際の戦闘・対人練習において行わない手段となります。

円軌道上練習は、長い時間休まずに集中して運足練習や持久力向上トレーニングを行うことができる点に有効な練習ではあるが、移動の手段としては円軌道移動は、メインではない。よって、実際に戦闘の動きから離れてしまう練習を避けつつ持久力向上の練習を効率よく長く行うための工夫として、円軌道半径を出来る限り大きくして、円周上を移動していてもほぼ直線上を歩いている状態に近付け、実際の戦闘の動きに近づけるのです。

この練習を長時間、持続可能なペースを維持して行うならば、移動時の基本姿勢、構え方、移動時の敵に対する意識、目線の配り方、敵急接近時の転掌式による対敵身法、そして、移動遊撃戦を長時間戦い抜くことができる基礎持久力同時に養うことができます。

扣歩・ハイ歩・退歩の連動練習は、練習開始時の準備体操(回肩功・伸肩功・推磨式基本功を行う準備基本功のこと)の中で行いましょう。円旋回と転掌式による方向転換の中で、自然と扣歩・擺歩は練習することになります。

「最低限の時間で仕上げる」ための一人で行う対人想定練習

敵に背を向けない後退スライド・対人想定練習

まず「敵に背を向けない(内転翻身)斜め後方スライド」の実際の攻防を知ってイメージを作る

対人想定練習を擦る前に、実際の攻防を見てみましょう。

内転翻身斜め後方スライド撤退戦の対敵身法は、主に旋回軌道の内側から迫る敵に対し、背を向けず、敵に身体の表側を半身で向けながらスライドして肩を入れ(入り身)、対処する対敵身法となります。

敵が急速接近し自分の身体に手が届きそうになったら、転掌式にて斜め後方スライドを開始し、身体(肩)を入れてけん制攻撃して敵の足を止め、反対周りの円弧に沿って旋回による回避行動を開始します。

この際、当てることにこだわり一人の敵前にとどまったり、大きな力でもって倒すために力を込めた攻撃をするためとどまったりしては危険です。敵に手をつかまれたりする可能性があるためです。

敵の急速接近時にのみサッと手を出しけん制することで、効率よく敵の足を止めることができます。清朝末式八卦掌の攻防は、「生存」が第一のため、これだけで十分なのです。

敵の追撃は一度で収まることはないため、攻撃は肩を入れた後ろ方向へのけん制攻撃に徹し、常に身体を逃しながら敵の居ない方向へと移動をし続けます。

この身法と、後述の外転翻身斜め後方スライド撤退戦対敵身法をその時の状況によってうまく使い分け、何度もかわし、敵の足が大きく止まり、距離が開いた瞬間に、ためらいなく、キロメートル単位の離脱を開始するのです。持久力が大変重要なことが分かります。

対人想定練習・良い例

目標物を敵に見立てて練習する対人想定練習の際は、必ず、目標物を通り過ぎてから後退スライドを開始すること。ここがもっとも重要です。手の出し方なんかは、実はさほど重要ではありません。

このポイントを守って練習すると、スライド開始と同時に差し出す手・その後のけん制攻撃の手、は目標物に当たりません。

その状態こそが「敵の力とぶつからない」技法の練習が正しく行われている状態なのです。

後退スライドする際、目標物に手が届かず、かつ、後退スライドで目標物が遠ざかっていく状態であることを常に確認しながら、練習をしていきます。実は、目標物を使った練習とは、自分が後退スライドしているか否かを、確認するための練習なのです。

大事なことなので繰り返します。敵の攻撃を防ぐ方法は、あくまで「後退スライドして後ろに下がること」です。手を出す練習をし始めると、途端に手技によって敵を防ごうとする意識が働くから要注意です。

練習の充実感を得たいため、目標物の手前もしくは横でスライドし始め、防御の手を目標物にぶつけているならば、冷静に己の動作を観察してください。あなたの身体は、後退スライドどころか、敵に身体を向かわせながら手を出しているのです。

対人想定練習・悪い例

”悪い例”の動画を見てください。

目標物に意図的に防御の手をぶつけること、それは敵の力のベクトルに向かっていることを意味します。そして、敵の攻撃が我に到達するまでの時間を早めていることにもなります。加えて、自ら向かうことで、敵の攻撃威力を増加させていることにもなるのです。

このような練習で敵に向かうクセをつけてしまっては、程よく遠慮しあう対人練習の時ですら、相手の攻撃をくらったりくらわなかったりと安定しなくなります。

何度も言いましょう。下がりながら手を出すだけ、なのです。手は、敵の突き(パンチ)が自分に届きそうな場合に、敵の突きの軌道上に出して、自分に当たらないようにするだけのイメージにとどめるのです。間違っても、出した手を無理に敵に当ててやろうなどと思わないことです。防御は、あくまで、自分が後退スライドすること。手技はおまけに過ぎない、と言ってもいいのです。

後退スライドの際に、自分の攻撃手を当てようとすると、最悪、敵に向かって自分の力のベクトルが働き、敵と力がぶつかります。敵と力がぶつかると、そこで移動推進力が遅くなり、その場にとどまることで、他の敵につかまったり、眼の前の敵の力任せの攻撃が自分に届いてしまったりします。

敵を倒そうとすると、特定の敵との攻防のやり取りが生じます。敵の眼の前での攻防は、急速転身や反転などの動作のオンパレードであるため、体力の消耗が激しく、体格・筋力で劣る女性には大変不利な戦い方となるのです。

後退スライドで、敵の再度の攻撃をやり過ごし、相手が疲れを見せた時や大きく引き離された時などの機を見て、一気にキロメートル単位で離脱すること。その戦い方を身につけることが、「最低限の時間で仕上げる女性護身術」の目指すところなのです。

敵に一瞬背を向ける後退スライド・対人想定練習

まず「敵に一瞬背を向ける(外転翻身)斜め後方スライド」の実際の攻防を知ってイメージを作る

敵に一瞬背を向ける後退スライドは、後方の様々な角度から迫る敵から身を守る身法です。主に、回っている円の外側の敵の攻撃の接近回避に使用します。

旋回時、敵に敵に背を向けて後退スライドして旋回方向を変えることで、わずかながら、敵の追撃の意表をつきます。

一回の後退スライドだけで追撃を振り切ることは難しいのですが、敵は旋回方向の変化に急に対応することで体力と戦意を奪われるため、何度も繰り返すならば敵の息を上げ、離脱のチャンスを作り出すことにつながるのです。

敵に背を向けて後退スライドすることで、急な追撃軌道の変化に慌てて焦って迫った敵に不意打ちけん制攻撃を行い足を止め、後の追撃をためらわせることも可能となります。

後退スライド時、キレのある「翻身旋法」と「刀裏背走(とうりはいそう)」理によって、旋回方向を変えても速度を保ち続け、生存につなげていきます。

対人想定練習をする際は、敵に背を向けない後退スライドの場合と同じく、後方の多方面より迫りくる敵のイメージを頭に持ちます。

目標物を通り過ぎてから、敵の手を下から引っかけるイメージで目標物側の手を上に引き上げ、振りかぶって身をひるがえします。目標物を通り過ぎてから行うよう心掛けるのも、背を向けない後退スライドと同じ練習要領となります。

手を引き上げ転身する動作は、刀を「持ち上げ斬り」し、上げた刀の下をくぐりながら後退スライドして上げた刀を下ろして攻撃する、単換刀の中核術理「刀裏背走」をもとにしています。

八卦掌は、清朝末期の太平天国の乱頃の、戦場藤牌(とうはい)刀術(藤製の盾を持った刀武装の歩兵のこと)をもとにした拳法。刀の動きが、ふんだんに盛り込まれています。

旋回の最中に行う後退スライド対人想定練習では、まず、「振りかぶった後、後方から迫る敵を引き離すために旋回の進行方向を変える練習」に取り組みます。

本来の清朝末式八卦掌では、その動きにある程度慣れたら、今度は、前方に敵がいる場面に対処するため、単招式の遊歩連捶のような電撃戦につなげる練習を行っていきます。しかし「最低限の時間で仕上げる女性護身術」では、己の護身を最優先するため、とにかくここで伝授したふたつの後退スライド技法を磨き続けるのです。

女性護身術科の開講情報(開催場所・開催日時)

2024年度女性護身術科・石川教室(来季の「金沢女性本科」)の開催場所・開催日時

開催日時

2025年3月15日(土)、金沢女性本科(仮称)開催に先立ち、2024年に試験的に女性護身術科を北陸地方で開催します。

2024年度は、2025年開催を控えた年として、北陸地方での女性本科を以下の日に、試験的に開催します。水式門で指導する八卦掌は、他の八卦掌道場と内容から目的までも含め一線を画す内容であるため、志願者が少ない傾向にあるからです。

  • 10月5日(土・10:00~12:00)
  • 11月2日(土・10:00~12:00)
  • 11月30日(土・10:00~12:00)

例え入門申請者が一人であっても、転掌式八卦掌の内容を理解し「やってみたい」という方がひとりでもおられるならば、八卦掌水式門はその真髄を誠実にお伝えします

開催場所

石川県金沢市の大和町広場にて開催します。※小雨決行。場所は開催日ごとで変わる場合があります。過去に、北部公園など。

弊門伝承の転掌式八卦掌は、徹底した移動遊撃戦を採る移動戦術拳法であるため、身体移動制御能力の未達な初学者であるほど、カルチャーセンターなどの狭い室内では、接触事故が発生する危険が高まります。

また、昔日の八卦掌は、一打ごとに歩数を多く刻むことで防御と攻撃を成功させる拳法となります。初学のうちは、歩数を意図的に多く取ることで、転掌式八卦掌の真髄を追体験する必要があります。狭い室内ですと、追体験をすることができません。

よって指導は一貫して屋外開催となります。ご了承ください。

屋外ですので、日焼け対策・暑さ寒さ対策・熱中症対策等は各自忘れずにしてきてください。※特に、熱中症対策を怠った方の参加は、お断りする場合があります。

2024年度女性護身術科・富山教室(来季の「金沢女性本科」)の開催場所・開催日時

開催日時

2025年3月15日(土)、金沢女性本科(仮称)開催に先立ち、2024年に試験的に女性護身術科を北陸地方で開催します。その一環として、小矢部市と金沢市にて開催いたします。日時は以下の通りです。

  • 10月5日(土・14:30~16:30)
  • 11月2日(土・14:30~16:30)
  • 11月30日(土・14:30~16:30)

富山は、八卦掌水式門発祥の地です。弊門の掌継人は皆女性であり、かつ、そのほとんどが富山県出身者となります。2025年の女性本科は、その拠点を金沢としますが、参加状況により富山でも指導の場を持つことを考えていますので、ふるってご参加ください。

開催場所

富山県小矢部市のクロスランドおやべ交流広場にて開催しております。※雨天時は、クロスランドセンターの軒下等に変更します。

屋外での開催にこだわる理由は、上記石川教室における理由説明を参照にしてください。クロスランドおやべは、芝生広場が大変大きいため接触事故も少なく、講習会等を頻繁に開催する場所となっています。

愛知教室の開催場所・開催日時

開催日時

9月5日(木・10:30~12:30)

9月7日(土・10:00~12:00)

9月19日(木・10:30~12:30)

9月21日(土・10:00~12:00)

9月26日(木・10:00~12:00)

開催場所

愛知県刈谷市築地町の刈谷市総合運動公園のバス停横芝生広場にて開催しております。※雨天時は、ウィングアリーナの軒下等に変更します。

弊門伝承の転掌式八卦掌は、徹底した移動遊撃戦を採る移動戦術拳法であるため、ダンススタジオ・カルチャーセンターなどの狭い室内では、接触事故が発生する危険があります。よって指導は一貫して屋外開催となります。

屋外ですので、日焼け対策・暑さ寒さ対策・熱中症対策等は各自忘れずにしてきてください。熱中症対策を怠った場合の参加は、お断りする場合があります。

各開催場の料金体系

2024年石川・富山・愛知開催教室の料金体系

2024年度一回定額制

入門費:無料

年会費:無料

一 回:2,200円(税込)

銀行名  :三菱UFJ銀行

支店名  :知立(ちりゅう)支店 店番号 412

預金種別 :普通口座

口座番号 :1213489

口座名義人:ミズノ ヨシト

※来季より、女性本科は月謝制(月4,400円・税込)を採用します。

※練習参加の際は、出席を希望する本科開催日の3日前の正午(12:00)までに「○○日参加します」と「shiroikukmoajisai@gmail.com」までメールで連絡すること。※予定を入れるため。

※練習会の開始前に、必ずお釣りのない形で現金で手渡すこと。もしくはあらかじめ、上記口座に振込むこと。後日支払いには応じない。支払いをしない者には、例外なく指導しない。

※八卦掌水式門に責のない理由・門下生の事情により、その月に一回も練習に参加しなくても、月謝は返金しない。

※休会する場合は、必ず25日までに、「来月休会します」と「shiroikukmoajisai@gmail.com」までにメールで連絡すること。連絡しない場合、月謝の免除はない。

※休会・復会を複数回繰り返す者は、月謝制門下生を取り消す。以後は一回定額制で参加すること。

※講師の都合による開催取りやめ以外では、払い戻しは行われない。

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9.八卦掌水式門・女性修了生の声~「弱者生存の護衛護身術を極めたい方へ。昔日(清王朝末期頃)の八卦掌を伝える水野先生の道場」

石川県・30代女性・会社員・富山本科女性部修了門下生・八卦掌第7代掌継人

1.「単換掌の術理(単換掌理)」に貫かれた成立当初(清王朝末期頃)の八卦掌を追求し指導する、国内でまれな八卦掌家・水野先生

石川県・遠隔地門下生

八卦掌水式門は、成立当初(清王朝末期頃)の「単換掌の術理(単換掌理)」に貫かれた生存第一の八卦掌を指導する、国内で数少ない八卦掌伝統門です。

八卦掌第6代の水野先生の伝える八卦掌は、敵前変化攻防の近代スタイル八卦掌が主流となっている潮流において、対多人数移動遊撃戦による撤退戦を貫いた異色の存在となっています。

先生の伝える八卦掌の最大の特徴は、やっぱり、「単換掌の術理(水式門で先生は、「単換掌理」と呼んで指導しています)」に徹している点。

「単換掌理」とは、敵と接触を極力さけ、敵の力とぶつからない方向へ移動しながら対敵対応をする術理です。間合いを取り、逃げることを正当な戦法とし、力がぶつからないため、女性やお子さん・お年を召した方にとって最も現実的な護身術となっています(※よって水式門では、私を含め、女性の修了者さんが多いです)。

単換掌理を理解するには、修行の初期段階に、掌理に熟練した指導者による対面での練習を通して対敵イメージをしっかりと構築することが必要不可欠、だと先生は言います。

「単換掌理系の技は、対人走圏で養った移動による間合い取りと、敵の引きつけ引き込み技術、転身技術とで実行する技。現実的で明確な敵のイメージを持って練習しないと、実戦でとまどうことになる」は先生の口癖ですね。

相手の侵入してくる角度や強度、そして敵動作に対する自分の身体の使い方を、先生の技を受け、または先生に試し打ち(!)をしながら自ら身体を動かして学んでいく必要があります。それは初心者には果たせない役割。水式門では、先生がいつも相手をしてくれるし、新しい技を始動するとき、使い方もしっかりと見せてくれるから、一人の練習の時でも、イメージが残るんです。

よって最初から全く一人で行うことは、リアルな敵のイメージが分からない点から、大変難しいものとなります。この問題は、私がこの場で、先生の指導を受けたほうがといいと強くすすめる理由となっています。

私も遠隔地門下生。先生が富山に来たときは、集中的に相手になってもらいました。石川県という遠くであっても、先生の教え方のおかげで、ブレずにここまで来ることができました。

単換掌理に基づいた弱者生存第一の八卦掌を指導する八卦掌の教室は、全国にほとんどありません(それか、公にしていません)。弱者使用前提がゆえの現実的方法で自分を守る武術に興味がある方。力任せの攻撃にも負けない八卦掌を極めたいと思う方は、水式門の扉を叩いてください。水式門なら確実に、弱気が生き残るための技術を学ぶことができます

2.八卦掌水式門は、入門審査のある純然たる「伝統門」道場ゆえ、単なる護身術で終わらない。未来は八卦掌後継者としての未来もあり。

八卦掌水式門は、代表である水野先生が、八卦掌第5代(梁派八卦掌第4代伝人)である師より指導許可を受けて門を開いた、純然たる「伝統門」です。それゆえ、入門資格を満たしているかを判断する入門審査(問いあわせ~体験までの態度を見ての総合判断)を、入門希望者すべての方に例外なく行っております。もちろん私も受けたうえで入りました。

水野先生が指導する八卦掌は、護身術であれど、一部に当然殺傷技法が伝えられ、昔の中国拳法と同じく実戦色が強い八卦掌。誰それ構わず指導することはいたしません。

特に先生は、拳法を始めた動機も真剣。自分を律することができない人間に伝えてしまい、それで人が傷つけられてしまう事態を招くことを、心から心配しています。

よって、以下で掲げてある「入門資格」を満たした人間だと判断した場合にのみ、先生は受け継いだ技法をお伝えしています。「八卦掌の伝統門として、門が負うべき当然の義務と配慮」。これも先生が常に話す口癖ですね。

水式門には『弱者生存の理で貫かれた護衛護身術「八卦掌」を日本全国各所に広め、誰もが、大切な人・自分を守る技術を学ぶことができる環境を創る』という揺るぎない理念があります。

先ほども触れたように、己を律することのできない人間に伝えてしまうことは、技法が濫用され第三者が傷つく事態を招き、理念実現に真っ向から反する結果を生んでしまいます。

水野先生は、門入口を無条件に開放して指導し門を大きくすることより、たとえ審査を設けて応募を敬遠されたとしても、少なからずいる暴力的・非常識な人間に伝わってしまう事態を避けることを重視しています。

ここまで書くと、なかなか入ることのできない難しい道場だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。審査はありますが、一般的な常識と礼節、思いやりがあれば、心配する必要は全くありません

指導を受けてみれば分かるのですが、先生はいつも、門下生のことを考え、熱心に指導してくれ、怒鳴ったりもなく、笑顔です。安心してください(無礼な態度にはわけへだてなく厳しいですよ)。

審査を通過した正式門下生には、「誰もが大切な人、自分を守ることができる八卦掌」の全てを、丁寧に、熱心に。真剣に教えてくれます。迷ってるあなた、ぜひいっしょに仲間になりませんか。先生の温かい指導で、いっしょに強くなりましょう。

愛知県・60代女性・主婦・女性護身術科修了門下生・八卦掌第7代掌継人

亭主の勧めもあり、参加した教室でした。武道なんてのは初めてでしたが、練習相手も、先生や亭主がいたため困らず、それが良かったと思います。

とにかく褒めてくれるので、先生の言ってる「7代目」が、いつでもリアルに感じられて、それが継続につながりましたね。無事卒業できました。

仕事がら、周りに護身術など興味を持っている人もいるので、勧めてみたい教室です。

ただ、健康志向という点では、少しずれているかもしれません。実用重視の方にはいいでしょうが。あと、実際に使うには、日頃のジョギングも必要?